看護実践情報

延命措置拒否のリビングウィルを持った救急患者の治療方針の決定

事例紹介

経緯

70代後半/男性/心不全により緊急入院
無職/妻と2人暮らし。近くに長男夫婦が住んでおり、必要時にはサポートあり

  • 10年前、冠動脈造影検査(CAG)で三枝病変と診断されたが、患者の意向で冠動脈バイパス術(CABG)は行わずに経過観察をしていた。
  • ある日、呼吸困難に陥り、救急搬送され、心不全と診断される。患者は回復の見込みがない場合の延命措置拒否の要望を記した事前指示書(リビングウィル)を握りしめていたが、付き添ってきた妻と相談し、患者も納得した上で、気管内挿管・人工呼吸器装着による循環管理・呼吸管理を開始した。
  • 4日目には状態が安定したため抜管するが、夜間に呼吸困難が強く、せん妄状態となる。医師は家族に対し、「息苦しさが強いため、鎮静下で心不全の治療を行うのがよいと思うが、鎮静をかけると呼吸が浅くなり心負荷が増え、予後が悪化する可能性がある。また、人工呼吸器や、さらには気管切開なども必要となるかもしれない」と説明した。
  • これに対し長男の嫁は、「積極的に治療しても助からないのなら、呼吸が苦しくないように眠らせてほしい」と答えた。 看護師が「ご本人に聞いてみましょう」と妻と長男の嫁を促し、患者に尋ねたところ、患者は「苦しいのをとってほしい」とだけ答えた。
  • 長男はほとんど面会に来ておらず、どのような考えを持っているかは不明である。
当事者の思い
患者
  • 患者が持参したリビングウィルには以下の3点が明記され、半年前の日付と患者と妻の直筆サインがあった。
    • 回復の見込みがない場合には一切の延命処置を行わないでほしいこと
    • 苦痛緩和を行ってほしいこと
    • 結果については患者の責任であり、家族も病院や医師の責任を問うことはないこと
  • しかし、搬送時は患者も気管内挿管・人工呼吸器装着について同意をした。
  • 現在、患者は「苦しいのをとってほしい」と言っている。
家族
  • 妻:夫の意思を尊重したい。だからリビングウィルにもサインをした。夫が苦しまないようにしたいと思うが、助かるのであれば治療をしてほしいという思いもある。嫁は「お父さんが苦しむのはかわいそう」と言っており、どう決断したらよいのかわからない。
  • 嫁:お父さんはいつも「痛かったり苦しかったりする治療は受けたくない」と口にしていた。積極的に治療しても助からないのなら、苦しませないようにしてほしい。
  • 長男:不明
医師
  • 回復の見込みはまだあるため、まずは鎮静をかけ、必要であれば人工呼吸器管理の下、心不全の治療を行いたい。
  • しかし、回復の見込みが高いとは言えず、家族は人工呼吸器を装着することは望んでいない。どうしたらよいものか…。
看護師
  • 回復の見込みがないとは言えない状況であるため、積極的な治療を行うべきではないか。
  • 嫁が積極的に発言しているが、妻や長男はほとんど意見を言っていない。家族としての意思決定となっているのかわからない。
  • 患者はリビングウィルを示していたが、搬送時には気管内挿管に同意しており、治療を行わないことが患者の意思を十分に反映したものであるかがわからない。

患者は事前にリビングウィルを示していたものの、救急搬送時には気管内挿管に同意している。現在は呼吸困難があり、意識レベルも清明ではなく、十分な意志決定ができる状態ではないため、状況が変化している現在でも、患者の望みが積極的治療をしないことであるのかの確認ができない状態である。これに対し妻と嫁は、「積極的な治療はせず、苦痛の緩和を」と希望しているが、妻には迷いが見られるとともに、長男の意思は不明であることから、家族全員の意向を反映し、意思決定がなされているのかについて、看護師は懸念している。

妻は患者の「回復の見込みがないのであれば積極的な治療は希望しない」という意思を尊重したいと述べているが、医学的には回復の見込みについては判断が難しい状況である。そのため、患者および家族の意思を尊重するにはどうしたらよいか、看護師は悩んでいる。

解決に向けて

患者にとっての最善を考える視点
  • 医学的に回復の見込みがないとは言えない現状において、積極的な治療を行わないことは患者の意思を尊重することになるのか。
  • 医学的に回復の見込みがないとは言えない状況であることを家族がどのように理解しているか。
  • 妻、嫁、長男などすべての家族に必要な情報が提供され、受け止めや考え、思いを表出する機会が与えられているか。
  • 家族の意思決定はすべての家族の合意の下で行われているものであるか。
解決に向けた取り組み

家族が患者の状況について正しく理解した上で、患者の意思を尊重して家族として代理意思決定ができるよう支援していく必要がある。そのためには、まずは患者の状態に対する正しい理解が欠かせない。患者の現在の状況を「助からない」と理解している家族に対し、医学的には助かる見込みがないわけではないことを説明するとともに、その可能性について明確に述べることはできないことを丁寧に説明し、理解を促す必要がある。

さらに、妻や長男に対し、それぞれの思いや悩み、治療への希望などについて表出できるような関わりが必要である。まずはそれぞれの考えを把握し、共通する点と対立する点を整理した上で、家族として意見をまとめていけるよう支援することが求められる。家族が患者の意思を踏まえ、正しい情報を基に、それぞれの思いを表出し、話し合いを重ねるプロセスを踏んでいくことが重要である。