県外からの応援派遣

更新日:2020年3月18日

初の応援派遣 今後に向けた大きな一歩に

岩手県看護協会会長
及川吏智子さん
学校法人岩手医科大学医学部 医療安全学講座
講師 秋山直美さん

日本看護協会は2020年11月、特定の地域で新型コロナウイルスの感染が拡大し、当該地域を含む都道府県では看護職員の確保が困難な場合に、都道府県外からの看護職の応援派遣を行う仕組みを構築した。岩手県看護協会では、全国に先駆けてこの仕組みを用い、北海道の医療法人社団慶友会吉田病院に看護職の応援派遣を行った。

各所と調整し迅速な派遣を実現

これまで、独自の相談窓口の運営や県への要望活動などを行ってきた岩手県看護協会。及川吏智子会長を中心に、保健所の相談対応や疫学調査に携わる保健師、軽症者宿泊療養施設に勤務する看護職の確保にも取り組んできた。

一方、全国的に感染は広がり続け、各地でクラスターの発生数も増加。学校法人岩手医科大学医学部に勤める秋山直美さんが、吉田病院に関する報道を目にしたのは12月のことだった。勤務先に応援派遣の希望を伝えると、学生時代を過ごした北海道にある医療機関という縁や、年末年始で大学が休講に入るというタイミングも重なり、組織の理解を得ることができた。

これを受け、及川会長らは病院側と、現地での宿泊先や勤務時間、業務内容などの条件を確認し、北海道庁や北海道看護協会にも情報提供しながら調整を進めていった。こうして、12月20日から1月2日までの応援派遣が実現し、秋山さんは8時30分から17時まで病棟で患者へのケアや支援にあたることになった。不安もあったが、病院に到着すると、玄関では道看護協会の役員が出迎えてくれた。「すでにDMAT や自衛隊からの看護職も勤務しており、同院にも温かく迎え入れてくれる雰囲気がありました」と話す。かつて、東日本大震災で支援を受けた側の体験談を聞いたこともあり、まずは病院のカラーや職員の置かれている状況を理解するよう心掛けたという。

周囲と協力し感染対策や患者ケアを実施

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初の県外応援派遣に取り組んだ及川会長(右)と秋山さん

現場では、応援派遣先の感染管理認定看護師からも指導を受け感染対策を進めていった。医療用マスクの息苦しさや2重にしたガウンを着用してのケアに苦労しながらも、職員と互いに装備を確認し合って日々の業務を行った。夜、ホテルに帰りシャワーを浴びるまで気を抜けない毎日だったが、年末年始に続けて勤務した際には、職員から感謝の声をもらい「この時期に来た意味があったのでは」と語る。東京都看護協会から応援派遣に来ていた看護職とは、通常業務の合間に洗髪や足浴などの清潔ケアにも取り組んだ。感染対策のため病棟内の備品は制限されていたが、道具やケアの方法を工夫し、つかの間ではあるが患者に快適さを感じてもらうことができたという。

年が明け、岩手県に戻った秋山さんは、県看護協会が手配したPCR検査を受け、ホテル待機の後、1月12日に陰性が確認された。県看護協会は、本会との連絡票のやりとりや、応援派遣に係る費用の精算などを実施した。

及川会長は「初めての試みでしたが、今後は、事前に技術面の確認や支援を行い、期間中には定期的な体調確認をして、より安心して活動してもらえるような仕組みにしたい」と振り返る。北海道知事や道看護協会、吉田病院からは丁寧な礼状や感謝の電話が届き「地域医療を維持する一助になったのでは」と手ごたえを感じている。これから、応援派遣に関するプロセスを整理し、手順書の作成などに役立てるつもりだ。また、秋山さんは「職場や家族のほか、及川会長からも期間中に体調を気遣う連絡をもらった。さまざまな理解や支援があっての応援派遣です」と話し、「職場へのフィードバックがあると、ほかの看護職も応じやすいのでは」と見る。今回の取り組みは、組織や立場を超え、今後に向けた大きな一歩となった。

(2021年3月15日確認)

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