特定行為研修制度の活用に取り組む管理者

小澤看護部長_2048x1536

医療法人社団 三喜会 鶴巻温泉病院(神奈川県)
看護部長 小澤 美紀 さん

特定行為研修修了者情報 ①7区分14行為 修了者3名
②8区分15行為 修了者1名
③9区分16行為 修了者1名

医師不足による課題解決と看護のレベルアップの必要性

当院は、一般・療養病床505床、介護医療院52床の慢性期を中心とした病院です。回復期のリハビリから看取りの緩和ケア、そして、療養病棟や難病患者の受け入れや地域連携など、さまざまな慢性期の患者に対応した医療を提供しています。
特定行為研修の活用の背景には、医師不足への対応と看護職の力の底上げを図りたいという狙いがありました。当院は、医師1人当たりの受持ち患者数が多く、定期の気管カニューレの交換が他患の急変などで翌日に延期になったり、褥瘡(じょくそう)処置がスムーズに行えない状況がありました。また、慢性期の患者への看護では、異常の早期発見や予防を行うことがとても重要になります。看護師が医師の指示のとおりに「熱が出たから解熱剤を使う」で終わらずに、状態悪化などによって急性期病院へ転院するような事態に至らぬよう、どのような状態の変化が起きているのか立ち止まって考え、対応できる力を養う必要があると感じていました。

特定行為研修制度の活用に向けたプランと対応

私は、平成24年度(2012年度)に看護師特定行為・業務試行事業に参加しましたので、特定行為研修を通して身につく知識や技術が、当院の医師不足により起きている課題の解決や看護のレベルアップにつながると確信していました。院長も制度に理解があり、組織内での研修派遣の決定や研修予算の確保はとてもスムーズに進みました。
修了者には、看護のロールモデルとしての活動を期待しています。このため、厳しい研修を乗り切れるかはもちろんですが、日頃からきちんと看護の考えをもって実践し、周囲から信頼を得ている人であることを重要視して、研修に派遣する看護師を決めました。修了者は院内の関係者と調整しながら、新たに活動を作っていく能力も必要ですので、人選はとても重要だと思っています。
とはいえ、最初の1人目は、活用がいま一つ進みませんでした。このため、2人目からは組織的な働き掛けを行ない、活動を作っていけるよう看護副部長や科長らの役職者に受講してもらっています。また、私自身が試行事業から戻った当初も、制度を作っている最中で、自分を含め周囲も活用方法について戸惑い、理解を得られず、大変つらい思いをしました。この経験から、制度の活用を進めるには、研修の派遣は複数にすることも必要だと思いました。複数にすることで、修了者同士で相談や話し合い、活動の提案や院内での系統だった活動がしやすくなる効果があると思います。

少しずつ見えてきた特定行為研修制度の活用成果

現在、修了者は各病棟などの管理者として、臨床推論などを活用して病棟スタッフや管理夜勤での院内巡回時の相談対応、また、院外では研修講師の担当などをしています。さらに、修了者チームを編成し、決まった曜日に気管カニューレの定期交換や褥瘡のラウンドに回り、処置や病棟看護師などへの指導助言などを行うチームでの活動をしています。医師不足のため患者を待たせてしまう状況がありましたが、この活動により、患者の入院生活のリズムに応じたスムーズな処置ができています。
また、当院は発語ができない患者が多く、修了者チームの活動を患者の家族が評価してくれます。看護師は、患者の手を握り声を掛けながら、丁寧に処置を行っています。付き添っている家族に対して状況などを分かりやすく説明しながら、特定行為を行いますので、家族が「この人にこれも聞いてみようかな」と信頼され、関係を築いているケースもあります。
まだ、評価途上ですが、院内の他の看護師も修了者から影響を受けて、力がレベルアップしてきていると感じています。今、6人目を派遣していますが、修了者の活動を見て「すごい。自分も目指したい」と言ってくれたスタッフです。他にもそんな声がちらほら聞こえてきていますので、とてもうれしい循環です。今後は、各病棟に1人の修了者を配置することが目標です。さらなる看護のレベルアップを図っていきたいと思っています。