看護実践情報

都道府県看護協会の取り組み

更新日:2020年10月21日

きめ細やかな復職支援で潜在看護職をサポート

愛媛県看護協会副会長/愛媛県ナースセンター長 立川妃都美さん

難しかった新型コロナウイルス感染症対応へのマッチング

新型コロナウイルス感染症の累計陽性者数が115人と、全国でも7番目に少ない数で推移している愛媛県(10月7日現在)。それでも4月初旬には連日、陽性者が確認され流行の兆しがあった。

愛媛県ナースセンターのスタッフ画像(右から3番目が立川さん)
愛媛県ナースセンターのスタッフ
(右から3番目が立川さん)

愛媛県ナースセンターでは、登録者1,355人に復職を呼び掛ける一斉メールを送信し、同センターのウェブサイトでも告知したところ「新型コロナウイルス感染症に関連した求人はないか」「ブランクがあるけど何か役に立ちたい」「今は医療現場にはいないが看護職として自分にできることはないか」など、さまざまな声が寄せられた。5月までに計20人の申し出があった。

しかし「実際のマッチングには、越えなければならないハードルがいくつもあった」と同ナースセンター長の立川妃都美さんは振り返る。

例えば4月中旬、愛媛県から軽症者宿泊療養施設の求人依頼があったが、正式な「求人票」が県からなかなか出てこない。無料職業紹介所として「求人票による処遇等の提示は必須です」と伝えても、県は「まず県内の医療機関に勤務している看護職への協力依頼が優先される。それで、不足するところを潜在看護師さんに補ってもらう」とのスタンスで正式に求人票として出されるまでに時間を要した。また、求人票だけでは読み切れない現場での感染対策や危険手当、万が一感染した場合の補償などの細かい詰めの作業が必要であった。

また申し出てくれた潜在看護師に対しても、離職期間や勤務歴、在職中どのような業務を担当したかなどを丁寧にヒアリングした。「派遣する人材は経験の豊富な看護師を」という県の要望もあり、本人の安全を守るためにも経験値を細かく情報収集した。

マッチングを進める中では家族の反対などの理由で断念せざるをえない潜在看護職もいて「通常の職業紹介とは全く違う難しさがあった」と立川さんはいう。

こうしたハードルを1つ1つ乗り越えた結果、最終的には離職1年以内、勤務歴30〜35年で看護管理者の経験もある潜在看護師3人とマッチングでき、軽症者宿泊療養施設に派遣され活躍した。うち1人はその後、県の入院調整コーディネートの仕事に就くなど、継続して新型コロナウイルス感染症への対応に従事している。

「モチベーションを維持するため」企画した研修が大盛況

新型コロナウイルス感染症については、その後3回にわたって県から軽症者施設やクラスター発生施設への求人依頼があったが、いったん出された求人が途中で取り下げられるなど混乱する事態もあった。さらに8月末から県内の感染者ゼロの状態が続いたためか、軽症者宿泊療養施設等での求人に対する申し込みがほとんどなくなり、立川さんたちは「このままでは、潜在看護職のモチベーションを保ち続けるのが難しい」と危機感をもった。

「専門家に聞く新型コロナウイルス感染症及びその対策」研修会の様子
「専門家に聞く新型コロナウイルス感染症及びその対策」
研修会(9月14日)

そこで9月、同ナースセンター主催の研修会を企画。「専門家に聞く新型コロナウイルス感染症及びその対策」と題して、感染制御が専門の医師に講師を依頼し、最新の知見やエビデンスに基づく感染対策、ワクチンの話などをしてもらった。

復職希望の看護職だけでなく、多くの人に聞いてもらいたいと広く呼び掛けたところ、現役の看護職や施設管理者など、50人の募集枠に100人以上が集まった。研修後のアンケートでは満足度100%で「エビデンスを確認できてよかった」「情勢に即した内容を今後もお願いしたい」と継続的な研修を要望する声が多く挙げられた。

「モチベーションを保つには刺激も必要かと思って企画したが、予想以上の反響だった。皆、モチベーションが下がっているわけではなく、さまざまな情報が報道で飛び交う中、正しい情報が分からず医療・介護の現場にいても不安を抱えていたということが分かった」と立川さん。

同ナースセンターでは、継続的に新型コロナウイルス感染症の情報提供を行うべく、11月には、愛媛県の行政担当者や、感染管理認定看護師、軽症者宿泊施設で勤務した看護職などの報告を含めた研修を企画。また通年で行っている「復職支援研修」にも感染対策の講習を入れたところ、すぐ定員に達したという。

安心安全を確保し、確実な復職支援を

立川さんは、コロナ禍におけるナースセンターの役割について「自分たちは、復職者の安全安心を確保し、周囲の家族、職場の方にも安心して『行ってこい』と言っていただくための環境をつくる必要がある」と強調する。

都市部に比べると感染者が少なかった愛媛県だが、逆に個人が特定されやすく、誹謗中傷につながることもあった。就業を希望する看護職の中にも「自分は働きたいが、新型コロナウイルス感染症の患者さんがいる病院や施設で働いていることを家族や周囲に知られたくない」という人が少なからずいたという。

