国際情報

ICNの動き

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日本看護協会出版会『看護』に連載の「ICNの動き」が、2016年4月号から「国際情報のページ」に改題となりました。
過去の「ICNの動き」を以下に転載しています。

2016年

3月号

ICN第一副会長/東京有明医療大学国際交流センター長  金井 Pak 雅子

新たなCEOの就任、ICNの経済的課題と解決に向けて

2015年6月にソウルで開催された会員協会代表者会議および大会(ソウル大会)後、理事会ではさまざまな動きがあった。長年CEOとして活躍してくださったデビッド・ベントン氏の退職を受け、8月には新しいCEO選出のための選考委員会が立ち上がった。選考委員会には理事会メンバーのみならず外部からも委員として参加していただいた。11月の理事会にて候補者の最終審査があり、フランシス・ヒューズ氏が2016年2月から正式にCEOとしての就任が決まった。

現在ICNが直面している経済的課題について、今後さらなる取り組みが必要となる。特にICNの運営は会費で賄われており、それぞれの会員協会からの会費納入状況に関してはかなり厳しい現実がある。具体的には、紛争があったり、エボラ出血熱などの感染症により国や地域が機能しなくなっていたりする会員協会からの会費納入が滞っていることだ。それらの会員協会の会費には状況に応じて回転資金を投じたりしているが、その資源にも限りがある。会費を払いたくても払うことができない会員協会をいかに支援していくか、ICNの基本的価値の1つである“連帯性”をどう具現化していくかは、執行役員会では常に討議されている内容である。

経費削減および新たな活動によって収入増をはかることについても理事会で討議されている。11月の理事会はジュネーブにあるICN本部にて開催することにより会場費と通訳費用の支出を削減した。これが実現できたのも通訳をスペイン語のみに限定したからである。これまで理事会ではフランス語の通訳も入れていたが、そうなると通訳ブースのスペースが必要で、狭いICN本部の会議室では開催できないのである。

11月の理事会開催中には、ジュネーブに駐在している各国大使を招待してのレセプションが開催され、WHOからもジム・キャンベル氏がスピーチをされた。キャンベル氏は、Global Health Workforce Allianceの事務局長およびHealth Workforce Departmentの局長である。ICNソウル大会にも出席され、スピーチでは医療・保健に関する人的資源の課題について、ICNと連携しながら対応していくことなどについて話された。

私は第一副会長として、10月にフィリピン看護師協会創立93周年大会にICN代表として出席し、基調講演を行った。大会はミンダナオ島ダバオ市で開催され、盛会に終わった。ミンダナオ島と聞くと第二次世界大戦を思い浮かべるが、現地の人々は本当に穏やかで街を歩いていても皆笑顔で対応してくださっていたのが印象的である。1月には、アジアパシフィック小児看護学会がインドのハイデラバードで開催され、ICN代表として基調講演を行う。

また、1月にはICNのジュディス・シャミアン会長が2回来日される。いずれも日本財団の招聘で、在宅看護の特別講演会とハンセン病予防のためのグローバル・アピールの大会における講演である。第一副会長として、私もシャミアン会長に同行する。

