看護実践情報

ケアリングの倫理

看護における倫理の特性

看護倫理の理論であり実践法でもあるケアリングの倫理は、原則に基づく倫理に対抗するものとして発展したが、近年では、原則に基づく倫理に反するものではなく、むしろ相補うものであり、看護実践においてはこの両方が必要であると考えられている。

「ケアリングの倫理」とは何か。これについて考えるには看護倫理とは何かをある程度明確にしておく必要がある。これまで看護倫理の理論化の試みがなされてきたが、その多くは、生命倫理(生体医学倫理)において重要視された伝統的倫理原則、例えば、「善行」、「無危害」、「自律尊重」などがそのまま看護倫理においても適切な基盤であると考えられた。しかしながら、医療の実践にとって適切な価値観や医師にとっての倫理的基盤が、看護の実践や看護職と患者の関係にも実際にあてはまるかどうかは疑問とされ、ケアリングが注目された。

看護におけるケアリング

ケアリングは看護においてよく用いられる言葉であり、看護の中心的価値、あるいは中心的概念として位置づけられている。ワトソン(Watson)は、ケアとケアリングを区別し、ケアは看護の具体的行為であり、ケアリングは態度(心の姿勢)であると述べている。つまり、ケアリングとは対象のニーズに応えるだけでなく、対象の立場にとって、ある行為が対象のためになるかどうか(対象の生命や生活の質を高めたり、成長につながるか)まで判断するという看護の特性を顕著に表わす概念といえる。

日本看護協会では、2007年「看護にかかわる主要な用語の解説」において「看護ケア」のなかで次のように「ケア」と「ケアリング」を解説している。

ケア:
従来、身体的な世話を言い表す用語として主に使われてきた。身体的な世話により対象者との相互作用が促進されたり、対象者の心身が安楽になったりすることから、「療養上の世話」もしくは「生活の支援」としてのケアに看護の独自性を見出そうとしてきた歴史も長く、看護職にとって重要なキーワードである。
また、医療の中では、キュアに対して看護の特徴を際立たせるために、キュア対ケアという構図で用いられる場合もある。
ケアリング:
1.対象者との相互的な関係性、関わり合い、2.対象者の尊厳を守り大切にしようとする看護職の理想、理念、倫理的態度、3.気づかいや配慮、が看護職の援助行動に示され、対象者に伝わり、それが対象者にとって何らかの意味(安らかさ、癒し、内省の促し、成長発達、危険の回避、健康状態の改善等)をもつという意味合いを含む。
また、ケアされる人とケアする人の双方の人間的成長をもたらすことが強調されている用語である。

患者−看護師関係を重視する「ケアリングの倫理」

「ケアリングの倫理」では、看護師個人ではなく、看護師と患者との関係を扱う。

女性教育学者のギリガン(Gilligan,C)は、女性の道徳的判断の中に、伝統的な倫理の考え方では表現できない、他者への責任と気遣いを軸とするもう一つの道徳律があることを見いだした。これを受けてワトソンやガドウ(Gadow)らの看護理論家は、看護実践の倫理的側面の中心的価値としてケアリングを位置づけている。ギリガンのいう他者への責任と気遣いがケアリングの倫理であり、患者−看護師間の関係性を特徴づけている。
看護におけるケアリングの倫理とは、患者の身近にいる看護者が患者に関心を寄せ、気遣いをもってかかわること、このかかわることに伴う責任を引き受けることと言える。

倫理的問題へのアプローチ(「ケアリングの倫理」と「原則の倫理」の統合)

ケアリングの倫理は、身近な人への関心や気遣いを中心とするので、これだけだと時に視野が狭くなり、公平性にかける判断になりかねないという批判がある。看護実践家が目の前の患者を気にかけるのは当然であり、これ自体は勧められこそすれ、咎められることではない。しかし、特定の患者のみに関心が向かったり、自部署の患者さえよければ、ということが許されるべきではないことも確かである。看護職者には、自分が直接責任を負う人々への関心だけではなく、同様の問題状況にある人々への関心も育むことが求められる。このような関心のもち方、視野の広がりが、目の前の患者の問題状況を理解したり、解決策を探る上でも役立つはずである。

「ケアリングの倫理」は、一人ひとりの看護師が人間の生命や尊厳を尊重した看護実践を行っていくうえで不可欠であるだけではなく、看護師が葛藤やジレンマを抱いた場合、その状況を分析し、倫理的意思決定を行う際に重要となる「原則の倫理」を補う役割を果たす。医師が行う病状説明やIC取得は、現代医療になくてはならないものであるが、この場面で自ら質問し、自分の考えや希望を的確に述べることができる人は限られている。日々の看護師とのかかわりにおいて、患者が気がかりを打ち明けたり、自分の気持ちに気づいたりすることは多い。つまり、患者にとって善いこと<善行の原則>、患者自身が選んだり決めたりすること<自律尊重の原則>をどのように導くか、このひとつの答えがケアリングなのである。

看護師は日々のケアリングにより、患者その人の考えや意向、望みなどを知ることができる。これは看護の最大の強みであり、この強みを生かす実践が求められている。

【参考文献】

  • 高田早苗:平成15年度版看護白書
  • ヘルガ・クーゼ:ケアリング

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