「愛媛は、東京や大阪のように毎日数百人単位で感染者が出るわけではない。しかし未知の感染症に対して、医療者の疲弊感が強く、誹謗中傷があるのは同じ」と立川さん。さらに「何百人単位で登録してもらえる規模ではないが、その分一人一人きめ細やかなフォローとケアで、確実に実を結んでいけるよう、潜在看護職の復職を支援していく」と意欲を燃やしている。

(2020年9月30日取材)

院内クラスター発生施設の支援に奔走

東京都看護協会会長 山元恵子さん
同 新型コロナウイルス感染症対策プロジェクトチーム 縣智香子さん
寺岡征太郎さん

プロジェクトチーム中心に独自事業を立ち上げ

新型コロナウイルス感染症患者が国内で最も多い東京。8月には感染が再拡大し、累計陽性者数は2万2,019人にのぼっている(9月8日現在)。

東京都看護協会は、4月1日に「新型コロナウイルス感染症対策プロジェクトチーム」を立ち上げ、独自の取り組みに着手してきた。その数は代表的なものだけでも20を超える。といっても、これらが最初から「形」になっていたわけではない。「東京は流行の最中で、まさに緊急事態。走れるだけ走って、思いつくことをやっていくしかなかった」と山元恵子会長は振り返る。

中でもプロジェクトチームが強い危機感を持って臨んだのが、院内クラスターが発生した医療施設に対する支援だ。しかし、当初はどの病院で、どのくらいの規模の感染者が発生しているのかさえ、分からなかった。

院内クラスター発生施設の困窮

そこで、東京都看護協会では、職員がインターネットや報道から、感染者が出た医療機関や施設を一つ一つ調べ上げ、可能な場合は直接訪問して、現場の状況を確認、必要な支援などをヒアリングした。その結果、予想を超えた人手不足や物資不足、情報の混乱やスタッフのメンタルヘルスへの深刻な影響により現場が困窮している状況が明らかになってきた。

いったん院内クラスターが発生すると、感染者だけでなく、看護職をはじめ濃厚接触者となった多くの職員が、職場を離れることを余儀なくされる。その欠員に加え、派遣会社から派遣されていた看護職が引き上げられてしまう状況もあった。また、清掃業者やリネン業者、葬儀会社が病棟に入らなくなり、看護師長が職員のユニフォームの洗濯をせざるを得なくなったり、患者が亡くなっても納体袋がない、霊安室にご遺体を収容しきれないなどの事態が起きていた施設もあった。

「特に200床以下の小規模な医療機関の状況は深刻だった。感染管理認定看護師がいなかったり、応援を得られる関連病院がなかったりと状況は厳しかった。東京の医療機関の7割は200床以下。こうした施設に向けた支援が必要だということが分かってきた」(山元会長)。

最新の情報を週1回のWEB講座で配信

東京都看護協会「新型コロナウイルス感染症対策プロジェクト」Webサイト
東京都看護協会
「新型コロナウイルス感染症対策プロジェクト」
Webサイト

プロジェクトチームでは、こうした200床以下の医療機関を中心に、2つの独自支援を開始した。1つは、オンラインでの新型コロナウイルス感染症対策のミニ講座の配信、1つがクラスター発生施設への直接的な人的支援だ。

「新型コロナウイルス感染症対策のミニ講座」は、登録を希望した130の施設に対して配信するもので、4月21日から開始した。内容は、忙しい業務の合間でも視聴できるよう15分でワンテーマとし、「緊急時の個人防護具の最適な使用方法」や、政府や学会が出す「ガイドラインの改訂ポイント解説」など、国内外の最新の情報を盛り込んだ。

プロジェクトチームのアドバイザーである縣智香子さんは「感染管理認定看護師がいる大きな病院なら、自分の施設に必要な情報を収集して職員に伝えていくことができるが、小さい病院だとそこまで手が回らないし、必要な情報の探し方も難しい。信頼できる新しい情報を、その週の感染の動向や社会情勢も踏まえながら、内容を考えている」と話す。これまでに20を超えるテーマを配信し(9月29日現在)、定期的に質疑応答コーナーも設け、具体的なアドバイスも行っているという。

感染対策、看護管理、実働する看護職をセットで派遣

一方、院内クラスターが発生した施設に対する人的支援は、4月にクラスターが発生したA病院(173床)から始まった。A病院では患者・職員計92人が感染し、一時は病棟の看護職が半分以下となり当日の夜勤者が確保できないという状態だった。感染管理認定看護師は在籍しておらず、看護管理者も一時的に着任していなかったため、現場は困窮していたという。

東京都看護協会は、急きょ、プロジェクトチームの感染管理アドバイザーである縣さんと、師長経験がある同協会の職員を看護管理者として派遣した。また同協会は「東京都看護協会が全面的に支援します」と謳った上で、実働する看護職をナースバンクで募集した。その結果、5人が採用され現場に配属された。山元会長自身も何度も現場に出向いて支援に加わった。

