看護職の労働環境の整備の推進

職場のハラスメント対策

ハラスメントとは

近年、ハラスメントという言葉をよく耳にするようになりました。では、看護の職場で起こる可能性のあるハラスメントとはどういったものでしょうか。ハラスメントとは、「それぞれの理由で、他者に対して行われる言動が、その意図にかかわらず相手を不快な思いにさせる、不利益を与える、尊厳を傷つける、不安や脅威に陥れるような場合のこと」と定義されています※1。ハラスメントには、パワーハラスメント(以下、パワハラ)、セクシャルハラスメント(以下、セクハラ)、マタニティハラスメント(以下、マタハラ)、モラルハラスメント(以下、モラハラ)などがありますが、それぞれ共通しているのは、言葉や行動による嫌がらせ行為であるということです。

一般的な職種と違い、医療・介護の現場でのハラスメントにはさまざまな関与者が存在しています※2。職場における直接の上司や同僚以外に、医師や薬剤師などの他職種、また外部の第三者、患者さんやその家族からもハラスメントを受ける可能性があります。職場での暴力やハラスメントについて、さまざまな調査が行われており、多くの看護職が被害に遭っているという結果が報告されています※3〜5
しかし、看護職がハラスメントを受けても看護職個人の問題とされることが多く、十分な対応が取られてきませんでした※6。また、生命を左右するような急変時や緊急時に医師や先輩から社会性を欠く言動を受けたとしても、安全管理上の問題と受け止められ、ハラスメントとして取り上げられにくいという実情があります。一方、加害者本人に自覚がないまま、ハラスメントを行っている場合もあります。部下や後輩に対して行う業務上の「指導」が過剰になり、ついつい言い過ぎてしまうということは誰にでも起こり得ることなのではないでしょうか。「よかれと思ってしたこと」が相手によってはハラスメントと取られることもあります。また、マタハラなどでは「『自分のときは大丈夫だった』と自分の価値観を押し付けてしまった」というケースもよく見られます。しかし、加害者本人に悪気がなくても、業務の適正な範囲を超えて精神的・身体的な苦痛を相手に与える行為はハラスメントと見なされます※7。職場内でのハラスメントは誰もが当事者になり得る問題であり、ハラスメント対策を効果的に進めていく上で、どういった行為がハラスメントなのかを理解することが必要です。

【引用文献】

1. 保坂隆:ハラスメントと職場のメンタルヘルス、保健の科学、 57(5)292-296、2015.

2. 21世紀職業財団:職場におけるセクシャルハラスメント・パワーハラスメント防止のために(医療・介護編)、2015.

3. 日本看護協会:保健医療分野における職場の暴力に関する実態調査、2004.

4、6. 日隈利香:看護職員のハラスメント問題に関する研究 −全国の保健・医療・福祉機関に勤務する看護師を対象にしたアンケート調査結果より−、第43回日本看護学会論文集 精神看護、2013.

5. 日本医療労働組合連合会: 2013年度看護職員労働実態調査「報告書」、2014

7. 厚生労働省:パワーハラスメント対策導入マニュアル、2015.

職場でのハラスメントの影響

ハラスメントを受けた人は、人格を傷つけられ、仕事への意欲や自信を喪失します。ハラスメントはメンタルヘルスにも悪影響を及ぼし、特に身体的な暴力を伴う場合には被害者にとってトラウマともなりかねません。社会全体で見ても、ハラスメントに関する都道府県労働局などへの相談件数は増加を続け、ひどい嫌がらせなどを理由とする精神障害での労災保険の支給決定件数も増加しています。 また看護職を対象とした調査では、職場内の人間関係の悩みやハラスメントの被害経験は離職意向に大きく影響するということが分かっています※8

ハラスメントの場面を見たり、聞いたりした周囲の人への影響も考えなければなりません。一緒に働くスタッフにとって、職場環境や対人関係を悪化させる職場でのハラスメントは仕事への意欲低下につながります。また、患者さんや外部の人が見聞きすることは、その病院の評判や信用の低下に影響しかねません。職場のハラスメントは事業主にとっても大きな「損失」をもたらすと言えます。

【引用文献】

8. 日隈利香:看護職員のハラスメント問題に関する研究 −全国の保健・医療・福祉機関に勤務する看護師を対象にしたアンケート調査結果より−、第43回日本看護学会論文集 精神看護、2013.

