看護職の労働環境の整備の推進

人材育成
評価制度
処遇への反映 特徴
クリニカルラダー 専門職としての能力開発の方向をラダーで明示。能力・行動特性を評価し育成を支援。
人事考課・目標管理制度 賞与 組織目標の達成に直結した個人の目標を設定し、達成度は人事考課と合わせて賞与に反映しモチベーションアップ。
<その他特徴>
  • 残業削減、短時間正職員制度導入、夜勤増員、24時間保育など働きやすい環境整備。

※断りのある場合を除き、2008年度データを使用しています。

給与制度

1.概要

生活費保障を考慮した経歴給と看護職務・職責を評価する職務給を組合せて、基本給として処遇する給与制度。組織全体として人事考課を取り入れており、結果が賞与へ反映される仕組み。
看護部では、独自にクリニカルラダーと目標管理制度も導入し、その評価結果も人事考課に勘案されている。

2.給与構成

基本給

基本給の構成は、下記の2点を足し合わせたものであるが、2点をまとめ一括で給与表に基づいた額が支給される。

  • 経歴給:経験年数に基づき決定。
  • 看護職務の難易度・責任度を考慮し決定。
手当とその他の処遇
新卒看護師初任給 基本給: 大卒 200,000円 他 195,000円
夜勤手当 2交代制 13,000円/回
夜勤者手当 10,000円/月(勤務5年以上、2交代夜勤3回)
5,000円/月(勤務3年以上、2交代夜勤3回)
資格手当 ケアマネ・認定看護師等の資格をもち、該当職務を遂行している場合に支給。 例)認定看護師 20,000円/月 等
職務手当 特殊な職務内容に対して支給。
例)ICU勤務手当300円×回数 等
役職手当 師長30,000円〜 主任15,000円 副主任14,000円 等
中途採用者の処遇 経験年数の75%を基本給へ換算。
日勤常勤者の処遇 特になし
短時間正職員の処遇 基本給:時給換算し勤務時間数を乗じて算出。
賞与:勤務時間数を日数・月数へ換算し、基本給に乗じて算出。
人事考課への影響はなく、フルタイム正職員と同様。

3.給与の決定方法

・基本給

経験年数に基づく「経歴給」に、職務の難易度・責任度を考慮した「職務給」を加えた看護師の基本給料表に沿って給与額が決定される。看護職務に対する職種加算分の給与は、手当という形ではなく、職務給として基本給に上乗せされている。

・昇給

原則として1回/年の定期昇給(自動昇給)が行われる。人事考課結果との連動はない。給与表の昇給率(ピッチ)は、各経験年数層の生産性を勘案して決定しており、毎年の昇給額は一定ではない。

・昇格

主任・副主任への昇格は、クリニカルラダーの一定レベルの者が(1)上司推薦を受け、(2)レポート・筆記試験・面接などの昇格審査を受審し、(3)師長会で昇格判定を受けることにより承認される。昇格後は各職位に応じた役職手当が支給されるが、基本給の変化はない。
師長の昇格のステップは、(1)部長推薦、(2)昇格審査、(3)病院の承認。

・賞与

賞与は年2回半期ごとに支給される。勤勉手当はない。各期の人事考課の評価結果を期末手当の算定率に反映し、その算定率を基本給に乗じて賞与支給額を決定する。

【算定方法】

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人材育成制度

1.概要

目標管理およびクリニカルラダーを軸とした人材育成制度で、(1)組織・部門・部署目標にもとづく年間個人目標設定・達成の支援、(2)専門職としての能力開発の方向性を示すクリニカルラダーの提示、(3)ラダーに沿った能力別教育機会の提供をとおして、看護職の個々の能力開発を組織的に支援する。

2.体制

・クリニカルラダー

看護職の能力・行動特性に対応したコンピテンシー項目について、段階ごと(T〜Xの5段階)の要求能力をクリニカルラダーで明示し、クリニカルラダー教育システム表を活用した能力別教育支援と定期評価を行うことで、専門職としての段階的・個別的能力開発支援を行う。現在は師長クラスまでのラダーがある。

