軽症者施設における活動

    更新日:2020年6月25日

    新型コロナウイルス感染症の拡大による医療崩壊を防ぐため、新たに軽症者宿泊施設が導入されました。大阪府看護協会は、府の要請を受けホテルでの健康管理業務を一括受託し、福井県では、急速な感染拡大に伴い県職員として採用された感染管理認定看護師が施設運営に奔走した。

    ”軽症者宿泊施設は私たちが引き受ける”〜復職を申し出た238人の潜在看護師たち〜

    大阪府看護協会 高橋弘枝会長

    1,500床の軽症者施設――「看護協会がやらずに誰がやる」

    新型コロナウイルス感染症の拡大による医療崩壊を防ぐため、新たに導入された軽症者宿泊施設。ホテルや研修所に看護師が常駐し、24時間体制で健康管理を行う。

    大阪府では3月下旬から感染者数が増え始め、4月に入ってからは連日100人に迫る人数の新規感染者が判明していた。「医療崩壊を防ぐために1,500床の軽症者宿泊施設を整備したい」という相談を府から受けた高橋弘枝会長は「これはまさにナーシングホームの運営だ」と思った。欧米で広がるナーシングホームは、看護師が主体となって患者さんをケアする施設だ。「これを看護協会がやらないで誰がやるんだ」と職員たちも賛同し、思い切って看護師の募集・派遣だけではなく、ホテルとPCRセンターでの健康管理業務を一手に引き受けることにした。

    予想を超える反響 手を挙げた潜在看護師たち

    防護服着用の様子
    防護服着用のオリエンテーションの様子

    とはいえ、それだけの患者に対応する数の看護師を集められるのかは未知数だった。どの施設でも人が足りずひっ迫している。果たして自分たちだけで集められるだろうか――。

    一方で、高橋会長らの脳裏には「これを潜在看護師たちに現場に戻ってもらうチャンスにしたい」との思いがあった。協会のWebサイトで、自らの言葉で「宿泊療養対応ナース募集」を呼び掛けると、想定を大きく超える238人の応募があった。

    「本当に反響がすごくて。海外から一時帰国されたJICAで活動されている方や、大学院生、結婚後に休んでいた方、定年後の方……。次々に声を上げてくれて本当にありがたかった。このことで大阪府も医師会も、看護師のことは看護協会でないとあかん、と信頼してくれるようになった」(高橋会長)。

    看護師が“満足して”働ける環境をつくる

    府協会で一括して業務を受託したことで、運営上もさまざまな工夫をすることができた。「看護師が安全、安心そして満足して働けるような環境をつくること、それが患者さんの安全、安心につながる」との信念から、非常勤職員として日当5万円で採用し、個人防護具の着脱も含めた感染対策のオリエンテーションを行って派遣した。

    難しかったのは軽症者施設での看護が、病棟での看護と全く違うことだった。

    「患者さんのそばで、話して触診することがまずできない。電話もしくはテレビ電話で患者さんの訴えを聞きながら、データも体温とサチュレーション(経皮的酸素飽和度)の値だけで、医師につなぐかどうか判断しなければならない。患者さんは、隔離が3週間4週間続いて、苦痛とか不安の訴えも多く、中には自殺企図があり看護師の判断で医師と相談し入院措置になった方もいました」(高橋会長)

    Web会議
    Web会議で情報交換

    こうした問題に対応できるよう、協会の担当者は3つのホテルをラウンドし、毎日テレビ電話による会議を行って現場との情報共有を図った。記録もフォーマットを統一し、協会でまとめて知恵や工夫を蓄積した。危険手当や個人防護具など物資の確保も、高橋会長ら府協会が窓口となり、行政との交渉を行った。

    「ほんまにびっくりするくらい、みんなの力が結集した。最後は、医師はオンコール体制になり、看護師だけで軽症者施設の運営を任されるようになった」と高橋会長は振り返る。

    6月10日の時点で、採用した看護師は、ホテルとPCRセンターあわせて105人。その人数で延べ4,432人のホテル宿泊者と、延べ1,023人のPCR受検者に対応している(5月31日現在)。この府協会の取り組みは厚生労働省でモデルケースとしても検討されている。現在、大阪府の軽症者施設は患者減少で閉鎖しているが、高橋会長たちは今後に向けた準備を進めている。

    (2020年6月9日取材)

    全国初の軽症者宿泊施設の立ち上げに奔走

    福井県職員/感染管理認定看護師 夛田(ただ)文子さん

    急きょ開設が決まった軽症者宿泊施設

    福井県は3月18日に最初の新型コロナウイルス感染症患者が確認された。市内の飲食店でクラスターが発生し、感染症病床が不足する事態が起こり、県は4月5日、全国に先駆けて軽症者用の宿泊療養施設「福井市少年自然の家」を開設、計15人の患者が入所した。

    夛田文子さんは、感染管理認定看護師として施設のオープンに奔走した。前職を退職したばかりだったが、新型コロナウイルス感染症が拡大する事態に感染管理認定看護師として何かしなければと思っていた矢先、福井県看護協会から依頼があり、県職員として復職を決めた。

    夛田さんが入ったのは開設3日後。すでに災害看護の専門家や県の職員が入っていたが、急な開設で準備時間が少なく、現場は疲弊しきっていたという。「スタッフもすごく少ない人数で物資をかき集めながら患者さんの対応もやり始めているという状況だった。絶対にここのスタッフから感染者を出してはいけないと思った」。夛田さんは振り返る。

    研修施設特有の感染対策の難しさ

    夛田さんは、とにかく、感染対策の優先順位をつけ、一つ一つの作業を洗い出していった。難しかったのは「福井少年自然の家」が共同生活を前提とした研修施設だったことである。ホテルのように全ての生活空間が隔離できる施設と異なり、浴室やトイレは共同で、県の職員が掃除や、ゴミ捨てなどのため、患者エリアに入らなければならないことも多かった。どうすれば感染リスクを低減できるか――。作業内容や時間・担当を相談し、防護服の選択や着脱の指導も行った。患者が入所した状態で、生活環境の整備と、感染予防体制の構築を同時並行で行う必要があり、試行錯誤の連続だった。「大変でしたけど、多様な分野から支援者が来ていたので、いろんな視点でみることができた。皆さん有志で来ていたので、得意なところは自発的に引き受けて、スピーディーに進んでいったのが良かった」(夛田さん)。

    患者とも協力して生活の場を作り上げる

    一方で、看護師として患者の気持ちをくみ取るのには苦労した。知人が亡くなったり、小さな子どもが一緒に感染していたりと、それぞれが事情を抱えている上に、生活の不自由さが重なり、いら立ちを隠さない人もいたという。

    「とにかくその時困っていることに、その時対応する。対応できなくても、昨日こう言っていたけど大丈夫? と、経過を理解している、という関わりを心掛けた」。

    前例のない混乱状況の中、スタッフだけでなく患者とも、施設がより快適な療養の場となるよう意思疎通を図りながら、専門の枠を超えて柔軟に動いたことが対応の鍵になったと夛田さんは振り返る。

    その後、福井県では感染者は徐々に減少し、4月29日以降、新たな感染者は確認されていない(6月22日現在)。夛田さんはその後、新型コロナウイルス感染拡大防止チームの一員として、新たな宿泊療養施設やPCRセンターの立ち上げ、高齢者施設の感染対策の指導を続けている。

    (2020年5月27日取材)

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