看護実践情報

患児へのインフォームド・アセントをどのように展開するか - 両親が拒否する場合
[事例分析]

1. どのような倫理的問題か

  • 小児医療においては、子どもの認知発達に応じた説明をすることで子どもの主体性を引き出しながら子どもの最善の利益となるケアを提供することが求められるが、この事例では親の意向が優先されており、患児の権利が尊重されていない
  • 患児の権利が尊重されていないことにより、患児と医療従事者間の信頼関係が構築できていない
  • 上記の問題が患児を孤立させており、患児の成長発達や健康に影響を与えている可能性がある

2. 当事者の考え・価値観

患児の考え・価値観 (本人からはまだ十分に確認することができていないため、推察に基づいている)
  • 主治医からは風邪が長引いていると言われているが、これまでにかかった風邪とは違うと思う
  • 風邪の治療を継続するために転院したと聞いているが、その意味もよく理解できない
  • 痛みを伴う検査や処置を繰り返し受けたくない。この検査がどういう意味をもっているのかもよく分からない。自分の身体のことについて真実が分からず不安ばかり募る
  • 友達にも会っていないまま長い間学校を休んでいる。いつ元の生活に戻れるのかとても不安
  • 親にはいろいろなことを聞きづらいし、病院の人も自分の気持ちをわかってくれているとは思えない。誰も自分の味方ではないように思う
両親の考え・価値観 【母親】
  • 病院側には、とにかく、子どもの病気を治すために最善の治療をしてほしい。本人が嫌だと言っても、無理にでもその治療は受けさせたい。子どもが困ったときは親としてできるだけの支援をするつもりだ
  • 自分たちも子どもの病気について勉強をはじめたばかり。ある程度のことは子どもにも説明しているし、これ以上詳しいことを説明してショックを受けさせるなんて子どもがかわいそう
  • 子どもの気持ちは親である自分たちが一番よく分かっている。子どもも自分たちの気持ちを理解してくれているはずだ。子どものことに関する判断は自分たち両親に任せておいてもらえればよい。子どもにとって悪いようには決してしない
  • しかし、子どもの笑顔を取り戻すためにどうしたらよいか分からない
【父親】
  • 母親の考えに賛成である。とにかく治って欲しい。
受け持ち看護師の考え・価値観
  • 両親からの説明だけで患児が納得しているとは思えない
  • 患児の気持ちや意思が不在で、患児の意思を確認しないまま治療が進められてしまいそうな状況にジレンマを感じる。患児とのかかわりをすすめるにあたって両親へのアプローチが重要であるように思う
  • 患児自身が治療を受ける主体であり、自分になされる行為について理解し、疑問や不安を解消することができるよう説明しながらケアを計画していきたい
  • 一方で、両親の反応も理解できる 患児に病気の説明をすることについて、まず両親の納得を得なければならないが、難しそうだ
主治医の考え・価値観
  • 受け持ち看護師の考えに賛同している
  • 患児への説明と家族へのケアは、看護師が主導になってくれるとよいと思う

3. 価値の対立する背景

患児
  • 自分の身体のことや治療の内容を全部知りたい、今後の見通しなども教えてほしいと思っていると推察できる
両親
  • 子どもはまだ理解が不十分なので、難しいことやショックを与えるようなことは伝えるべきではないと考えている
  • 子どもは自分たちの保護下にあるのだから、子どもに関する判断はすべて自分たち親がやるべきだと思っている
看護師・医師
  • 患児に笑顔が見られないのは、すでに物事の理屈が分かる年齢になっているにも関わらず、それをきちんと説明されていないという不信感や不満感が原因であると見抜いている。そして、その気持ちを十分に伝えられないもどかしさも抱いているようだと感じている。
    ※ エリクソンの発達理論によると、患児の年齢ならば物事を全体的に捉えて具体的かつ論理的に理解できる段階に入っており、分からないことであっても過去の経験をもとに思考をめぐらせたり、他者との相互作用を通して言葉で表現したりすることで解決していくことができると言われている。しかしその一方で、自分の思いや考えを十分に表現することには困難を伴うこともあるとされている
  • 他の入院患児と比較しても、患児に真実を話していないことが問題を大きくしていることは明らかであると感じている。患児の‘自律’という自己決定の能力には限界があることを念頭において、患児へのインフォームド・アセント(コラムはこちら)の要素を大切にしてケア計画を進め、小児医療で推進されている患児の視点に立ったプレパレーション※の考え方を基本とした計画を立てていきたいと考えているが、どのようにしたら親が受け入れてくれるか分からず困っている
  • 親の気持ちも受け止めて共に考え支援しながら患児と向き合い、患児と親の両者の安心と納得を得ながら進めていきたいと考えている。
    ※ プレパレーション:患児が受ける治療等により患児にもたらされると考えられる心理的混乱(不安感や恐怖感)について、患児にも分かる言葉で説明したり、治療から患児の注意をそらすなどして予防したり緩和したりすることにより、患児の潜在的な対処能力を引き出し、患児が治療に向き合い、乗り越えることができるよう患児を支えること

