1981年9月/10月、ポルトガル、リスボンにおける第34回WMA総会で採択
1995年9月、インドネシア、バリ島における第47回WMA総会で修正
2005年10月、チリ、サンティアゴにおける第171回WMA理事会で編集上修正
医師、患者およびより広い意味での社会との関係は、近年著しく変化してきた。 医師は、常に自らの良心に従い、また常に患者の最善の利益のために行動すべきであると同時に、それと同等の努力を患者の自律性と正義を保証するために払わねばならない。以下に掲げる宣言は、医師が是認し推進する患者の主要な権利のいくつかを述べたものである。医師および医療従事者、または医療組織は、この権利を認識し、擁護していくうえで共同の責任を担っている。法律、政府の措置、あるいは他のいかなる行政や慣例であろうとも、患者の権利を否定する場合には、医師はこの権利を保障ないし回復させる適切な手段を講じるべきである。
訳:日本医師会
患者の権利に関するリスボン宣言とは第34回世界医師会総会(1981年ポルトガル・リスボンにて開催)にて採択された、患者の権利に関する世界宣言です。その後、第47回世界医師会総会(1995年インドネシア・バリにて開催)、第171回世界医師会理事会(2005年チリ・サンティアゴにて開催)にて修正されています。
序文と11の原則から成り立ち、医師や医療従事者、医療組織が保障すべき患者の主要な権利について述べています。
「患者の権利に関するリスボン宣言」は、臨床現場等で生じる倫理的問題について検討する際のツールの一つであり、医療従事者が守るべき患者の権利について具体的に述べられています。ここでは、日本医師会による訳文を紹介しながら、各条文についてより深く理解できるよう、田中さん、佐藤さん、鈴木さん(仮名)の3名の患者の事例をあげて考えてみたいと思います。

1年前にCOPD(慢性閉塞性肺疾患)
を指摘されている。
喫煙40本/日 大手企業重役
院長と知り合いである。
妻と子供2人との4人暮らし

前立腺がんで内服治療中である。
やせ型 入院を拒否している。
無職一人暮らし

うつ病で心療内科通院中、
内服治療中も「死にたい」と思っている。
両親と共に生活
週末の金曜日、外来受付終了時間になる頃、肺炎を思わせる発熱と倦怠感を訴える患者2名が同時に来院した。

内科部長が診察した結果、両者とも細菌性肺炎が疑わしいため入院加療が必要と判断された。佐藤さんは高齢で、前立腺がんに罹患しており感染しやすい状態、自力での生活管理は難しい。一方、田中さんはCOPDにより呼吸機能が低下しているため、今後悪化する可能性が高い。医師は両者に入院の必要性を感じたが、ベッドがひとつしか空いていないため、ベッドコントロールを担当している看護師長に相談した。
調整の後、田中さんは呼吸器内科に入院した。肺炎に対し担当医は、抗生物質と解熱鎮痛剤の点滴治療を開始するなど、院内のクリティカルパスにそって治療を実施した。

外来で抗生物質の点滴を受けた佐藤さんは「家のことが気になる」、「ガンだから自宅でのんびりさせてくれ」、「近くの医者の方が便利だ」と、自宅の近くにある診療所への通院を希望した。
内科部長は佐藤さんの希望を了承し、現在の症状や治療内容をまとめ、佐藤さんが希望する診療所への紹介状を作成した。また、在宅療養で必要となるサービスを希望する場合は、こちらの病院でも相談可能であることを説明した。

田中さんは長期にわたる喫煙により、呼吸機能が低下していたことから、気管支拡張剤の内服やステロイドの吸入治療を継続していた。
歩行中に生じる息切れのため、時々立ち止まることがしばしばあった。また、夜間睡眠時には呼吸困難を訴えていた。担当医はこれらの症状と動脈血ガス分析の結果より、田中さんが在宅酸素療法の適応であると判断し、田中さんに説明した。
田中さんは「酸素吸入なんてやりたくない」、「人との交渉や会議が仕事なのに、そんな姿を周囲に見せられない、薬だけで治療して欲しい」と言った。

これに対して、担当医は酸素療法を導入した場合の効果と、酸素療法を選択しなかった場合の予後について詳しく説明した。
説明を受けた後、田中さんは病室に戻ったが、同席していた看護師が、田中さんは興奮しており、話の内容をよく理解できていなと判断した。そのため、再度、説明が受けられるような機会を設定した。医師は、丁寧な説明を繰り返した後、最終判断はご家族と相談して田中さん自身が決定するように勧めた。

田中さんが入院している病棟では、看護学生の実習を受け入れている。田中さんは病棟の看護師長から、学生に受け持たせていただきたいと、実習への協力を依頼された。
看護師長は田中さんに、個人情報の保護、看護援助に関すること、援助の拒否に関する患者の権利等、必要事項について説明を丁寧に行い、実習の同意を得たため、同意書の記載を依頼した。

鈴木さんは朝会社へ出勤するために、ホームで電車を待っていたが、発作的に入ってきた電車に飛び込んだ。救急車で救急外来に搬送された。意識はもうろうとし、医療者との会話は成立しなかった。そこで、病院は所持品を確認し、家族と連絡を取り、来院を依頼した。 医師は家族に緊急手術が必要であることの説明を行い、代理人としての家族に手術に関する判断を委ね、承諾を得た。幸い、外傷は下肢のみであり、緊急手術により挫滅創からの出血も止血され、無事手術は終了した。

