看護の日

「Nursing Now賞」受賞作品の解説

Nursing Now 賞の受賞作品「セルフケア看護の実践によるハピネス」は、病棟の看護師長である作者の目を通し て、慢性疾患の患者と看護師との関わりが、患者のみならず、ほかのスタッフや組織にも良い影響を与えていった様子を描いた作品です。

地域包括ケアシステムが進み、在宅での療養が重視される中、作者が勤める急性期病院でも、入院中から退院後の生活を意識した看護を進めていました。患者にとって入院は、退院後の地域での生活を考える機会でもあり、看護師は、退院後の生活を見据えて最大限、患者の持っている力を引き出すことが大切です。

作者は、心不全で緊急入院を繰り返していた患者Aさんに対し、効果的に行動変容を促し、セルフケアを支援することが大事であると考え、SCAQ(Self-Care-Agency-Questionnaire)という評価指標を使うことを担当の看護師Mさんにすすめました。SACQは、患者がふだんの生活や療養上、気を付けている点などについての質問に回答し、各項目をレーダーチャート化して評価します。患者の強みを引き出すことに着目したツールです。

Aさんが患う心不全は、急性憎悪で入院して状態が悪化すると、入院期間が1カ月に及ぶこともあります。しかし、体調に異変を感じた時点で、できるだけ早く受診してもらうと、1週間ほどで退院できることも多くあります。SACQを使うことで、患者は自らの状態を知り、病気を抱えながら生活していく上でのヒントが得られます。入院時から看護師が一緒に評価を見ていくことで、退院後の生活を一緒に考え、患者の強みを強化し気付きを促すこともできます。

Aさんも、SCAQを使う中で自らが重症化してから入院していたことに気付き、軽症のうちに対処して、入院期間が短縮化されるという成果が出ました。さらに、Aさんの自己管理の様子が分かったことで、Aさんに対する看護の在り方も変わりました。作者は、スタッフとともにAさんの努力を再評価し、病気が悪化しないための関わりから見えたことをスタッフに問い掛けました。慢性疾患を持つ患者に「指導」するのではなく、一緒に考えるプロセスを大切にしていったのです。

こうした中で、M看護師にも変化が生まれました。日々の業務を効率的にこなすのではなく、多面的に患者を捉え、患者自身が生活や病状をうまく語れるような場をどのようにつくるかを考えるようになったのです。M看護師は、看護の力や自らの影響力に気付き、それを部署のスタッフに伝えたいと、カンファレンスを開くまでになりました。

こうした変化には医師も驚き、院内での看護の関わりに対する評価も変わりました。作者も、医師の評価を看護師たちに伝え、作中で「ダイナミックな様相」と表現してM看護師の変化や成長をたたえています。作者は看護管理者として、M看護師が大きな経験を得たことや、スタッフからAさんに対するネガティブな言葉が消え、患者の尊厳を守る風土が生まれたことが何よりうれしかったといいます。

作中では、慢性疾患で再入院する患者を単に自己管理が不十分だったと見るのではなく、ツールをうまく活用して状態を客観的に評価しました。本作品には、患者が自らの状態に気付き、看護師がそれを支えていくという真摯な看護の在り方を大切にしたい、という作者の思いが込められています。

2015年、国連のサミットで採択された持続可能な開発目標(SDGs)の達成に向け、本会が掲げた目標「住民の健康を支える看護モデルの確立」が示すように、今後、療養の中心が地域になっていくとき、看護職が率先して貢献することが求められています。本作品は、急性期病院を舞台としながらも、地域で生活する患者への視点がしっかりと認識され、取り組んでいたことも大きな魅力でした。また、Nursing Nowの活動では、看護のエビデンス収集も目的の一つとなっています。このエピソードのよ うに、普段の看護実践の中で成果があったことについてプロセスやアウトカムを明らかにし、広く共有していくことが期待されます。