ハラスメント対策への取り組み

深刻なハラスメントが職場で起こっても、その後、組織内で取り組みを行っているところは少なく※9、職場でのハラスメントに対する組織的な対策はまだまだ不十分なのが現状です。まずは、ハラスメントを未然に防止することが重要であり、実際に起こってしまった場合に早期に対応できる体制を整えておくことがハラスメント対策の基本です。

厚生労働省が2012年(平成24年)に行った職場のパワハラに関する実態調査では、パワハラに関する相談があった職場の共通する特徴として「残業が多い/休みが取りにくい」「上司と部下のコミュニケーションが少ない」「失敗が許されない/失敗への許容度が低い」傾向があるということが分かっています※10。管理職は職場でのパワハラを予防するためにも、日ごろから適切なコミュ二ケーションを保ち、職場内の雰囲気や職員の様子などに気を配ることが必要です。看護職が心身共に健康で働き続けられるより良い職場環境を維持していくためにも、組織的にハラスメント対策に取り組みましょう。

それではハラスメント対策を組織的に行っていくためには、どういったことが必要でしょうか。厚生労働省が2015年に発行した「パワーハラスメント対策導入マニュアル」には、パワハラ対策の基本的な枠組みを構築するために、実施すべき7つの取り組みが示されています。看護職に対するハラスメントにはさまざまな形がありますが、この7つの取り組みは、組織でのハラスメント対策の基本として参考になるでしょう。

<予防のための取り組み>
1.トップのメッセージ:
組織としてハラスメント対策の方針を明確にし、施設のトップから全職員に対して、ハラスメントは取り組むべき重要課題であるということを発信しましょう。
2.ルールを決める
労使一体で取り組みを進めるために、労使協定などでルールを明確化、罰則規定などを具体化して、ハラスメント対策マニュアルなどを作成しましょう。
3.実態を把握する:
職場での実態を把握するために、早い段階でアンケート調査を実施して、ハラスメント防止対策を効果的にすすめられるようにしましょう。
4.教育する:
教育のための研修の実施は、予防策の中で効果的です。職員全員が受講できるように定期的に実施し、新卒・中途採用者に対しても入職時の研修に取り入れるなどしましょう。
5.周知する:
組織の方針やルール、相談窓口などについてポスターを掲示したり、パソコン上で職員がすぐに見られるようにしたりするなど、周知を実施しましょう。
<解決のための取り組み>
6.相談や解決の場を提供する:
ハラスメントに関する相談窓口を設置し、相談対応者は守秘義務を負うこと、プライバシーを保護することを明確にしましょう。施設内での設置が難しい場合は、外部の相談窓口の利用を検討しましょう。
7.再発防止のための取り組み:
相談者への迅速な対処や、ハラスメントの早期解決が再発防止につながります。一時的な対応にならないために、解決後も対応策の見直しや改善を継続的に行いましょう。
医療・介護施設での取り組み事例
  • 労働安全衛生の一環として、院内の研修会で取り上げた。そのことがきっかけとなり、外部から産業医を講師として招くなどして継続している。
  • 施設内で匿名でのアンケートを行った。その結果より、社内の相談窓口では個人が特定される可能性もあり、相談しにくいということが分かった。
  • ハラスメント禁止を就業規則に盛り込み、さらに具体的な内容を盛り込んだハラスメント防止規定を制定した。
  • 相談窓口を外部の社労士に委託し、連絡先はハラスメント防止規定に掲載し、各部署に配布して周知している。
  • アンケートを実施し、その結果を盛り込んだ研修を実施している。交代制勤務で出席できない場合には、資料を配布して周知を図っている。

(21世紀職業財団「職場のパワーハラスメント対策ハンドブック」(2013年発行)取り組み事例より抜粋)

【引用文献】

9. 日隈利香:看護職員のハラスメント問題に関する研究 −全国の保健・医療・福祉機関に勤務する看護師を対象にしたアンケート調査結果より−、第43回日本看護学会論文集 精神看護、2013.