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2月号

日本看護協会国際部

「保健人材の世界戦略」に看護の見解を反映

ICN は3つの活動の柱の1つである「社会経済福祉」の分野において、看護職の公平な報酬や福利厚生、労働問題などに関するさまざまな活動を行ってきた。現在、この分野の新たな活動としてICNは保健人材の世界戦略への貢献を進めている。
世界保健機関(WHO)は、2016年の世界保健総会に向け、「保健人材の世界戦略:保健労働力2030(Global Strategy on Human Resources for Health:Workforce 2030)」を作成中だ。
WHOが保健人材の世界戦略(案)において示したビジョンは、スキルを備え、意欲のある保健医療従事者への公平なアクセスを確保することで、ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ注)および持続可能な開発目標(SDGs)に向けた進捗を加速することだ1)。ICNは、この戦略に看護の見解を反映させる活動を進めている。世界的な保健人材の戦略における看護の役割を示すことは、ICNにとっての優先事項だ。看護職は保健人材の中で多数を占め、人々に最も近い保健医療専門職であり、人々の健康に大きく貢献する。
ICNは、2015年6月に韓国で開催された会員協会代表者会議(CNR)において、ICNとWHO共催による保健人材の世界戦略に関するコンサルテーションを開催した。その際に述べられた主要なメッセージでは、保健人材に関する政策はエビデンスに基づくべきであり、看護職は政策検討の場で重要な役割を果たすこと、看護職はSDGsの中の健康やウエルビーイングに関する目標においても重要な役割を果たすことなどを示した2)
ICNは、WHOが求めたパブリック・コメントに看護の声を強調するコメントも提出した。その中で、看護職は患者の直接ケアやサービス管理のスキルを持つのみでなく、他の保健医療従事者の教育や監督、およびコミュニティのよりよい健康に向けた働きかけの役割があることを強調した。また、「より健康で弾力性のあるコミュニティの支援に焦点を当てた、ニーズに基づく保健医療システムおよび保健人材計画を支援する」という目標に対し、看護師が行える貢献も示した。
「専門職連携による教育や実践の主導と支援」「疾病中心のケアと住民の健康の均衡がとれた保健医療ケアへのシフトの提唱」「保健医療従事者の偏在や移動に対する戦略の特定と擁護」「人々の複雑な健康と社会的ニーズに対応する知識とスキルを保健医療従事者が備えることによる、プライマリーヘルスケアの強化」「健康・社会制度に関する政策、開発および計画における強い看護の声の確保」「保健人材および保健医療システムの研究や評価におけるエビデンスの創出」。
ICNは、現在、アドボカシー活動に向け、看護の研究やエビデンスに基づき政策概要を明示した資料の開発も進めている。

  • 注)経済的困窮に陥ることなく、誰もが必要なときに保健サービスを受けられるようにすること

●引用・参考資料

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1月号

日本看護協会国際部

WHO「看護と助産を強化するための戦略的方向性(SDNM)2016〜2020年」の作成に向けて

2016年の早期に「看護と助産を強化するための戦略的方向性(Strategic Directions for Strengthening Nursing and Midwifery:SDNM)2016〜2020年」がWHOより公表される予定だ。現在、文書の公表に向けたコンサルテーションや最終調整が行われている。
ICNは看護職の団体として、SDNMの作成過程に深く関与している。

1. SDNM とは何か

SDNMは、質の高いサービス提供に向けた看護師と助産師の能力拡大に関して、政策立案者・実践者および利害関係者に対し、幅広い、協調的活動を示した枠組みである。5つの主要成果領域が設定され、目標と期待される成果が記載されている。SDNMは、2002年に初めて公表されている。
2001年5月の「WHA決議54.12」は、加盟国に対し、看護と助産の向上が喫緊の課題であることを明示するとともに、WHOに対し、看護・助産サービス強化に向けた開発計画を構築するように求めた。この決議を受けて「SDNM2002〜2008年」1)は作成され、このSDNMでは、保健医療システムの能力拡大、健康目標達成、保健分野のミレニアム開発目標(MDGs)達成に焦点が当てられた。
その後作成された、「SDNM2011〜2015年」2)は、「SDNM2002〜2008年」に上積みをした上で、ユニバーサル・カバレッジ*1、ピープルセンタード・ヘルスケア、実践および労働環境に影響をおよぼす政策および世界的な目標達成に向けた国の保健医療システムの拡大に焦点が当てられている。

2.「SDNM2016〜2020年」作成の背景

SDNM2016〜2020年の作成は、世界的な意見聴取3)の結果を受けて決定した。
WHOが2016年世界保健総会(WHA)に向けて作成を進めている「保健人材の世界戦略:2030年の労働力」およびユニバーサル・ヘルス・カバレッジ*2の達成が目標に盛り込まれた「持続可能な開発目標(SDGs)」などの看護や助産に関連する世界的な目標が策定される中、SDNMは継続して作成することの意義や効果が問われた。
ICNによると「現在策定中のSDNM2016〜2020年は、ケアのコミュニティへの移行や人口構造の変化への対応など、過去・現在から将来の看護・助産サービスへの移行を促進するものとなる」4)としている。

  • *1  原文universal  coverage
  • *2  原文universal  health  coverage→次ページの「WHO  NEWS」参照

●引用・参考資料

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