4. 倫理原則に照らして考えてみよう

倫理原則に照らしてこの事例における価値の対立を考えると、両親の患児に対する思いが、患児の意思を尊重する自律尊重原則、患児に害となりうる行為をなさない無危害原則と対立していると見ることができる。
また、何が患児にとって最善かという点において、両親と医療従事者の間で対立が起きているので、患児にとって最善と思われる行為を為すべきという善行原則に照らして事例を分析する必要があることも分かる。
これらの原則について順を追って確認することとしたい。

1. 自律尊重原則について 日本においては、「子ども扱い」「子どもだまし」という言葉に表されるように、子どもはまだ理解が十分でないという理由で、子どもという段階にある人を軽んじていた傾向が古来よりあった。また、かつては子の縁談を親が決めたように子どもは親の所有物であるという意識を持つ人もいたため、まだそのような意識の名残として、子どもを一人の人格ある個人とは捉えない風潮が文化の中に残っている場合もある。
医療の現場においても、小児に対する治療に関して、これまでは保護者へのインフォームド・コンセントを行えば十分であるという考え方が一般的であったが、近年子どもへのインフォームド・アセントの重要性が謳われるようになった。
小児医療において患児の自律を尊重するためには、患児の成長発達に応じて、患児が理解・判断できる範囲を考慮し、適切な情報提供、疑問への丁寧な説明を行い、患児の理解度を確認していくことが求められる。
しかし、本事例においては、患児の両親が患児の意思に関わらず、患児には病状や治療方針などを伝える必要はなく、すべて両親が判断するものと考えており、患児の自律尊重原則に反する結果を招いている。
大人の側から見た一般的な子どものイメージで自律を捉えるのではなく、患児自身の意見を医療者や親が確認しながら医療を進めることが、患児の自律尊重原則を守ることにつながる。
子どもには子どもなりの考え方があるということを十分理解し、その子どもの権利や尊厳を尊重することが求められる。
2. 無危害原則について この事例においては、たとえ両親へのインフォームド・コンセントが十分に実施されていても、患児に適切な説明のないまま患児の意思に反して医療者が治療を進めることで、結果的に患児に間接的な危害を及ぼすという可能性が生じている。
例えば、真実を伝えられていないと患児が感じることにより、他者とのコミュニケーションに消極的になり、それに伴い闘病意欲が減退するなど、身体的かつ精神的に影響を及ぼすことが挙げられるだろう。
その意味において、無危害原則にも注意してこの事例を見る必要がある。
しかし一方で両親は、患児に病状などについて真実を話すことで患児が不安に思ったり怖がったりするだろうと思っており、それこそが患児にとっての危害であると思っていることが見受けられる。
ここには医療者と両親の間に「何が危害であるか」という点における考えの相違がある。
何が患児にとっての危害であるかについては、次の善行原則にも関わってくる問題であるので、次に詳しく説明したい。
3. 善行原則について 大人の側から見た一般的なイメージで子どもにとっての最善を考えるのではなく、患児自身の意見を医療者や親が確認しながら医療を進めることが、患児にとっての善行原則を守るかかわりになる。
この事例において患児にとっての最善は何かと考えると、病気が治癒・緩和し、友達とともに小学校に通えるようになることであるが、そのための最善の道は患児自身が一つひとつの治療の意味を理解しながら協力的に進めていくことである。
ここで患児にとっての最善の道という視点を忘れて最終目的ばかりに目を向けてしまうと、患児の意思や気持ちを取り入れずに、医療者や両親などそれぞれの大人の事情を中心に考えた対応となってしまう。
そこで、検査や処置を患児が納得しているかどうか今一度確認してみると、医療者とのコミュニケーションを求めて、患児が「(処置を進めるのを)待って」と言ったとき、その言葉を無視して無理やり処置を進めようとするのではなく、「待って」と言った理由を探るためにきちんと患児と向き合うことが必要であることが分かる。
また、患児が不安に思うだろうという推測のもとで、患児に真実を伝えず、両親が患児の代わりに意思決定を行うことは、逆に患児を不安にさせている要因となっていることも分かる。
入院生活や検査・処置・治療について、患児自身が疑問や不安を感じているため、たとえ身体的には患児にとって最善の治療であると他者が客観的に判断できていても、それを患児が理解し納得していない状況においてはそれが患児にとって最善の治療とは言えないのである。

以上のことから、この事例においては、子どもであっても、患児が「1人の権利をもった主体」としてその意思を尊重され、自分自身のことについて自分なりの意思をもつ存在として扱われるよう自律尊重原則、無危害原則、善行原則に則って受け持ち看護師が取り組むことの重要性が分かる。
受け持ち看護師がカンファレンスを開いて話し合いの場を設定したことは、倫理的行動であると評価することができる。では、具体的に看護師としてこの状況をどのように考えればよいのか、そして何ができるかについて、次に考えてみることにしよう。

