2. 終末期医療の意思決定における看護
看護職は、他の医療従事者と比べ、患者に最も長く、そして身近に関わることのできる専門職である。対象者の身近にいて関心を寄せ関わることにより、看護職は患者の気がかり、苦痛、苦悩等の患者のニーズにいち早く気づき、人間的な配慮と尊厳を守る個別性のある看護を行うことができる。
一般的に、死が近づけば近づくほど、患者に対する医師の関与は少なくなるが、看護職は人生のどのような場面であっても患者へのケアの方針や関与は一定である。それは、一般的に医師が回復する見込みのある人を治療の対象としているのに対し、看護職は回復の見込みの有無に関わらず、「最期までその人らしく」という考えに基づいてケアを行っているためである。看護職が、亡くなった患者にエンゼルメイクを施すなど生前と変わらぬ状態に近づかせるように取り組むのは、このような特質に基づいている。
ここでは、終末期医療の中でも、特に意思決定において、看護職が行うことのできる患者とその家族に対する支援について、以下のように整理してみた。
看護職は、終末期を迎える前から、終末期の過ごし方や最期の迎え方などについて患者と話し合うことができる。
看護職は、外来受診の当初から終末期に至るまで一様に患者に接することができる。この特性を活かし、看護職は、患者の望む終末期の過ごし方や最期の迎え方などについて、患者の考えを聞いたり、その具体的希望を聞いたりする機会を作ることができる。
死を十分に認識しないうちから死について考えてもらう機会を作るのは難しいと思われるが、意思確認が不十分なまま患者が終末期を迎えてしまうという事態を避けるためにも、なるべく早い段階(例えば、外来治療の段階や症状が落ち着いている段階など)から、患者の望む終末期の過ごし方や最期の迎え方について患者から話を聞いておくことが望ましい。
早い段階から考えをめぐらすことにより、患者は時間をかけてじっくり考え家族等と話し合いながら、誰しもいつか必ず迎える死について準備をすることができる。また、最期を迎える際の治療のあり方などの具体について徐々にイメージを固めていくことも可能となる。
はじめは一般的な話から進め、徐々に自分の問題として整理し、最終的には最期を迎える場面を想定した具体的な条件(例:延命治療を望まないという意思があるが、家族がその場に間に合わなかった場合でも治療を行わなくてよいのか等)について患者の意向を確認することができるのも時間的猶予があるからこそである。
なお、患者と話し合った内容は、その都度患者に確認をとりながら患者にも分かる言葉で記録に残すことが非常に重要である。看護職間はもちろん、患者・家族や医師なども必要に応じていつでも閲覧することができるように体制を整えておく。場合によっては、家族にそのコピーを渡しておくことも検討する。
看護職は、その時々に応じて揺れ動く患者の感情を受け止めながら、患者の意思決定を支える。
自分の死の迎え方や終末期の過ごし方については、人々は簡単には決断を下すことができないものである。患者は、意思を固めるまでの間においても、本当にそれでよいのか、それによって家族を苦しませるのではないか、など気持ちが揺れ動くことも多い。
入院時に、病名告知の希望や終末期のあり方等について意向調査を実施する医療施設もあるが、そのような意向調査に加えて、日々の療養生活の中で揺れ動く患者の気持ちにいち早く気づき、細やかに対応することが看護職の大きな役割の一つである。
意向調査からだけでは分からない患者の本音や言葉にはできない思いなどを、直接の対話から見出し、受け止め、共感することが、看護の専門性でもある。
看護職と患者だけではなく、家族や医師などにも同席してもらい、合意形成に向けて看護職がリードしながら、複数で患者の意思を確認することで、患者に直接関係する者が納得することのできる決定を行うことができるようになると考える。
看護職は、患者のアドボケーター(代弁者)として患者の終末期に寄り添う。
終末期を迎えた患者がたどる心理的過程には、①否認、②怒り、③取り引き、④抑うつ、⑤受容、の5段階がある7)。この過程は常に一方向に進むのではなく行きつ戻りつするものであり、必ずしも5段階すべてを通るものでもない。
看護職は、患者の細かい心境の変化や不安感などを読み取り、その都度患者の納得がいくまで対応することができる。また同時に看護職は、そのような患者の意思や心境を、患者のアドボケーター(代弁者)として、チームの他職種や患者の家族に伝えることもできる。
患者が終末期を迎えるということを受け入れるのは決して容易なことではない。そこで、終末期を迎えるとはどのようなことなのかについて具体的にイメージすることができるよう話をしたり、患者の苦しみや不安などは看護職が共に分かち合い最後まで寄り添うということを伝えたりする。
苦しみの中においても、いずれ迎える死を受容できた患者には、どのように終末期を過ごしたいか、どのような最期を迎えたいか等について具体的な希望を確かめ、可能な限りそれを書面に残し、患者の家族や医師をはじめとする多職種と共有し、ケアプランに活用する。
その上で患者には、一度意思を固めた後も意思が変わったらいつでも変更可能であることを丁寧に伝え、患者の感情の機微や意思の変化を敏感に察しながら、たとえ患者の選択が自分の価値観と相容れないものであっても、患者にとって何が最も良い選択であるかを見極め、患者の選択を支援する。
疾患等により患者が意思決定や意思表示をすることが困難な場合には、看護職は家族の意向について、患者が信頼を寄せ、患者を支え回復を支援する立場にある家族などに確認する。
このとき注意すべきなのは、「家族の意向の確認」とは「家族の意思の確認」ではなく、「家族の推察による患者の意思の確認」である、ということである。
看護職は、患者のアドボケーター(代弁者)として、「患者ならどのように考えるか」と推察する家族を支えながら、その過程に家族の意思が混同してしまうことのないよう留意して見守るという重要な役割をもっている。
このように、患者や家族と常に日頃から話し合いをしている看護職による説明は、医師などの他職種を説得する際の根拠となり得る。認知症等により患者が意思決定をすることができない場合でも同様である。
医師は、医学的視点から患者の病態を見ることが多いため、患者の意思が医師の治療方針とは異なる場合もある。そのような場合に、患者の意思を主眼に置いて、患者の代弁者として医師と話し合うことができるのは看護職の強みである。