「大学院生が研究用に持ち帰った患者データ USBごと紛失」
「患者の個人情報が保存された 医師の個人パソコン盗まれる」
このようなタイトルの新聞記事が頻繁に紙面に登場しています。
患者の氏名や病態が外部に漏洩するおそれのある事柄であり、一般市民として「私のデータは大丈夫だろうか」という不安を覚えると同時に、同じ医療職として「明日はわが身か」という危惧も感じます。
私たち看護職も、勉強会や研究発表等のために、数多くの患者情報を収集し、それをデータ化しています。
看護研究における倫理的配慮については、「看護研究における倫理指針」(2004)に示しているとおりですが、情報の収集にあたって患者本人の同意を得ていても、そのデータの取扱方法や管理方法の詳細まで患者に説明することは稀ではないかと思われます。
では、あなたの場合、研究に必要なデータを本当に慎重に取り扱っていると断言することはできますか?
USB等に入れて自宅に持ち帰ったり、共同研究者宛に普通郵便で郵送したり、自宅の個人パソコンにメール送信したりなど、そのデータが他人の目に触れるおそれのあるかたちで持ち出したりしてはいないでしょうか。
どこまで慎重にデータを取りっていますか?
医師が収集する情報が患者の検査結果など統計的な数値データが中心である一方、看護職が収集する情報は患者の療養生活の実態などに関する文字データが中心であることが多いのが特徴です。
そのため、看護職が収集する情報は、医師が収集するそれに比して、患者の人格やプライバシーに関わるものが多いと言えます。
それは看護職がケアを行う際の着眼点が「全人的な患者」であるためであり、看護研究を行ううえで患者の生活に密着した情報を収集することは不可欠であると言えるでしょう。
看護職はこのことを十分に自覚し、情報の収集および収集した情報の取り扱いにおいて、患者のプライバシーに対する配慮を欠かさないよう努めなければなりません。
たとえ故意でなくとも専門職としての秘密保持義務に反した場合には、保健師助産師看護師法第42条の2や刑法第134条などにより処罰の対象となる可能性もあります。
保健師助産師看護師法 (昭和23年法律第203号)
最終改正:平成18年法律第84号
刑法 (明治40年法律第45号)
一方、看護職は「看護者の倫理綱領」においても、自らの秘密保持について以下のように謳っています。
看護者の倫理綱領 (平成15年、日本看護協会)
さらに、研究における倫理的配慮に関しては、国や職能団体、関係学会等がそれぞれガイドラインを作成しています。
研究を行う際には、各ガイドラインに目を通し、自分の研究における個人情報の取り扱いの妥当性を確認する習慣を身に付けましょう。施設独自のガイドラインがある場合でも、国や職能団体のガイドラインを知っておくことは必要です。
研究における倫理的配慮に関する主なガイドライン
その上で、施設の倫理審査委員会に諮ることが、徹底した個人情報保護のためには望ましい手順であると考えられます。
研究倫理に関するガイドラインに沿って研究計画を立てていますか?
それでは、専門職として患者の秘密保持義務について、どのような配慮を行えばよいのでしょうか。
まずは、情報の収集にあたって、研究等に必要な情報以外のもの、特に個人の特定化につながるものを収集しないことが大前提となります。
厚生労働省「臨床研究に関する倫理指針」(2003)では、「個人情報」を以下のように定義しています。
これに基づき、看護職は研究を始める前に、当該研究に必要な個人情報が何であるかを適切に検討する必要があります。
研究に特に必要はないが、基本情報として収集・掲載されていることの多い個人情報には、体的に以下のようなものが考えられます。
など
上記以外にも、例えば患者の家族背景等について、研究に必要な範囲以上の内容を収集することも避ける必要があります。
日頃から看護記録などをとっているため、看護職はできるだけ多くのデータを記載しがちですが、看護実践におけるアセスメントと研究における情報収集は性質が異なるということを理解することが重要です。
情報を収集する際に、研究の目的が何であったかを今一度確認すると良いでしょう。
次に、データの取り扱いに配慮することが不可欠となります。
厚生労働省「臨床研究に関する倫理指針」(2003)では、研究者等の責任として、以下の内容が記されています。
その取り扱う個人情報の漏えい、滅失又はき損の防止その他の個人情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。
また、死者の人としての尊厳及び遺族の感情にかんがみ、死者に係る情報についても個人情報と同様に、情報の漏えい、滅失又はき損の防止その他の死者に係る情報の安全管理のために必要かつ適切な措置を講じなければならない。
本会の「看護研究における倫理指針」(2004)には、データの取り扱いについて、以下のようにまとめられています。
研究の対象となる人のプライバシー保護については上記④が関係していますが、具体的には以下に挙げるような対応が必要と考えます。
また、研究結果の公表段階においては、固有名詞や「当院」「本校」等の表現の使用を避けるとともに、事例研究や対象者数が少ない研究においては、その個人や対象集団の特定につながる情報の記載を避けることも必要となります。
以上に提示したことは非常に初歩的で簡単なことのようでありながら、つい実施してしまうことが多い事柄です。
多くの情報が飛び交う現代社会において、多くのデータに簡単にアクセスすることができるようになり、データの重要性や希少性について認識が薄くなっている傾向があります。
この記事を読んだ皆様は、ぜひこれを機に、自分の収集した情報の重大性を再認識し、厚生労働省や本会の指針を参考にして基準を設けるなど、データ管理を徹底していただきたいと思います。