5. 看護師として守るべき倫理的価値・とるべき行動

看護職は、患児の気持ちや意思を確認し、患児の力を引き出し支えることにより、各場面でインフォームド・アセントを重ね、適切な鎮痛剤の使用などを含めた最善の方法を取り入れていくことができる専門職である。
このことを踏まえ、看護師としてとるべき行動を以下に導き出してみたい。

  • まず受け持ち看護師が行うべき重要なことは、患児と両親が体験を共有し、円滑にコミュニケーションをとることができているか否かを確認し、患児と両親の感情の機微に配慮しながら両者を支援することである。
    自律尊重原則は重要であるが、患児が一人で判断・決断することは困難なことも多い。そのようなときに、いかに両親が患児の決断をサポートできるかは、医療従事者と両親との人間関係にかかっている。両親と医療従事者との間に良好な信頼関係が構築されていれば、両親も患児の意思決定支援に対して協力的になると思われるので、看護師は患児との間のみでなく、両親との間にも良好な人間関係を構築するよう努める必要がある。医療従事者の考えを無理なく理解してもらうことができるよう、両親との丁寧な話し合いを重ねることなどが求められる
  • 守るべきは患児自身の権利である。患児を「1人の権利をもった主体」として捉え、患児の意思を確認、尊重しながらかかわることが重要である。
    そこで、まずは両親に対し、患児の意見を尊重することの重要性を説明する。
    具体的には、子どもの発達段階に関する学問的理論を交えながら、両親が患児の権利を守っていると思っていても、患児には患児なりに考える能力があるため、患児の考えが両親の考えと一致しているか否かを確認することが重要であるということを説明する。
    そして、子どもの発達過程から考えると、患児は自分の身体について十分に理解できる年齢に達しており、丁寧に説明すれば患児に病状や治療の内容を話すことが患児の療養生活や成長発達に必要であることを、過去の事例等を用いながら説明する。
    そのうえで、患児・家族・医療者が同じ目標を目指すことで互いの関係が良好になる可能性が高いことなど、患児へのインフォームド・アセントがどのような利点をもっているかということを伝えれば、両親も耳を傾けやすいと思われる。また同時に、インフォームド・アセントを行った後のフォローは医療者が責任を持って行うということを具体的に説明することで、両親の安心感はより一層高まると思われる。
    病名を伝えるか否か、予後についても伝えるか否かなどの説明の範囲については、医療従事者と両親との間で事前に合意を得ると良いだろう
  • 両親の了解が得られたら、入院による療養生活や今後のことなど、患児が知りたいと思っていることについて、両親や医師と相談しながら、両親の同席のもとで患児と率直に話し合うことが望ましい。
    その際、患児が理解できる言葉で説明したり、医療器具等や身体のしくみの模型等を用いたりするなど、患児が具体的にイメージできるようなプレパレーションを行うことが重要である
  • さらに、患児との信頼関係を築きながら、患児の思いや意見を聞き、それを受け止め、今後の検査・処置に患児の意見を取り入れていく。
    また、看護計画の評価も患児と共に行うことを提案することもできる。
    検査・処置時に伴う痛みのコントロール方法も患児とともに考え、医師と相談・調整していくことも患児の意思を尊重するための重要な方法である
  • その過程では、患児が質問したり、可能な範囲において自分で選択したり、決めたりすることができる機会を保障しながら、患児の主体性が発揮された場面や患児が頑張った場面を支持し、称賛することで、治療に対する患児のモチベーションを維持することが求められるだろう。
    学校に戻ることができるか否かにかかわらず、学校の友達や授業に関する情報など、患児が知りたいと思っている情報については、必要以上に隠すことなく伝えることも看護師の役割ということができるだろう

以上のことを確実に行うことで、患者の権利を擁護するという看護師の役割は果たせられるだろうと考える。

【参考文献】

  • American Academy of Pediatrics,Committee on Bioethics:(1995). Informed consent, parental permission, and assent in pediatric practice, Pediatrics, 95(2), 314 - 317.
  • 石浦光世(2007).子どもの成長・発達に特徴的な認知や発達課題をとらえたかかわり. 小児看護.30(13).1789‐1796.
  • 片田範子(2004).‘インフォームド・アセント’とは 小児医療現場における「説明と同意」の現状と課題,保険診療,59(1),81 - 84.
  • 中野綾美(2006).小児看護学‐小児の発達と看護.メディカ出版.
  • 及川郁子・田代弘子編(2007).病気の子どもへのプレパレーション - 臨床ですぐに使える知識とツール - (Primary Nurse Series).中央法規出版.
  • 筒井真優美(2007).小児看護学第5版.日総研出版.
  • 楢木野裕美(2006).プレパレーションの概念,小児看護,29(5),542-547.

 

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