看護職の労働環境の整備の推進

労働者の感染管理

職場での感染予防

確実な予防策の実施

医療機関で働く看護職は、さまざまな感染症にばく露する危険があり、雇用主は確実に感染を防ぐため適切な予防策や予防設備・器材を提供しなければなりません。世界的にみても、毎年新たな感染症が発生しており、あらゆる感染経路が存在します。感染経路を遮断し拡大を防ぐためには看護職、医師などの医療従事者のみならず、職場に出入りする作業員や業者なども確実に予防策を実施する必要があります。医療機関には感染症対策チーム(インフェクションコントロールチーム:ICT)を設置するなど安全管理体制を整え、適切な予防策を講じることが求められます。

‹標準予防策(スタンダードプリコーション)›

標準予防策は、汗を除くすべての血液・体液、分泌物、排泄物、創傷のある皮膚・粘膜は伝播しうる感染性微生物を含んでいる可能性があるという原則に基づいて行われる標準的な予防策です。感染が疑われる、または確定しているかどうかに関わらず、医療が提供される場においてすべての患者さんに対して行われるものです。標準予防策の主な内容は、手指衛生(手洗い、手指消毒)、個人防護具(手袋、マスク、ガウンなど)の使用、呼吸器衛生(咳エチケット)ですが、その他にも、周辺環境の整備やリネン類の取り扱い、患者さんに使用した機材・器具・機器の取り扱い、安全な注射手技などが含まれます。

‹感染経路別予防策›

一般的な感染予防策だけでは感染を予防することができない病原体による感染を防止するために、標準予防策に加えて感染経路別の予防策を行います。接触予防策、飛沫予防策、空気予防策の3つが主であり、それぞれ個人用防護具の使用、個室隔離、患者さんの行動や移送の制限などが規定されています。病原体によっては直ちに同定しがたいこともありますので、症状により疑いのある病原体への予防策の予防的な運用が行われることがあります。

エボラ出血熱:全米看護師連盟が安全な対応を求める
2014年、全米で最初のエボラ出血熱の患者が死亡した際、対応にあたった看護師も感染してしまいました。その時に病院内での事前訓練や必要な個人用保護具の準備が不十分であったなど、確実な防護策が取られていなかったことが感染につながったとして、全米看護師連盟は大統領宛に、全ての病院が最高水準の「統一された予防基準」に準拠するように求める書簡を提出しました。また、書簡では「患者、看護師、また医療労働者の1人たりとも医療施設の準備不足によって危険にさらされるべきではない」と述べています※1。労働者の安全を守ることは事業者の義務です。看護職が安全に働けない環境では、患者さんの安全を守ることはできません。新たな感染症情報を把握し、職員が安全に業務を行える対応策について日ごろから準備しておくことが重要です。
【参考】

職員の健康管理

看護職員は、日々の業務において患者さんと密接に接触する機会が多く、患者間、あるいは職員・患者間の病原体の媒介者となるおそれが高いことから、日常からの健康管理が重要となります。もし職員が感染症の症状を呈する場合には、早めに受診し、診断を受けて療養しなければなりません。「急に休みづらい」からとその場しのぎで自己対応せず、必ず管理者に報告し、完治するまで療養できるように勤務などを調整してもらいましょう。また、職員の家族が感染症にかかった場合は、職員自身も自己の健康に気を配り、症状が出たら早めに上司に相談するようにしましょう。

看護学生への対応
看護学生にとって臨地実習は不可欠であり、一般の学生に比べて感染症に罹患するリスクは高いといえます。また、看護学生が媒介となって感染が広がる可能性がないとは言い切れません。看護学生がこれらのリスクを正しく認識し、自ら健康管理を行えるようにするためには、看護学生への健康教育が重要になります※2。特に実習中は、単位を落とさないようにと学生も無理をすることがあるかもしれません。インフルエンザなどで欠席を余儀なくされた場合の再実習などの制度について、学校側が明確にしておくことが必要です。また同時に、看護教員や臨床指導者は、学生の健康状態に気を配り、学生が感染症を媒介することのないように注意しましょう。

予防接種の実施

インフルエンザなどの流行性ウィルス疾患やB型肝炎などワクチンにて予防可能な感染症については、可能な限り予防接種を受け、感染症への罹患を予防することが重要です。医療機関での予防接種の対象者には、医療職以外にも、事務職、教員、学生、ボランティア、清掃員など患者さんと接する可能性のある全ての人が含まれます※3。予防接種の実施にあたって雇用主は、職員に対して、予防接種の意義、有効性、副反応の可能性等を十分に説明して同意を得た上で、積極的に予防接種の機会を提供し、希望する職員が円滑に接種できるように配慮しましょう。しかし、予防接種を受けているからといって、感染する可能性がゼロになるとは言い切れません。また、ワクチンのない感染症やワクチンを接種できない場合もあります。日常的に、スタンダードプリコーションを実施し、職業感染発生時の対応について体制を整備しておくことが重要です。

医療従事者の結核感染
結核は過去の病気と思われがちですが、日本の結核罹患率はアメリカなどの先進国と比べて高く、依然として結核蔓延国といわれています※4。感染者の半数以上は70歳以上の高齢者であり、医療施設の職員が結核に感染する確率は高いといわれています。特に看護職は、ほかの医療職に比べて患者さんと密接に接する機会も多く、感染するリスクも高いといえるでしょう。平成26年度の新登録結核患者数統計では、249人の看護師・保健師が新たに感染していました※5。結核は集団感染を引き起こす可能性があり、病院などの医療施設での結核集団感染は、学校や会社などを含む全集計の内3割近くを占めています※6。医療従事者は結核ばく露へのリスクが高いことを念頭に置き、インターフェロンγ遊離試験(IGRA)(クォンティフェロン:QFT、T-SPOT)などの結核スクリーニングを行い事前に対応していく必要があります。
 
【参考資料】
【引用文献】

2. 池西静江:看護学校における学生の健康管理と臨地実習での感染症対策について、共済会 vol.15、日本看護学校協議会共済会、2014

3. 日本環境感染学会:医療関係者のためのワクチンガイドライン 第2版、2014.

