看護実践情報

倫理と法

それでは、倫理と法はどう異なるのでしょうか。
国語辞典で「法」を引くと、

社会秩序維持のための規範で、一般に国家権力による強制を伴うもの。

と示されており、

人として守り行うべき道。

とされる「倫理」とは異なるレベルの規範であることが分かります。

どちらも物事の善悪の基準を示している点や、どちらもそれが欠如している状態において明らかになる点など、共通点もあります。
しかし以下のような点において異なります。

倫理
「どのような行為が正しいか」を示す 「どのような行為が正しくないか」を示す
内的な自律から生じる 外的強制力によって作られる

看護職に限って考えると、「保健師助産師看護師法」は国によって規定される看護職の規定であり、正しくない行為をとった場合の罰則規定も明示されています。
一方、「看護者の倫理綱領」は、看護職自身が自らの専門職としての責任の範囲を社会に対し明示するものであり、特に罰則などについては定めていません。

【参考】

次の図は、法と倫理の規定のレベルの違いを、看護実践に関連する主要法令と基準・指針等を用いて具体化したものです。

法的枠組み 法律・政令等 規定内容
日本国憲法(1946) 基本的人権の享有(第11条)
自由・権利の保持の責任とその濫用の禁止(第12条)
国民の生存権、生存権の保障(第25条)
医療法(1948) 医療提供の理念(第1条の2)、医療関係者の責務(第1条の4)
保健師助産師看護師法(1948) 保健師の定義(第2条)、助産師の定義(第3条)
看護師の定義(第5条)、准看護師の定義(第6条)
保健師・助産師・看護師の免許(第7条)、欠格事由(第9条)
免許の取消、業務停止及び再免許(第14条)、
医療行為の禁止(第37条)秘密保持義務(第42条の2)、
罰則規定(第43条〜第45条の2)
医師法(1948) 非医師の医業禁止(第17条)

専門職である看護職としての社会的責任の明示

看護職能団体による自主規制 基準・規定、行動指針等 内容
日本看護協会 看護者の倫理綱領(2003) 看護専門職の行動指針
看護業務基準(2006年度改訂版) すべての看護職に共通の実践レベル
領域別看護業務基準
  • 訪問看護領域における業務基準(1998)
  • 小児看護領域の看護業務基準(1999)
  • 精神科看護領域の看護業務基準第2版(1999)
  • 母性看護領域における周産期看護の看護業務基準(2000)
  • 療養病床を有する病棟の看護業務基準(2003)
  • 医療機関における老人看護領域の看護業務基準(2004)
領域ごとの看護の特徴を踏まえて、看護業務基準の大項目を中項目、小項目まで記述したもの
  • 新版 保健師業務要覧(2005)
  • 新版 助産師業務要覧(2005)
  • 看護管理者のためのリスクマネジメントガイドライン(1999)
  • 静脈注射の実施に関する指針(2003)
  • 感染管理に関するガイドブック改訂版(2004)
  • 看護研究における倫理指針(2004)
  • 臨床倫理員会の設置とその活用に関する指針(2006) 他
看護実践をガイドするもの

看護実践の現場での活用・展開

実践現場 基準・規定や行動指針等 内容
施設ごとの基準、ガイドライン等 施設の理念、対象の特性等を加味したより実践的なもの

図:看護実践に関連する主要法令と基準・規定

医療現場で看護職が直面する倫理的問題は、法がそれを解決してくれるものではありません。
「その場面においてどのような行為が最善であるか」という倫理をもってでしか、倫理的問題は解決することができないのです。
ただ、倫理的問題を検討するにあたり、「何をしてはいけないか」を知る必要もあることから、看護職には医療に関する法律について一通り心得ておくことが求められます。

【参考文献】

  • バーナード・ロウ著、北野喜良・中澤英之・小宮良輔監訳:医療の倫理ジレンマ 解決への手引き-患者の心を理解するために、西村書店、2003
  • 稲葉一人:法の基礎、入門・医療倫理T、赤林朗編、勁草書房、2005
  • 赤林朗:生命・医療倫理学とは、東京大学医学系研究科生命・医療倫理人材養成ユニット2007資料
  • 日本看護協会編:看護業務基準集2007年改訂版、日本看護協会出版会、2007