【ラダー概要】
自己教育計画の作成
院内ステップ別教育計画を参考に、年間個人目標の達成やラダーのステップアップに向けた研修受講計画を作成する。
評価基準
ステップ別能力評価基準を用いて、A〜Dの4段階評価を行う。
評価方法
年2回、自己・一次・二次評価者による3段階評価を実施し、その結果を基に年間総合評価を行う。
評価結果のフィードバック
評価者はクリニカルラダー個人総合所見および認定結果票、院内ステップ別教育計画表へ結果を記入し、次回面接時に各職員へフィードバックする。
評価結果の活用方法
ラダーの昇降格、役職への昇格
【ラダー昇降格の決定方法】
総合評価および研修履修状況を基に、クリニカルラダー判定会によって決定する。
【中途採用者の評価方法】
クリニカルラダー個人評価表を基に、入職後半年をめどに導入のステップ判定を行う。
・目標管理制度

年度始めに明示される組織・部門・部署目標に沿って看護職員が年間個人目標を設定し、達成できるよう面接と教育研修を通した支援を行う。
目標達成度は、目標管理表およびクリニカルラダーを基に年2回評価している。

【役職別目標設定・評価方法】
役職 設定する年間目標 設定助言者 設定基準 評価者
一般職員 自己 師長 部門目標、部署目標 主任
師長
看護師長 自己および部署 看護部長 部門目標 看護部長
院長
看護部長 自己および部門 院長 法人の経営方針 院長
・研修について
院内研修
研修はほぼ勤務時間内に実施。看護師のみ対象とするラダー研修を勤務時間内に実施し、その他及び全職員を対象とする研修は時間外に実施している。
院外研修
年2回までの研修費用は病院負担。
専門・認定看護師コースの受験資格は、「ラダー4か5以上」および「研修修了後、最低5年間の当院での就業」。受講決定すれば、研修費用および研修中の住宅費用・基本給は全て病院から支給される。

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組織体制

1.看護部長の強いリーダーシップ

副院長職を兼任。組織全体の経営方針策定や予算決定に関わりながら、看護職員の人材育成に向けた目標管理・クリニカルラダー制度導入を積極的に推進。院長や事務部門への効果的な働き掛けで、短時間正職員制度や24時間院内保育、夜勤者増員を実現。
各種制度の整備とともに、職員の意識改革にも働きかけ、ノー残業デー導入では、各病棟での師長・主任からの積極的なアピールを指示し、看護部長自らも病棟を巡回して根気強く声掛けを行い、ノー残業の周知徹底を推進し残業時間短縮を実現した。

看護部長の声

組織が変わるには10年掛かります!

2.人材確保・育成に関する経営者の理解

歴代の理事長・院長による優秀な人材確保・育成を重視する組織経営の考え方があり、院外研修参加への手厚い支援や、各部門からの提案を柔軟に受け入れる風土がある。

院長による人材育成支援の好循環イメージ

3. 職員意見の吸い上げと確実な対策の実施

2007年のラダー導入後、アンケート調査を毎年実施し、職員の意見を吸い上げて制度の見直し・改善に活用している。これまでのところ、ラダー関連研修に伴う職員の時間外勤務の増加や、面接に伴う師長の時間外勤務増加への不満を受けて、翌年からの研修および面接は全て時間内での実施を徹底した。

