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助産師の倫理綱領

ここに掲載している日本語訳の「ICM 助産師の倫理綱領」は、こちらからPDF形式でダウンロードできます。

ICMホームページでは、英語の「ICM 助産師の倫理綱領」をダウンロードすることができます。

前文

国際助産師連盟(ICM)の目的は、専門職としての助産師の育成や教育、適切な活用を通じ、世界中の女性や乳児および家族に提供されるケアの水準を向上させることである。この目的に沿い、ICMは、助産師の教育、実践、研究を行う上での指針として以下の倫理綱領を示している。この倫理綱領は、女性を人権を持つ人として尊重し、全ての人々のための正義と保健医療へのアクセスにおける公平性を追求するもので、社会を構成する全ての人々による、お互いへの敬意や信頼、権利の尊重といった相互関係に基づいている。

倫理綱領は、家族や地域社会内の女性と新生児の健康や福祉を増進するため、ICMのミッションや助産師の定義、ICM世界基準に沿って助産師の倫理的義務を示すものである。このようなケアには、妊娠前の時期から更年期、そして、人生の終末までを通じた女性のリプロダクティブ・ライフサイクルを含む場合もある。これらの義務には、どのように助産師が他者と関わり、助産を実践し、専門職としての責任と職務を担い、そして助産師がどうあるべきかという点に関連して、ICMの目的と目標を達成する助産師の倫理的な義務が含まれる。

綱領

  • I. 助産における関係性
    • 助産師は、一人一人の女性とのパートナーシップを築き、女性が情報を得た上での意思決定や、発展する医療ケアに関する計画への同意、自己の選択による結果への責任を引き受けられるように、関連情報を共有する。
    • 助産師は、女性あるいは家族が、自らが受けるケアについての決定に積極的にかかわる権利を支援する。
    • 助産師は、それぞれの文化・社会において女性と家族の健康に影響を与える問題に対して、女性および家族が自らの考えをのべられるようにその力を高める。
    • 助産師は、女性と共に、医療サービスに対する女性のニーズを明確にし、優先順位や供給状況を考慮した上で資源が確実に公平な形で配当されるよう、政策機関や資金提供機関と協働する。
    • 助産師は、専門職としての役割を果たす上で互いに支援、支持し合い、自己および他の助産師の自尊心を積極的に育む。
    • 助産師は、他の医療職種と敬意を持って協働し、女性のケアに対するニーズが助産師の能力を超える場合には、必要に応じて相談や紹介を行う。
    • 助産師は、実践において関係する人々の協働が必要であることを認識し、内在する対立の解決に積極的に努める。
    • 助産師は、道徳的価値をもつ人間として自己に対する責任があり、道徳的に自己を尊重し、人格を保つ義務がある。
  • II. 助産の実践
    • 助産師は、女性および出産をむかえる家族にケアを行う際に、文化的多様性を尊重するとともに、その文化における有害な慣習をなくすよう働きかける。
    • 助産師はいかなる場合においても妊娠・出産によって女性や女児が傷つくことがあってはならないという最低限の認識を奨励する。
    • 助産師は、あらゆる環境や文化において安全な助産実践を行うための能力を維持するため、最新で根拠に基づいた専門的知識を活用する。
    • 助産師は、保健医療を求める女性に対し、彼女たちがいかなる状況にあっても、心理的・身体的・感情的・信条的なニーズに応える(不当差別の禁止)。
    • 助産師は、あらゆるライフステージの女性、家族、他の保健医療専門職に対して、健康増進の効果的な役割モデルとして行動する。
    • 助産師は、助産師としてのキャリア全体を通し、自己の成長や、知的・専門的成長を積極的に目指し、その成長を自らの助産業務に反映させる。
  • III. 専門職としての助産師の責任
    • 助産師は、プライバシーの権利を保護するため、クライアント情報の秘密を守り、法律で義務付けられている場合を除き、その情報を共有する場合には適切な判断に基づいて行う。
    • 助産師は、自己の決定と行動に対する責任を有し、女性へのケアの結果について、説明する責任がある。
    • 助産師は、自らが道徳的に強く抵抗を感じる活動に対し、参加しないことを決定することができる。しかし、助産師個人の良心を重視することにより、女性に必要不可欠な医療サービスを受ける機会を奪うことがあってはならない。
    • 助産師は、サービスの依頼に対して助産師自身の道徳的な抵抗感がある場合には、そのサービスを提供できる医療機関に女性を紹介する。
    • 助産師は、倫理や人権の侵害が女性や新生児の健康にもたらす悪影響について理解し、そのような侵害をなくすよう働きかける。
    • 助産師は、全ての女性および出産を迎える家族の健康を増進する医療政策の策定と実施に携わる。
  • IV. 助産の知識と実践の向上
    • 助産師は、助産の知識の発展は、人としての女性の権利を保護する活動に裏付けられるものであることを保証する。
    • 助産師は、助産師間の相互評価や研究など様々な過程を通じて、助産の知識を発展させ、共有する。
    • 助産師は、助産師を目指す学生への正式な教育や、助産師の継続教育に貢献する。

2008年、グラスゴーでの国際評議会において採択
2014年、プラハでの国際評議会において見直し、採択
次回見直し予定:2020年

(公社)日本看護協会 ・(公社)日本助産師会 ・ (一社) 日本助産学会 訳

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ICM 倫理綱領のための用語集

ICMは、この倫理綱領の活用を図り、これが助産実践および助産師にとって適切であるかを検証することを目標としている。内容理解に関わる要素の一つとして、様々な文化や社会で言語がどのように用いられているかという点が挙げられる。そこで、ICM 倫理綱領で用いられている各用語を以下のように定義する。

専門職(前文)
  • 「専門職である」ということは「倫理的である」ということであり、倫理的でなければ専門職ではない、という考え方を示す。
保健医療へのアクセスにおける公平性(前文)
  • 限られた資源を、ニーズに基づいて適切に分配すること。たとえば、社会的弱者である人口集団やグループにおける健康ニーズやサービスへのアクセスに対しては、それらを自ら購える人々に対する以上に、注意・関心を払うこと、などである。
専門的知識(II.c.)
  • 正規の教育機会および私的な教育機会を通じて得られた助産の知識で、実践能力を高めるもの。
あらゆるライフステージ(II.e.)
  • 助産ケアは、出産に関連するケアだけにとどまらない。助産師はあらゆる年齢の女性をケアするが、そのなかには終生、妊娠や出産を経験しない女性も多い。またこの語は、女性への生殖ケアと婦人科ケアの双方に言及するものである。
専門職としての責任(III)
  • 実践・教育・研究のいずれにも限局されることのない、助産師の幅広い倫理的義務・責務。
  • ケアの結果(III.b.)
    • 助産師は、自己の決定や行動がもたらす結果に関して責任を有する。助産師は、自らがコントロールできない事柄(例:遺伝上の問題)の結果に関して責任を負うことはない。権限をもつ人が、助産師に非倫理的な実践を指示する場合がある。こうした状況における難しさは十分に理解できるが、助産師がそうした指示に従うことは、やはり、非倫理的である。しかし助産師は、こうした指示に従わない場合のリスクについても認識しておく必要がある。
個人の良心(III.c.)
  • 道徳的見解について熟考・分析し、それを堅固に保持すること。この条項の文脈としては、必要なケアが他の人から提供される場合にのみ、助産師はケアの提供を拒否できる、ということである。
人としての女性の権利(IV.a.)
  • 研究への参加に関連する人権としては、プライバシー、敬意、真実の告知、善行と無害、自律、インフォームド・コンセントが挙げられる。