術後第一病日、鈴木さんの意識は清明になり、全身状態もだいぶ安定したことを確認した。そこで医師は、入院後の治療内容と経過について鈴木さんに説明し、今後は何を目標にして治療を継続していくか、わかりやすく説明した。

患者の意思に反する診断上の処置あるいは治療は、特別に法律が認めるか医の倫理の諸原則に合致する場合には、例外的な事例としてのみ行うことができる。

術後1週間、手術を受けた鈴木さんの下肢の状態は、病棟内を松葉杖で歩行できるまで回復した。ところが鈴木さんは気分の変動が激しく、突然、泣きだしたり、「死んでしまいたい」という言葉をもらしたりする等、感情が非常に不安定となった。ある日、鈴木さんは看護師に「病棟を出て散歩したい、一人きりになりたい」と申し出てきた。 看護師は、鈴木さんの体調がまだ安定していないことや、外出することで生じる危険等の理由を説明し、一人での外出ではなく、看護師が同行して外出することを提案した。

鈴木さんは「なかなか歩けるようにならないのはなぜか」、「つらい気持ちになってしまうのはなぜか、自分の病気について詳しく教えて欲しい」等と看護師に言うようになった。
看護師は、こうした状態について医師に報告し、医師から十分に説明が受けられるよう説明の場を設定した。

田中さんを受け持った看護学生は、患者の個人情報はあらゆる場面において保護されなくてはならないこと、そして、これは看護教育の場においても同様であることを学び、患者の情報を部外で他言したり、記載したメモやノートを紛失したりしないよう留意した。その中、看護学生は田中さんに実施した看護について事例研究会での発表を行うことを考えた。
看護学生は、受け持ち患者である田中さんに個人が特定できるような情報は記述せず、研究会終了後には配布した記録など使用した資料は責任を持って処分することを約束し、事例研究会での発表について同意を得ることができた。
すべての人は、個人の健康と保健サービスの利用について、情報を与えられたうえでの選択が可能となるような健康教育を受ける権利がある。この教育には、健康的なライフスタイルや、疾病の予防および早期発見についての手法に関する情報が含まれていなければならない。健康に対するすべての人の自己責任が強調されるべきである。医師は教育的努力に積極的に関わっていく義務がある。

田中さんのCOPD管理について、カンファレンスによって教育計画を立案することとなった。

そこで、田中さんの仕事上での役割を尊重しライフスタイルに無理なく組み込めるプログラムをめざして、田中さんの意向を聞きながら、医師と看護師を中心に看護学生も加わり教育計画を作成した。内容は、疾患の理解を深め、安定期・増悪期における自己管理能力を獲得し、医療者とともに取り組めるものとした。特に禁煙については早急に対応していくことがあげられた。また、在宅酸素療法の開始に向けて、地域医療ネットワークの連携調整、身体障害者福祉法や障害者自立支援法の活用など、田中さんと家族が在宅で管理していくための方法について、田中さんの生活が豊かであり続けられるように検討した。
カンファレンスによって計画された内容にそって、田中さんと家族の双方に説明を行い、田中さん自身が最も受け入られる方法の選択を支援した。また、疑問や不安な点についても一緒に考え、対処方法などについても説明した。

自宅で過ごしていた佐藤さんは、前立腺がんの骨転移のため腰痛が増強し、ひとりでは生活ができない状態となり、救急車で緊急入院した。腰痛はかなり辛く、下肢にはしびれが生じていた。佐藤さんはベッドの上でじっとしていることしかできず「腰が痛い・・・この痛みをなんとかしてくれ、こんなに痛いのなら生きていても仕方ない」と険しい表情で担当医に訴えた。
看護師は佐藤さんのベッドサイドに頻回に訪問し、佐藤さんの腰部に手をあてながら辛い気持ちに寄り添うように努めた。担当医に佐藤さんの状態を報告した結果、痛みをやわらげる鎮痛剤が投与された。以後、佐藤さんは夜間もぐっすり眠れるようになり表情も穏やかになっていった。

佐藤さんの妻は20年前に他界し、その後、佐藤さんは妻と暮らしていた故郷を離れ、ずっと一人暮らしを続けていた。
佐藤さんは自分が長くは生きられないことを悟り、「今年はまだふるさとに帰ってない。毎年、妻の墓参りをしていたのに・・・」などと話すようになった。
担当医と看護師は、佐藤さんの希望が実現できるよう、搬送サービスの利用についても提案するなど佐藤さんとともに検討を始めた。

患者は、信仰する宗教の聖職者による支援を含む、精神的、道徳的慰問を受けるか受けないかを決める権利を有する。
佐藤さんはある宗教の熱心な信者であった。佐藤さんは、「他の信者たちがお祈りのために見舞いに来るが、入院している大部屋で『祈りの会』を開催してもよいか」と看護師に問い合わせた。
看護師は、他の患者の迷惑にならないように会場を別の静かな場所に設けることが可能であることを説明し、そこで信者たちもゆっくりくつろいでもらうことを提案した。佐藤さんは大変喜び、信者たちにその旨を連絡した。

「患者の権利に関するリスボン宣言」の解釈について、田中さん、佐藤さん、鈴木さん(仮名)のケースを用いながら、入院生活を通じて生じるであろう主要な権利について、各条文に照らし合わせて作成しました。 臨床現場等で生じる倫理的問題について再考する際にご活用いただければ幸いです。
*今回ご紹介した「患者の権利に関するリスボン宣言」は、日本医師会訳「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」を用いております。全文は以下のwebサイトからご覧いただけます。
日本医師会ホームページ内「患者の権利に関するWMAリスボン宣言」