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労働条件等

1.労働時間(残業・夜勤)について

  • 残業時間短縮への取り組み
    ノー残業デーの導入
    組織全体で週1回のノー残業デーを導入し、看護部ではさらに週2回へ増加。徐々に残業時間が減り、日勤者は毎日18時頃に帰ることができている。
    徹底した周知・呼びかけによる意識改革
    ノー残業デーには、師長・主任が朝から何度も声かけして周知を図り、職員の意識改革を根気強く推進。
    夜勤者の増員
    夜勤を3交代から2交代へ変更し夜勤者を1人増員したことで、日勤の残務を夜勤へ託して帰れるようになった。
    医師の指示出し時間を制限
    医師の指示受けによる看護職の残業時間が長かったため、各医師の指示出し時間を調査しデータ化したうえで診療部門および上層部へ提示し相談した結果、指示受け時間のリミットが設けられ、看護師の残業時間の短縮につながった。
  • 短時間正職員制度の導入

    看護師確保対策の一環として、入職者の希望勤務時間を最優先し、週32時間以上勤務が可能なら正職員として採用。最近では、短時間勤務の職員も自主的に勤務時間を延ばす傾向にある。

  • 会議・研修の勤務時間内実施の徹底

    委員会を含めた院内の会議や看護部の研修は勤務時間内に実施。会議ではダラダラと時間をかけず効率的な議論を行う風土が根付いている。院外研修は勤務・出張扱いとなる。

2.業務量について

  • 入院基本料:10対1

    ICU増床、CCU新設、緩和病棟新設し、一般病床は10対1になっている。

3.役割の適切性

  • 奨学金支給による新卒者確保

    近隣の看護師学校と提携し、卒業後奨学金の支給年数に応じた勤務を条件とした奨学金制度の活用

  • 新人の夜勤導入時期の個別設定

    新人の夜勤開始は新人教育パスに準じて入職後7カ月を目安とするが、最終判断は師長およびプリセプターとの面接により決定し、各新人の習得速度や能力に合わせた個別性のある夜勤導入を実施している。

4.福利厚生について

  • 子育て支援の充実

    看護師確保対策として、1989年より院内保育所がスタート、1998年から24時間の受け入れを開始している。保育料も自治体立保育所より安価に抑えており職員には好評。

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その他

1.職員モチベーション(生産性)アップの工夫について

  • クリニカルラダーの導入

    毎年の職員アンケート調査では、自分の目指す方向や目標が明確になり、モチベーションアップにつながっているという回答を得ている。

2.患者満足・医療サービスの質アップの工夫について

  • 患者満足度の把握と対策の実施

    患者満足度と職員満足度は年1回実施しており、結果は全部署にフィードバックして次年度の検討課題として取り組んでもらう。

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病院概要

【A病院概要 ※2008年度データ】
設置主体 医療法人 病院機能 一般急性期病院
地域情報 地区名 九州地区
対人口比(1万人あたり) 看護師数165人(06年)、医師数34人(06年)
病床数257床(07年)
病床数 200床台 入院基本料 10:1
平均病床利用率 99% 平均外来患者数 258人/日
平均在院日数 17日/年
人事管理部門 あり 労働組合 なし
【看護職員データ】※看護職員…保健師、助産師、看護師、准看護師
平均在職年数 5年 平均年齢 31.79歳
離職率 2006年度 19.88%、2007年度 19.28%、2008年度 10.67%
既婚率 38% 有子率 19%
【労働時間、休暇等情報】
所定労働時間 40時間/週
平均超過勤務時間 スタッフナース 12〜24時間/月(主任などを含む)
師長以上 12〜24時間/月(看護部長などを含む)
夜勤体制 2交代(8:30-17:30、17:00-9:00)
平均夜勤回数 スタッフナース 4回/月 ※夜勤専従者は除く
年間休日 111日 ※有給休暇、夏季休暇、特別休暇は除く
有給休暇付与日数 初年度 10日/年 、最高 20日/年(2年目から)
※未使用分は翌年まで使用可能。20日間を翌年に繰り越した場合は、最大40日/年取得可。
有給休暇の平均取得日数・率 スタッフナース 6日/年(30%)
師長以上 7日/年(35%)
※平均取得率は年間有休付与日数20日として算出
【経営関連情報】
医業収支率 102.1%
給与費率 33.7%
給与費配分比率 看護職41.5%、医師25.2%、薬剤師5.5%、臨床検査技師2.0%、その他25.8%
職員数比率 看護職44.9%、医師10.5%、その他44.6%
全体予算の決定体制 決定者:理事会
看護部長権限:あり
給与費配分の決定体制 同上

