看護職の労働環境の整備の推進

腰痛予防対策について

看護職と腰痛

職場における腰痛は、多くの業種および作業において見られ、全国で業務上の疾病の約6割を占めています※1。その中でも社会福祉施設や医療保健業などの保健衛生業は、比較的、腰痛の発生の多い職場となっています。保健衛生業で発生する業務上疾病全体の約8割は腰痛です。実は、国の統計上では医療保健業は、社会福祉施設よりも腰痛の発生が少ないという結果となっているのですが、これは看護職の場合、「患者さんの生命に関わる仕事」という意識があり、「腰痛は職業病だから」と考え、腰痛があっても休まずに無理をしてしまう傾向があるためです※2。また、看護職の腰痛に関する調査では、腰痛があっても労災申請しないと回答した人が8割を占め、その理由について申請していない看護職の6割が、腰痛で労災申請できるという認識がないと回答しています※3。しかし、看護職の5〜7割が腰痛を抱えているとの調査結果もあり、潜在的な腰痛の実態は深刻といえます※4、5。さらに、腰痛の有無は看護職の離職意向にも優位に影響しているため※6、看護職場における腰痛予防は人材を確保する意味でも重要な課題といえるでしょう。

【引用文献】

1. 労働者健康福祉機構:平成27年度版労働衛生のハンドブック、2015

2、5. 厚生労働省、中央労働災害防止協会:医療保健業の労働災害防止(看護従事者の腰痛予防対策)、2015

3、6. 日本医療総合研究所:急性期一般病院における看護職員の腰痛・頸肩腕痛の実態調査、2012

4. 日本看護協会:病院看護職の夜勤・交代制勤務等実態調査、2010

腰痛予防対策指針について

厚生労働省では、1994年(平成6年)に「職場における腰痛予防対策指針」(以下、指針)を示し、重量物を取り扱う事業所などに向けて啓発や指導を行ってきましたが、近年、高齢者介護などにより社会福祉施設をはじめとする保健衛生業において、腰痛の発生件数が急激に増加してきたことを受け、2013年(平成25年)指針を19年ぶりに改訂しました。この改訂では、新たに医療・福祉分野にも適用対象を広げ、腰に負担の少ない介助方法などを加えています。指針は腰痛予防対策に求められる特性を踏まえ、腰痛のリスクアセスメントと労働安全衛生マネジメントの考え方を導入しつつ、労働者の健康保持増進対策を含めた腰痛対策の基本的な進め方を具体的に示しています。

腰痛の発生要因

腰痛の発生要因について、これまで「動作要因」「環境要因」「個人的要因」の3つでしたが、改訂版指針では、それに「心理・社会的要因」が追加されました。「心理・社会的要因」とはストレスのことで、「仕事への満足感が低く働きがいが得にくい」、「職場での対人トラブル」、「過度な長時間労働」、「職務上の心理的負担や責任」などとされています。これらは職場のメンタルヘルスと同じ問題ですが、ストレスの高い職場は腰痛の発生率も高く、腰痛になった時の苦痛も大きいといわれています※7

【引用文献】

7. 垰田和史:新「職場における腰痛予防対策指針」後の腰痛問題への取り組み、医療労働、563号、2013

腰痛と安静

腰痛の多くは、原因を特定しきれない「非特異的腰痛」であることが分かっています。非特異的腰痛の場合、過度な安静は、身体を動かさないことにより活動性が低下し、脊椎のスムーズな動きが失われ、脊椎や背筋の硬直化を招くことがあります。それにより、かえって痛みが生じたり腰痛が再発することも多いといわれています。ぎっくり腰など原因が分かっている場合は安静も必要ですが、非特異的腰痛の場合は、腰への負担を避け通常の生活を送ることが大切です。

【参考】
松平浩:新しい腰痛対策Q&A21−非特異的腰痛のニューコンセプトと職域での予防法、産業医学振興財団

安全な職場づくり

日本看護協会が実施した「『看護職の夜勤・交代制勤務ガイドライン』の普及等に関する調査」(2014年1月実施)によると、6割の病院が腰痛予防対策に取り組んでいないと回答していました。改訂版指針では、「原則として(事業主は)人力による人の抱え上げは行わせないこと」というノーリフトの原則について書かれていますが、病院として腰痛予防に取り組んでいても予防に関する教育や研修を行う程度にとどまり、「福祉機器や補助具の利用をしている」と回答した病院は5割程度でした。また、別の調査でも主な腰痛予防対策は「予防ボディメカニクス」や「休息と睡眠の確保」と個人任せとなっており、補助用具の活用や予防体操を行っている施設はまだ少ないということが分かっています※8

腰痛予防について

病院勤務の看護職の腰痛予防対策について

ボディメカニクスだけでは腰痛は予防できません。労働者の安全を守るという観点で、労働者の腰部への負担軽減のために福祉用具を積極的に活用し、原則として単独での抱え上げは行わないようにしましょう。患者さんの状態(病状やADL、協力の程度など)に合った補助用具を活用することによって、寝たきりであった患者さんが車いす乗車できるようになったなどの報告もありますので、補助用具の使い方をしっかりと理解し活用することが、看護者、患者さん双方にとってのメリットになるでしょう。

同時に職場での腰痛予防では、作業の内容や作業場所などについて、腰痛の要因となるものがないかリスクアセスメントを行い、対策を講じることが重要です。また、改訂指針では作業環境の管理に加えて、職員の健康管理として腰痛健康診断等と腰痛予防体操の実施が推奨されています。腰痛の要因は多岐にわたりますので、一度にリスクを回避・軽減することは困難です。優先順位を設定し、リスクの高いものから対応策を考え、PDCAサイクル(「Plan:計画を立て」→「Do:計画を実施し」→「Check:実施結果を評価」→「Act:評価を踏まえて改善する」)により継続して取り組んでいくことが重要になります※9

【引用文献】

8. 日本医療総合研究所:急性期一般病棟における看護職員の腰痛・頸肩腕痛の実態調査、2012

9. 厚生労働省、中央労働災害防止協会:医療保健の労働災害防止(看護従事者の腰痛予防対策)、2015

講習会のご案内

中央労働災害防止協会では、改訂版「職場における腰痛予防対策指針」の普及促進を図るために、厚生労働省から委託を受け保健衛生業の事業場を対象に全国で無料の講習会を実施しています。また、施設での腰痛予防対策をテキストにまとめています。