4. 林真樹:QFT検査からみた結核感染スクリーニングの重要性、看護実践の科学、vol.38、No.12、2013.

5. 厚生労働省:平成26年 結核登録者情報調査年報集計結果、2015.

6. 厚生労働省:結核集団感染の件数について(過去10年)、2015.

針刺し等による職業感染の防止

血液や体液の皮膚や粘膜への暴露により、血液媒介病原体への感染が生じる危険があります。感染経路の中でも針刺しは、医療現場で常に起こり得る状況であり、推計で年間5万件の針刺しが医療機関で発生しています※7。また、針刺しに関する調査ではその半数は看護師であったと報告されています※8。血液媒介病原体には、HCV(C型肝炎ウィルス)、HBV(B型肝炎ウィルス)、HIV(ヒト免疫不全ウィルス)などがありますが、実際、C型肝炎の新規発生の3分の1は、針刺しや医療上の処置などの医療行為に関連した院内感染によるものであることが報告されています※9
針刺しは偶発的な事故(アクシデント)ではなく、防ぐことのできる職業上の労働災害です。雇用主は労働者の安全に対する配慮を行う義務があり、適切な安全器具の導入や廃棄システムの確立を行い、さらに患者さんの感染症の有無を職員に伝え、針刺しが起こってしまったときの対応策を明確に提示する必要があります。また、針刺し被害にあった職員は、夜間や休日、忙しい時間帯であっても自己判断せずに必ず報告し、適切な処置を受けるようにしなければなりません。針刺しを防ぐためには、作業環境の整備も重要です。十分な作業スペースを確保し、作業を行うのに十分な明るさを調整すること、意識障害や不穏状態にある患者さんに処置を行う際には、チーム内で声を掛け合い、あらかじめ共同で作業にあたる人を確保しておくことが必要です※10

【参考】

職業感染制御研究会ホームページの「針刺し予防策」には、医療施設での針刺し予防のための安全管理体制づくりにおける注意事項や機器の整備など、役に立つ情報が掲載されています。

厚生労働科学研究費補助金エイズ対策研究事業「HIV感染症及びその合併症の課題を克服する研究班」 抗HIV治療ガイドラインの15章「医療従事者におけるHIVのばく露対策」には、HIVに関する医療従事者の針刺し後の対応についてまとめてあります。

【引用文献】

7. 吉川徹:針刺しによる医療従事者の職業感染と患者への院内感染防止の課題と対策、職業感染制御研究会報告より、2013.

8. 職業感染制御研究会:エピネット日本版サーベイ2013 結果概要(エピネット日本版A: 針刺し切創)、2013.

9. 国立感染症研究所・感染症情報センター:速報 C型肝炎 1999年4月〜2009年、IDWR(Infectious Diseases Weekly Report) 第21号、2011.

10. 地方公務員災害補償基金:病院等における災害防止対策研修ハンドブック 針刺し切創防止版、2010.

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医療従事者とHIV感染

医療現場でのHIV予防策は、基本的にスタンダードプリコーションの実施になります。しかし、もし医療従事者がHIVに感染している場合、患者さんが感染してしまう可能性はあるのでしょうか。英国保健省によると、これまでに医療従事者から患者さんへ感染した事例は全世界で4例ですが、いずれもHIVの治療法が確立していなかった10年以上前のことになります※11。感染している医療従事者が、定期的な診察と適切な抗HIV治療を受けており、施設内でスタンダードプリコーションが守られているのなら、感染のリスクはまずありません。

【引用文献】

11. Department of Health, GOV.UK :Press release: Modernisation of HIV rules to better protect public, 2013.

HIVに感染した看護職の人権を守りましょう

2010年4月30日、病院勤務の看護師が「無断でHIV感染検査をされ、陽性を理由に退職勧奨を受け退職した」と訴えているとの新聞報道がありました。この報道があった同日、「職場におけるエイズ問題に関するガイドライン」(厚生労働省)が改訂され、医療機関も他の職場と同様、感染者への差別禁止の例外ではないことが改めて示されました。しかしながら、2012年1月、別の病院勤務の看護師が、HIV感染を理由に休職を強要され休職期間満了に伴い退職したとの新聞報道がありました。事実であれば、病院の看護師への対処は法令違反のおそれがあり、適切な感染管理および感染者の人権擁護の観点から、大変残念なことです。日本看護協会は、感染症法、厚生労働省ガイドライン、ICN(国際看護師協会)所信表明などの趣旨を受けて、HIVに感染した看護職の人権を守るよう呼び掛けます。

  • 保健・医療の現場での感染防止は、スタンダードプリコーションで対応できます。
    標準予防策は「患者⇔医療従事者」はもちろん、「医療従事者⇔医療従事者」の感染防止に有効です。
  • 感染者の就業制限はありません。引き続き看護職としての就業が可能です。
  • 感染を理由とする解雇・退職勧奨は違法行為です。
  • 感染者へのサポート体制を整えてください。
    プライバシー保護に配慮しながら、健康管理と治療の継続を支援し、健康状態や本人の希望に対応した勤務上の配慮ができるよう、相談・支援の体制を整えてください。

<ICN(国際看護師協会)のHIV/AIDSに関する所信声明>

<厚生労働省HIV/AIDSに関する指針等>

<HIV/AIDSに関する情報一般について>