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現給与制度の導入のプロセス

1.きっかけ

危機的な看護師不足とそれに伴う時間外労働の増加を背景に、能力開発支援と適正処遇による組織活性化を目指して院長主導で人事制度改定を目指し、目標管理・クリニカルラダーによる人材育成・強化、人事考課による評価と処遇の連動に着手した。

単科病院としての経緯から看護師の能力・技術に専門的偏りがあり、専門職としてバランスのとれた育成・能力開発支援が必要であったため、専門性とコンピテンシーを組合せたラダー構築・運用の検討を開始した。

2.導入プロセス

・人事考課
1999年 新人事制度検討委員会立ち上げ
看護師給与表の見直し
(1)県医師会から送付される給与表(公務員給与表が基本)と比較し、初任給および全体を高めに設定
(2)離職の多い経験年数層の昇給率を高めに設定
経営理念・ビジョンの策定
新人事制度の試行、評価者説明会開催
職員への周知・説明
2000年 新人事制度の本格稼働(医師を含む全部門で実施)
評価者対象の事例検討会を毎年実施
2004年 定期的見直し
・クリニカルラダー
2006年 クリニカルラダー準備委員会立ち上げ
看護部長・副部長・病棟師長ですり合わせをしながら独自のラダーを作成
看護職員への周知・説明
【ポイント】
(1)求められる人材像の明確化
(2)専門性およびコンピテンシーを含めたラダーの構築
(3)文献や研修を基に、職員が理解しやすい具体的な言葉に直したオリジナリティのあるラダーを作成
(4)導入後も逐次見直し・改訂を継続
2007年 クリニカルラダー導入
2009年 クリニカルラダー見直し

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経営三者のコメント

給与制度について

現人事制度による影響
  • 看護師の確保定着につながった

    看護師不足をきっかけとした人事考課・目標管理・クリニカルラダーによる人材育成・評価制度の導入および給与制度の見直しにより、目標の明確化やモチベーションアップにつながり、定着する職員が増えている。また、残業時間の削減や短時間正職員制度、24時間院内保育所等の導入等により働きやすい環境が整ってきており、看護職員の確保定着につながっていると思う。

現人事制度の課題
  • 定着率向上による人件費の増大

    様々な看護師確保対策を行い離職率が改善したが、現在は離職者より入職希望者が多く、また、提携校からの新卒者受入れを断ることが難しいため定員数が増えている。職員にはできるだけ長く勤務してほしいが、人件費の増加は今後課題になってくるだろう。

  • 組織の停滞

    離職者の減少により看護師確保が容易になった一方で、今後、人材の入れ替わり機会の減少に伴う組織の不活性化・停滞も生じると考えられる。今いる職員を適材適所に配置し、適切な業務役割を与えるなど、職員のモチベーションアップと組織の持続的発展を実現する方策が必要。

  • 人事評価結果の基本給への連動

    現在、人事考課・目標管理・クリニカルラダーの3重方式の人事評価結果を賞与へ反映しているが、職員のモチベーションアップと能力開発支援のさらなる充実に向けて、今後は基本給への反映も検討したい。

  • 評価の質の担保

    ラダーの昇降格についてはラダー判定会で最終決定を行っているが、上級ステップへの昇格の場合、看護部門以外からの他者評価も取り入れる必要があると考えている。部下から上司への評価は2009年11月から実施している。

人材育成制度について

評価者訓練と複数名の評価で評価の質を担保している。人事考課前の3カ月間、週1回の事例検討会を通した評価者訓練を行い、評価の質の均一性を保つように努力している。最終的な調整として、事務局長が全評価結果を相対的にならし、部署ごと・評価者ごとのばらつきを是正するための全体調整を行っている。