看護実践情報

感染管理認定看護師の活動

更新日:2020年6月25日

認定看護師を中心に感染対策で成果

医療法人尚和会宝塚第一病院 看護副部長/感染管理認定看護師 雪田智子さん

「院内感染が発生した!? 〜そのとき感染管理認定看護師は〜 」

「この患者さんは、新型コロナウイルスに感染して入院してきたのかも知れない……」。病棟に緊張が走ったのは、患者の入院から10日後の朝のことだった。3月1日に救急搬送されてきた高齢男性。患者の感染に最初に気付いたのは感染管理認定看護師※1の雪田智子さんだった。

別疾患で救急搬送されてきた患者

トリアージを行う看護師の画像
病院の正面玄関でトリアージを行う看護師

医療法人尚和会宝塚第一病院は、急性期病棟2つと地域包括ケア病棟を持つ199床の病院だ。地域密着型の救急病院で新型コロナウイルス感染症の患者の受け入れは行っていなかった。兵庫県では3月1日に最初の感染者が確認されていたが、まだ感染拡大への危機感が広がっていたわけではなかった。

院内の感染制御チーム(ICT※2)の一員として、感染対策を指揮する立場にあった雪田さんは、院内の抗菌薬適正使用支援チーム(AST※3)のカンファレンスで、この患者の胸部レントゲン画像を見ていた。肺炎所見はあったが、呼吸器症状が全くなく、当初は誰も新型コロナウイルス感染症だとは考えていなかった。

「これは、新型コロナウイルス感染症かもしれない……」

事態が急変したのは10日後。1本の電話が入った。近隣の施設のケアマネージャーからで、その施設では、数日前に多数の感染者が発生していた。

「そちらに入院している患者さん、うちの利用者さんだったんですけど、元気でしょうか?という問い合わせでした。病棟の看護師がすぐに伝えてくれて、ピンときました。これは新型コロナウイルス感染症ではないかと」(雪田さん)。

雪田さんは、すぐに呼吸器内科の医師にCT画像の再度読影を依頼し「疑いが濃厚」との診断を得る。主治医や感染制御専門の医師とも相談し、保健所にPCR検査を依頼。患者はその日の午後に亡くなってしまったが、検体を採取し、翌日、陽性が確認された。

院内感染—最悪の事態を想定しての対応——「平時からの感染管理が鍵」

「これは大変なことになる」。雪田さんは覚悟した。感染に気付かなかった10日間で、濃厚接触者はどれだけいるのか——。病棟には医師や看護師だけでなく、リハビリスタッフや事務職員、清掃やリネン交換の業者などさまざまな人が出入りしている。すでに感染は院内全体に広がっているかもしれない——。

雪田さんたち感染制御チームの動きは速かった。その日の午後には緊急対策会議を招集、病棟の入退院を制限して、新たな出入りを止めた。動線を確保し、担当者にフル装備の個人防護具(PPE)を用意した。陽性患者と3日間同室だった別の患者3人は、個室に隔離した(後日同室患者3人とも陽性が確認された)。並行して濃厚接触者となった職員を雪田さんと看護管理者で洗い出した。病棟の看護師・看護助手36人のうち30人が濃厚接触者となり、最終的には病院全体で49人が自宅待機となった。各部署間で業務を調整し、応援をもらう体制づくりも迅速に行う必要があった。しかし2月の段階から感染拡大を予測し、新型インフルエンザウイルス等対策会議を新型コロナウイルス対策会議として準備していたため、院内全体の意識は高く、陽性判明後も人員配置、病棟清掃、ベッドコントロール、職員の感染対策など常に先を予測して動くことができた。

「何よりも平時からスタッフが感染管理を徹底してくれていたことが大きい。特に看護職は日頃から育てていたリンクナース(※4)が大きな力になってくれました。どれも感染対策としては特別なことではないが、一つ一つを徹底し、院内全体の協力体制を得たことも良かった」。

最小限に抑えることができた感染拡大

Web会議
毎日の業務でも必ず確認

苦心したのは、病院関係者全員のPCR検査の実施だった。感染拡大防止のためには、全員の感染状況の把握が欠かせない。「あの時は保健所もなかなか受けてくれない時期でした。最初は清掃やリネンの方の検査まではちょっと難しいと言われましたが、リスクがあるので、病院としてはやってほしいと院長とともに強く訴えました。日頃から信頼関係を築いていたので最後は“やりましょう”と」(雪田さん)。その結果、全職員と入院患者約500人のPCR検査が実施され、陽性者が明確になり、その後の早期の外来再開や、病棟の再編成につながった。

最終的な同院内での感染者は患者5人、医師2人(うち1人は市中感染)、看護補助者1人。外来診療、救急、新規入院が中止となったが1カ月足らずで再開でき、院内感染の拡大は最小限に抑えられたといえる。

それでも、感染者が判明した直後は院内もパニック気味で「自分は大丈夫か」「PCR検査してもらえるのか」といった声が職員から上がったという。雪田さんは医師とともに、すべての部署に足を運び「普段研修でやっている感染予防策をきちんと続けていれば大丈夫」と、繰り返し説明して回った。現在は、スタッフの意識もさらに高まり、なかなか進まなかったゴーグルの着用や、医師も含めた手指消毒用ポーチの携帯が徹底されているが、雪田さんは、気を緩めず、第2波、第3波に向け備えたいと考えている。

(2020年5月28日取材)


  • 1.感染管理認定看護師:感染対策における高度な専門知識や実践力をもつと認定された看護師。医療関連感染サーベイランスの実践、施設の状況の評価、感染予防・管理システムの構築などを行う。院内ICTメンバーになることも多い。全国に2,923人(2019年12月現在)。
  • 2.感染制御チーム(ICT:Infection Control Team):医療機関において、感染対策を行うために設置される組織横断的なチーム。専門知識をもった医師、看護師、検査技師、薬剤師からなる。
  • 3.抗菌薬適正使用支援チーム(AST: Antimicrobial Stewardship Team):医療機関において、薬剤耐性菌感染症を防ぐため、院内の抗菌薬の適正使用を支援するチーム。ICTとは情報共有などで連携する。
  • 4.リンクナース:医療施設の中で、専門チームや委員会(感染制御チーム、褥瘡対策チームなど)と病棟看護師をつなぐ役割を持つ看護師。各病棟から1人ないし複数人がリンクナースとして、専門チームや委員会と連携する。