10. 厚生労働省:平成24年度職場のパワーハラスメントに関する実態調査、2012.

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職場のハラスメントに関する国の対策

セクシャルハラスメント対策

職場におけるセクハラ対策については、男女雇用機会均等法及びそれに基づく指針に定められています。2007年(平成19年)の改正男女雇用機会均等法施行時に、セクハラ防止のための措置が事業主に義務付けられ、その後の法改正により、男女双方、直近では同性間の事案も対象として含まれました。事業主はセクハラ対策として、労働者に対し事業主の方針を明確周知することや相談体制を整備し、迅速に対応すること、また相談者や行為者のプライバシーを保護し、不利益な取り扱いとならないように措置を講じなければなりません。

パワーハラスメント対策

パワハラに関して、法律による規制こそありませんが、厚生労働省が2011年度に開催した「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議」では、その予防・解決に向けての取り組みについて提言を取りまとめています。また、2012年に「職場のパワーハラスメントに関する実態調査」を行った結果、組織でのパワハラ対策が進んでいないという現状が明らかになり、厚生労働省では、職場のパワハラの予防・解決に向けた取り組み推進に向け、「パワーハラスメント対策導入マニュアル〜予防から事後対応までサポートガイド〜(2015年発行)」を初めて作成しました。このマニュアルには、ハラスメント対策の枠組みの構築手順やその進め方、ハラスメントの事例など、組織で職場のパワハラ対策に取り組む際の参考となる内容が盛り込まれています。

また、厚生労働省の運営するポータルサイト「あかるい職場応援団」には、職場におけるパワーハラスメント事例や動画、研修情報などが掲載されており、非常に役立つサイトです。また、ダウンロードコーナーには職場内での啓発に役立つリーフレット、研修用資料、マニュアルなどが多数掲載されています。

マタニティハラスメント対策

妊娠中、育児中の働く女性を支援する法律や制度にはさまざまなものがあります。例えば、妊娠中、通勤時間をずらすなどの通勤緩和や休憩時間取得などの措置は男女雇用機会均等法、危険有害業務の就業制限や時間外・休日労働、深夜業の制限などは労働基準法、出産後の育児休業や育児のための短時間勤務制度などは育児・介護休業法に定められています。マタハラに関しては、男女雇用機会均等法に定められており、事業主が妊娠・出産、育児休業等を理由として解雇や雇い止め、減給、降格など不利益な取り扱いを行うことは、原則として違法となります。
厚生労働省では「STOP!マタハラ」をキャッチフレーズにさまざまな広報活動を行っています。

パタハラも増加

近年、パタニティハラスメント(通称、パタハラ)もマタハラの男性版として問題視されつつあります。「育児・介護休業法」により、女性だけでなく男性も育休を取ることが認められています。しかし実際の職場では、育休取得を認められなかったり、育休を取ったら嫌がらせを受けたりしたなどのパタハラが生じており、日本労働組合総連合会(連合)が2013年に行った「パタハラに関する調査」では、子供のいる回答者のうち約12%が「パタハラを受けたことがある」、約11%が「周囲にパタハラを受けた人がいる」と回答しています。

保健医療施設でのハラスメント防止に関する資料

公益財団法人21世紀職業財団では、2015年に「職場におけるセクシャルハラスメント・パワーハラスメント防止のために(医療・介護編)」を発行しています。このテキストは、医療・介護の現場におけるハラスメントの現状や特徴を知り、組織の役割や責任について学び、その上でハラスメント対策に取り組んでいくための方向性を示しています。さらに、ハラスメント防止のための取り組みやハラスメントと見なされる具体的な例が示されていて、大変参考になる内容です。テキストは21世紀職業財団のホームページより購入できます。