看護実践情報

看護職の人権

倫理的問題の概要

看護実践家は職業人もしくは専門職業人であるが、専門職業人の場合には専門家としての自律的判断と行為および責任が伴う。すなわち、疾病の予防や苦痛の軽減、健康の増進および維持において看護職としての責任をもってケアを展開することになるが、その過程の中で患者や家族のニーズや権利が擁護されない場合において、看護職は倫理的問題を有することとなる。しかし、一方で、患者・家族の権利を守る看護職自身が、人としての権利を侵されることも多くなってきている。
看護者が、職場で暴力やハラスメント【コラム1・2】などといった、人としての権利を脅かされている実態が明らかになり、日本看護協会の2006年の調査によると、25%の看護職が患者や職員等から暴力被害を受けたと報告している。そのうち、「患者・ケア対象者」から受ける身体的暴力が96.6%、セクシャルハラスメント56.1%、言葉の暴力33.7%、また、セクシャルハラスメントの加害者は「患者・ケア対象者」に次いで「他部門の職員」12.1%、「同じ部署の職員」9.8%であり、言葉の暴力の加害者は、「患者・ケア対象者」に次いで「同じ部署の職員」が25.1%、「管理職・所属長」が18.2%と、患者・ケア対象者から以外にも看護職が受ける暴力、ハラスメントは多い傾向にある1)
一方、労働環境における看護職の人権については、労働安全衛生法で保障されている。しかし、労働条件において自分たちの権利が阻害されたり、労働環境の改善が必要な内容は、夜勤の勤務体制、超過勤務、看護職配置状況などについてが多い。職場の体制・労働環境において、看護職の人権が重要視されなかった理由としては、次のようなことが考えられる。

  1. 看護教育の歴史の中で、専門家としての幅広い視野をもとにした自律的判断・行為よりも自分を犠牲にして人や社会に奉仕するという価値が優先されてきたこと。
  2. 医師や男性の多い社会の中では、女性の多い看護職が、医療における階層性の中でも抑圧される傾向にあるとともに、一人の人間としての人権が軽んじられてきたこと(しかし、今日、女性の多い職場の中で男性看護職の権利が軽んじられることも見逃せない)。
  3. 看護職自身が、みずからを犠牲にしても患者・家族に貢献するという精神で、看護を提供する面もあり、看護職自身が自分の権利の獲得に対する意識が低かったこと。
  4. 看護職自身が、自分の労働条件や勤務条件の改善などの仕事を取り巻く労働環境の改善を求める意識が低かったこと。

しかし、医療技術の進歩・複雑化や国民の権利意識の高まりにより看護職の人権に関する問題も論じられるようになってきている。看護職の人権に関する問題として、次のような倫理的問題があげられる。

  1. 医師や他職種、上司や同僚からの言葉によるハラスメント
    • 仕事や業務ができないことを患者の前などで指摘される。
    • 明らかに自分が非難されているということがわかるように、人前で中傷、誹謗を受ける。
    • 不当に自分の実施したことを否定され、人として尊重されたとは考えにくい理不尽な扱いを受ける(理由もなく仕事からはずされるなど)。
  2. 男性職員からのセクシャルハラスメント
    • 医師や病院管理者、事務職員から性的な冗談を言われる。
    • 明らかに自分の意思とは反する性的な嫌がらせを言語・身体的にうける。
      この場合、特に看護職は医師や看護管理者に対しては、職位が上のために指摘しづらかったり、また訴えようとすると日々の病棟での業務が行いにくくなるため、自分の中で抑圧せざるをえなくなる。
  3. 業務上、安全ではないことを強要される、または、他職種がその行為は危険であることを知っているのにもかかわらず看護職には知らせないこと
  4. 病院内において他職種や他患者から暴言、暴力を受けること
    看護職の暴力、暴言に関する調査は最近増えている。若い看護職や経験年数の少ない看護職に患者や他職種からの暴力被害が多く、身体的暴力を受けた看護職が60%、精神的暴力【コラム1】(特に他職種や同僚、上司からが多い)を受けた看護職が40%という結果がでており、どう対応していいのかわからなかったという報告が多くなっている2)
  5. 患者に関するニアミスや医療事故がおこった場合、事実確認がなされないまま、あいまいな情報がとびかい、関係した医療者のプライバシーが守られない、事実が不明確なまま謝罪をする、もしくは、謝罪を強要されることがあるなど、人としての尊重がなされない。
  6. スタッフの精神状態が悪化していたり、様々な出来事が生じた場合に、スタッフの個人情報が病棟管理者から他のスタッフや他の病棟管理者に伝わり、看護者の個人情報が保護されていない。

考えられる方策

これらの倫理的問題に対しては次のような解決策がある。

  1. 日々の看護職間、多職種間のカンファレンスを通じて、看護職の人権に対する意識を高め、価値観の対立の背景、解決のための行動の選択肢などを自由に話せる組織風土を看護管理者、医局管理者が中心となり作り上げる。
  2. 看護職の人権が侵されたような倫理的問題が発生した場合には、自分自身の権利を守るために自己主張を行う。
  3. 個人の権利が侵されたと感じる場合は、権利の主張が通る、通らないにかかわらず組織の中のハラスメント委員会等へ報告するなど、問題をより公的な場面で共有できるようにする。その際、報告した者が、報告したことによる誹謗・中傷など、二次的な被害に合わないように報告者を保護するシステムを組織的に構築しておくことも重要である。
  4. 職場においては、常に自分の言動がハラスメントの対象となることを意識して他職 員との関係を展開する。特に、管理的立場の権威をもつ地位にある者は、言動がパワーハラスメントにつながる可能性があることを意識することが必要である。

【コラム1】
暴力とは、身体的暴力、精神的暴力をいう。身体的暴力とは、他の人や集団に対して身体的な力を使って身体的、性的、あるいは精神的な危害を及ぼすものをいい、たとえば殴る、ける、たたく、突く、撃つなどをさす。精神的暴力とは、言葉の暴力、いじめ、セクシャルハラスメント、その他いやがらせをさす。

【コラム2】
セクシャルハラスメントとは、意に沿わない性的誘いかけや好意的態度の要求等、性的ないやがらせ行為をいう。

【参考文献】

  • 1)日本看護協会:保健医療福祉施設における暴力対策指針、看護者のために、pp.1-5、日本看護協会、2006
  • 2)Davis,J.A,Tschudin,V.,Raeve,L.著、小西恵美子監訳:看護倫理を教える,学ぶ,倫理教育の視点と方法、pp.49-51、日本看護協会出版会、2008
  • 3)Dierckx de Casterle B,Izumi S,et al:Nurses’ responses to ethical dilemmas in nursing practice:meta-analysis、Journal of Advanced Nursing、pp.540−549、2008

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