外来が再開する7月まで、延べ3カ月にわたって感染対策の支援に入った縣さんは次のように話す。「クラスターが発生した医療機関は本当にダメージが大きく、外からの指摘や指導だけでは、立ち上がれないところもあると思う。だから支援としては、中に入って、同じ目線、同じ立場で一緒に対策を講じていくことが必要だった。一緒にラウンドして、こういう病棟の配置だから、動線はこうしようとか具体的な対策を現場のスタッフに提案し相談して決めた。物品もそこにあるもので、どう応用するかを一緒に考え対策を立て実行した。訪問しない日もメールでやり取りして相談に対応し、途切れないように支援を続けた」。

人間関係の構築が十分ではない段階で一から感染対策を指揮する難しさもあったが、看護管理者が一緒に応援に入ったことで、両輪で動けたという。

山元会長は「支援していて分かったのは、感染対策は実はマネジメントが重要だということ。トップマネジャーが初動段階で迅速に対応し、感染制御からスタッフの教育まで見られるか、それが感染の次の山をつくらないことにつながる。ところが、いったんクラスターが発生すると、管理者は、感染対策の指示だけなく、保健所や行政の会議へ提出する資料作成、院内の情報発信、スタッフのフォローなど、業務が何倍にもなる。そこを支援することが重要だった」と話す。

院内クラスター発生施設のメンタルヘルスの深刻さ

クラスター発生施設への派遣メンバーへ感謝状授受の様子
クラスター発生施設への派遣メンバーへ
感謝状を授与(2020年6月18日)

もう一つ、クラスター発生施設に対して、欠かせないと分かったのが、メンタルヘルスへの支援、特に看護管理者への支援だった。「看護管理者の話を聞いていると、毎日毎日、気を張り詰めている。スタッフを気遣って、自分のことは後回し、誰にも相談できない。うつ状態となり力が発揮できなくなる」(山元会長)。

そこで精神看護専門看護師の寺岡征太郎さんにプロジェクトチームに入ってもらい、2つのクラスター発生施設を数回にわたって訪問、電話やメールで継続的な支援を行った。寺岡さんは、「組織が混乱する中では、管理者自身が疲弊しているのは、よくあること」としたうえで、看護管理者の話をゆっくり聞いて、これまでのことや、やらなければならないことを自分なりに整理してもらえるように、心掛けたという。「スタッフケアは、結局は管理者支援でもある。特に今回は外部からのサポートなので、組織の要となる人へのサポートを通して、それがスタッフに浸透していくよう見据えながら、行った」(寺岡さん)

またクラスター発生施設のメンタルヘルスの特徴として、自宅待機となったスタッフと、勤務を続けていたスタッフとの間に溝ができ、新たなストレスの要因になるという状況が起こっていた。職場がぎくしゃくすることに加え、自分たちのせいで患者さんたちを苦しい状態に置いてしまったという強い自責感も、メンタルヘルスの不調をきたす要因となっていた。寺岡さんは復職者への声掛けを管理者に促し、スタッフたちの面談も行った。

経験を共有し、次の支援に生かす

このような直接的な支援の経験を基に、東京都看護協会では、今後もクラスター発生施設に対して迅速な人員支援ができるよう、急ピッチで仕組みを整えている。後に、国や日本看護協会からの支援もあり、具体的な支援のスキームは徐々に構築されている。

「新型コロナウイルス感染症からの学びと備え」をテーマに看護管理者座談会を行った様子
「新型コロナウイルス感染症からの学びと備え」
看護管理者座談会(2020年6月6日)

そうした中で、山元会長がこだわったのは、クラスター発生施設が経験したことを、次に発生した施設での支援に生かしてもらう仕組みだ。実際にクラスターを経験した病院の看護職を、新たなクラスター発生施設に短期で派遣したり、オンラインでの「ミニ講座」に、クラスター発生施設の看護管理者に出演してもらったり、管理者同士の座談会を開いて自身の体験を話してもらうなど行った。当事者にしか語ることのできない現場の苦労や思いが、時に涙ながらに率直に語られ、経験が共有されるとともに、施設同士、顔の見える関係ができ、ネットワークの構築にもつながっている。

今後に向けては、200床以下の施設を対象に、新たな教育研修も予定している。主任クラスを対象とする感染対策の基本を5日間程度で学べるコースは、オンデマンド配信で10月開始を予定している。また、すでに感染管理認定看護師の資格を持つ人及び前述のコースを修了した者を対象に、クラスター発生施設等へ外部から応援ができるよう、10日間のコースを新たに2021年1月から立ち上げる予定だ。

「外から支援したときに、どこを見て何から始めればいいかはノウハウが必要だ。また支援を受ける病院側にもある程度の知識があれば受援がうまくいく。押し付けではなく、相手の病院の実情にあわせた指導ができるように教育研修を行う予定だ」と山元会長は言う。

一度院内クラスターが発生すると、病院の経営も、看護職も何より患者が大きなダメージを受ける。だからこそ早期に支援し、少しでも立ち直りが早くできるように―。新型コロナウイルス感染症の終息が見えない中、秋以降のインフルエンザとの同時発生も見据え、着々と準備は進んでいる。

(2020年8月11日取材)