看護実践情報

多職種の倫理的判断

倫理的問題の概要

医学は疾病の解明、薬剤の開発、技術の向上に伴って、生命危機からの回復、改善、生命の維持に尽力してきた。それは医学のみでなし得たことではなく、同じ方向を向いて患者の治療中・後の生活を調整してきた、様々な職種の医療従事者がいてこそなし得たことである。それら様々な職種は、それぞれ医学を基に患者の回復、改善のために寄り添いかつ専門分化してきた。専門性が高まるということは、専門職としての内的基準を有し、全うすることを意味する。専門職としての立ち位置は、患者の何に着目し、何に寄り添うかによって決まる。その立ち位置は重なり合うものの、多職種間で補いあうものであり、そこには何らかの価値の対立が生じて然りである。医師、看護職、その他の医療従事者の行動は、その行動を導く行為者の中の基準、内的基準(倫理綱領)に基づき判断された結果と言える。つまり、それぞれの倫理綱領が判断の前提、基礎となる。

例えば、医師の倫理綱領には、もっとも古いものとして、ヒポクラティスの誓いがある。徳の倫理や医師の人格への視点から、より客観的な専門職としての内的基準について表明したものが、パーシバルの倫理綱領である。科学技術の発展から、根拠を基にした医学の志向が急速に高まり、患者の利益を医学的証拠から判断することが望ましいとなった。ところが、臨床現場における患者にとっての利益と害悪は、複雑かつ多様化することになり、それにともなって判断も複雑さを要している。今日、世界医師会(World Medical Association; WMA)は医の国際倫理綱領、日本医師会が医師の職業倫理指針を通して、医師の内的基準について明示している。

また、看護の倫理綱領の原点は、ナイチンゲールの誓詞である。この誓詞には、看護職の人格や看護学生の人格の発展が述べられている。その理念は今日、国際看護職協会(International Council of Nurses; ICN)や日本看護協会の倫理綱領の中にあり、看護専門職の内的基準となっている。さらに、医師、看護職以外の医療系専門職、例えば、作業療法士、理学療法士は、専門職としての歴史は短いものの、職能団体がそれぞれの職業倫理、倫理綱領を表明している。

医療専門職の共通する目標は、患者の疾患・障害の回復であり、患者の意向を尊重したQOLの向上である。しかし、それぞれの専門職によって問題のとらえ方、判断の内容と根拠は異なることが指摘されている。特に医師、看護師の倫理的判断や倫理的問題へのとらえ方は異なることが、多くの研究から報告されている。

過去の研究では、患者との関係の中でとらえている問題として、医師は、治療の公平性や医療資源の配分の適正の是非、治療の不確実性、法的、経済的な問題を挙げ、看護職は、患者と家族の希望や症状の管理、退院後の療養生活を挙げている。その背景には、医師、看護職の患者に対する道徳的な姿勢の相違があるからと言える。

医師は、正義を核にした道徳的な姿勢を有しており、その主体として、臨床医学の目標を目指した判断と行動を導くとされる。一方、看護職は、個々の患者や家族の関係性において、他者や状況の解釈を自らの道徳的主体とし、善・悪や正・不正を決定していく関係性の倫理、「ケアの倫理」に基づき、臨床看護学の目標を目指した判断と行動を導くとされる。したがって、看護職は意思決定した主体やその状況を認め寄り添うという立ち位置を担っている。

社会福祉士については、疾患や障害を有する人とその家族が社会で営むために必要な資源の提供を担っていることから、正義を核にした道徳的姿勢を有していると言える。

社会福祉士については、疾患や障害を有する人とその家族が社会で営むために必要な資源の提供を担っていることから、正義を核にした道徳的姿勢を有していると言える。

考えられる方策

日々の現場で看護職が思い悩むこととして、多職種の間で意見が一致しない場合があり、そのような中で看護職として何をすることが望ましいのかわからなくなることも多い。その時、対立する見解や判断の基盤になっている価値を探ることで、適切な価値の補充が可能となる。まさに、その当事者間の価値の補充は関係性や状況の価値を意味し、ケアの倫理に基づく看護職の判断と行動が求められる。

状況の中心である患者については、患者本人の希望は何であるのかなどの吟味を要する。そして、多職種間で出された意見を照合し、どこに見解の相違があるのかなどの共有化を図った上で、看護実践として何ができるのか検討を進める。看護職が悩んだとき、自分の悩みを問題としてとらえ、その問題を解決するための行動をとることが、専門職として重要であると言えるだろう。

【コラム1】
医療の目的とは、医療は医(科)学の実践であり,医(科)学に基づいたものでなければならず、近年、根拠に基づく医療(Evidence-Based Medicine;EBM)が強調され、医学体系として1.予防医学 2.治療医学 3.リハビリテーション医学=障害医学がある。 また、医療の目的は、患者の治療と,人びとの健康の維持もしくは増進(病気の予防を含む)とされる。

  • 臨床医学の目標
    臨床医学とは、基礎医学と対比されていることから、対象は人の病気であり、その診断、治療を目的とする医学と言える。したがって、臨床医学の目標とは、対象となる病気の予防、診断、治療をすることで、人びとの健康を維持、増進することとなる。
  • 臨床看護学の目標
    臨床看護学とは、基礎看護学と対比され、対象は病気や障害をもつ人とその家族であり、それらの人たちの療養上の問題を改善、解決することと言える。したがって、臨床看護学の目標は、病気や障害を持つ人とその家族が抱える療養上の問題を改善、解決することで、人びとが健康的な生活を維持、増進することが目標と言えるだろう。
  • リハビリテーションの目標
    リハビリテーションとは、単なる治療訓練の域をはるかに超えて、全体的な人間としての障害者が人間らしく生きる権利の回復、すなわち、全人的復権と定義されている。したがって、リハビリテーションの目標は、障害と健全な機能、能力を有する人が、その存在を認めたうえでそれとうまくやっていく、つまり、克服する能力を引き出し、障害の軽減とコーピングスキルを開発・増進し新しい人生の再構築を目指し、最高のQOLを実現することとなる

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