看護実践情報

倫理原則

日々の臨床現場で、医師や同僚と患者の治療や看護ケアの方針について話合う際、何か釈然としない思いを抱くことはありませんか。その釈然としない思いを抱くのはなぜでしょうか。そのような思いを抱く場面を思い浮かべると、多くの場合、自分が看護師として正しいと考える判断と異なる判断に直面したときではないでしょうか。

医療現場での正しい判断の筋道や、医療従事者の行為の正しさを問う学問領域である医療倫理学では、このような問いを検討する枠組みとして医療倫理学の四つの原則を提示しています。これらの原則は、看護実践の基本的概念である「患者のニーズ」や「患者中心の看護」の中に含意する要素といえ、他の医療専門職の理念にも共通し、いわば医療専門職間の共通概念ということができます。
また、医療専門職に課せられた義務や規則の基礎となる二つの原則をこの四つの原則に加えた六つの原則で、行為の正しさを検討する場合もあります。
このように、倫理の原則を用いて検討することで、釈然としない思いは何によるのか、なぜ判断に困惑するのか、判断の違いは何によるのかなど、問題を顕在化させることができ、解決のための検討事項を見つけることができるようになります。つまり、これらの原則は倫理的に考えるためのツールであると言うことができるでしょう。

そこで、ここでは、まず倫理の六つの原則をすべて紹介します。その上で、医療倫理学の四つの原則を用いてある症例を検討し、それぞれの原則によって支持される解決策とはどのようなものであるかについて考えてみます。

原則を用いた症例の検討

四つの原則の説明

自律尊重原則

自律(Autonomy)とは、「自由かつ独立して考え、決定する能力」であり、また「そのような考えや決定に基づいて行為する能力」です。

臨床場面において、患者の自律を尊重することとは、患者が自分で決定できるよう、重要な情報の提供、疑問への丁寧な説明などの援助をおこない、患者の決定を尊重し従うことを、医療専門職および患者の家族など、患者に関わる周囲の人々に対して求めていることを意味します。

善行原則
(Beneficence: the promotion of what is best for the patient)

この原則は、「患者に対して善をなすこと」である。特に医療の文脈においてこの原則に従うことは、患者のために最善を尽くすことを要求していると言えます。

そこで、患者をケアする医療専門職は客観的な評価によって、その患者の最善の利益を決定することに意を注ぎ取り組む、と解釈され易い。しかし、患者の最善の利益とは、医療専門職の考える患者にとっての最善の利益をさすのではなく、その患者の考える最善の利益をも考慮することを意味します。

無危害原則
(Non-maleficence: avoiding harm)

この原則は、善行原則と連動した意味合いをもち、「人に対して害悪や危害を及ぼすべきではない」とされます。この原則から、1) 「危害を引き起こすのを避ける」、2) 「害悪や危害を及ぼすべきではない」という責務が導かれます。

医療専門職の無危害の責務を考えたとき、危害を加えない責務および危害のリスクを背負わせない責務を含むと言うことができます。例えば、看護職の無危害の責務として転倒、転落の予防など、注意義務 - 危害を及ぼすことを避けるために十分で適切な注意を払うこと−などがその一例です。

正義原則
(Justice)

正義とは、正当な持ち分を公平に各人に与える意思を言い、正義原則とは、「社会的な利益や負担は正義の要求と一致するように配分されなければならない」ものを言います。この正義原則における分配には、1) 形式的な正義 - 類似した状況にある患者は、同様の医療を受けられるべきである - 、2) 実質的な正義 - ある患者集団に利用可能な医療レベルを決める際には、その患者集団のどのような違いに応じて決められるべきか - があります。

臨床現場においては、最善の可能な医療資源(集中治療室のベッド、災害医療時の医療資源など)をすべての人に提供できるわけではありません。医療システムなど様々な状況の中で、医療専門家は、個々の患者に費やすことができる資源の範囲、提供できる治療の限界について判断することを求められているのです。

医療専門職の義務の基礎となる二つの原則

誠実(Veracity) 誠実の原則とは、「真実を告げる、うそを言わない、あるいは他者をだまさない義務」というものである。人に対して正直であることは、医療現場における信頼関係を構築する上で、特に重要です。なぜなら、患者との信頼関係なしに、治療効果やケアの効果を期待することは不可能であるからです。
忠誠(Fidelity) 忠誠の原則とは、「人の専心したことに対して誠実であり続ける義務」というものです。医療従事者にとって患者からの情報提供なしに、最善の治療を勧めることはできません。忠誠の中に含まれる専心や献身さ、確約は、看護師と患者間の信頼関係に潜在しており、医療専門職の義務である守秘義務や約束を守るという規則の基礎となるものなのです。

[長尾式子改変 参考文献2、3、6をもとに作成]