看護の日

第6回「忘れられない看護エピソード」講評

選考委員の内館牧子でございます。
私はこの「忘れられない看護エピソード」を拝読することと、表彰式で皆様にお会いすることが毎年、とても楽しみでした。なのに今回は、皆様にお会いするどころか突然の入院で看護職の皆様のお世話になってしまいました。
このところ、息切れと動悸がひどいと思っていた矢先、突然の高熱。歩くこともやっとという緊急事態になりました。いつも診て頂いている聖路加国際病院に這うようにして行きまして、そのまま即入院です。肺炎を引き起こしていました。
朝から晩まで看護師さんに助けて頂き、改めて看護職の方々がどれほど多くの人の命を支えているかを、思い知らされました。
今回はそんなわけで初めての欠席になってしまいましたが、ベッドでもう一度皆様の作品をじっくりと再読させて頂きました。

「看護職部門」の最優秀賞『専属ナース物語』は選考委員からほぼフルマークで選ばれました。厳しい闘病生活を送る父親と、看護する看護師の娘。父と娘の互いのプライドがぶつかり、不思議な夢が交錯し、とてもいい一編の物語になっています。文章も構成もみごとです。
内館牧子賞の『教えるよりも聴く』は、ふだんなかなか聞くことのない助産師のエピソードがとてもストレートに心に響きました。いい話です。そして―――母親たちを手助けできる「この仕事、当分辞められそうもない」という締めの文章も印象的でした。
優秀賞の『神様の声』『人生を変えたことば』『お湯加減はいかがですか?』は、どれも迫りくるようなエピソードですが、この三点には共通したものがあります。それは本人たちが看護師としてピシッと背骨を持っていること。であればこそ、どこかあたたかくユーモラスです。どれも非常にいい作品でした。
なお、選には漏れましたが、『手、いっぱいの看護』という作品の中に「私の手は看護の力を持っているんだ」という文章がありました。この自覚こそが背骨になり、あたたかさになるのでしょうね。

「一般部門」の『静かな勇気』も、選考委員のほぼフルマークでした。短い文章で、これほどまでに「逝くことと生まれてくること」を鮮烈に描ききった作者に感服しています。再び明日のために奮闘を始めたラストが生きています。
内館牧子賞の『未雷(みらい)』は、私の大変に好きな作品でした。構成も文章もよく、絵にからめて人間の心をよく表わしています。ドラマにできそうな話ですね。
優秀賞の『告知日に聞いた、“幸せの扉”』『川柳セラピー』『やさしい声』は、どれを読んでも、患者やその家族にとって看護師の力が大きいかわかります。看護師の皆さんにとっては重いことでしょうが、病院という区切られた空間で、痛みや不安と戦いながら生きようと前を向く患者にとって、看護師の笑顔ひとつ、行動ひとつが生きる力になることが具体的にあたたかく描かれています。

今年3月の新聞紙上での東日本大震災の被災地の看護職との座談会の中で、坂本すが会長が看護師にとって、「いつもそばにいる、手を離さない」という姿勢の大切さを語っておられました。これこそが患者として本当に有難く、心強いことです。
最後になりますが、本年度のPR大使、剛力彩芽さんは、私の大好きな女優さんの一人です。きっと看護の日PR大使としてお力を発揮して下さると思います。
本日は伺えず申し訳ありませんでしたが、皆様、本当におめでとうございました。

2016年5月8日
内館牧子