臓器移植医療と倫理

    倫理的課題の概要

    社会的背景

    20世紀、わが国では臓器移植医療が大きな進歩を遂げ、1997年には心停止後に加え脳死下での臓器移植の言及を含む「臓器の移植に関する法律(臓器移植法)」が施行された。さらに、2009年には、同法が改正され、翌年から現在に至り施行されている。主な改正の内容には、本人の書面による意思表示がない場合であっても、本人の臓器提供を拒否する意向が認められない場合には、家族の承諾による脳死下での臓器提供が可能であることや、臓器提供が可能な対象年齢の引き下げ、ならびに虐待を受けた疑いのある子どもからの臓器提供は行わないことなどがある。

    臓器移植医療が技術的に飛躍を遂げた報道を目にすることもあれば、臓器移植法に違反する臓器売買や登録患者の選定に伴う不祥事などで社会に影響を及ぼす状況も見られている。臓器移植医療は、人の意思を尊重した高い倫理性を問われる医療であり、そのような中で様々な場面に関わる看護職は、自らの責務を果たせるように努めていくことが求められる。

    倫理的課題の特徴

    臓器移植医療は、臓器を提供する側「ドナー」と提供を受ける側「レシピエント」という異なる立場がつながることで成り立っている医療である。

    ドナーは、「死体」と「生体」に大別され、「死体」には「脳死」と「心停止」がある。レシピエントはほとんどが臓器不全であり、近い将来に死が予測されている、又は著しくQOLが阻害されながら生活を維持している状態にある。

    臓器移植医療の場合、ドナーとレシピエントの双方の家族が重要な立場に置かれる場面が多く見られる。具体的には、患者の意思が不明な場合における臓器提供の代理意思決定、あるいは自ら健康で自身の身体には利益のない手術を行うことの選択などである。

    このような状況において、看護職はドナーやレシピエント、その家族の意思決定支援をどのように行えばよいのか悩むケースがよくみられる。「脳死移植」においては、看護職も脳死を人の死かどうか迷ったり、個々の価値観と実際に展開されている医療や自身の役割の間で葛藤を抱いたりすることもある。

    「生体移植」は、日本において臓器移植の大多数を占めている状況が続いている。現在、生体ドナーに法的規制はないものの、日本移植学会は「日本移植学会倫理指針」においては、ドナーは親族(6親等内の血族、配偶者と3親等内の姻族)に限定することが明記されており、併せて各医療機関での判断が求められている。生体ドナーについては、誰がドナーとなるかを決定する際に様々な葛藤が生じ、ときには親族内に潜んでいた問題が浮き彫りとなったり、最善な選択を行う環境に大きな影響が生じたりする場合もある。看護職には、治療法の選択とドナーの決定を含む全てのプロセスにおいて、ドナーとレシピエント双方の生命や尊厳、権利を尊重することが求められる。

    考える際の視点

    臓器の移植に関する法律では、第2条に臓器移植の基本的理念を示している。

    臓器の移植に関する法律(基本的理念)

    • 第2条 死亡した者が生存中に有していた自己の臓器の移植術に使用されるための提供に関する意思は、尊重されなければならない。
    • 移植術に使用されるための臓器の提供は、任意にされたものでなければならない。
    • 臓器の移植は、移植術に使用されるための臓器が人道的精神に基づいて提供されるものであることにかんがみ、移植術を必要とする者に対して適切に行われなければならない。
    • 移植術を必要とする者に係る移植術を受ける機会は、公平に与えられるよう配慮されなければならない。

    臓器提供は本人の意思が尊重されるものであり、それは、臓器提供をする意思だけでなく、臓器提供したくないという意思も含まれる。そして、本人の意思を尊重するためには、強制や誘導があってはならない。

    看護職はドナー、レシピエントとなる者に対して中立の立場でサポートし、意思決定支援を行うことが必要である。また、看護職には、ドナーとレシピエント、またその家族の精神的、社会的な支援も求められるが、移植の判断から実施までは多くの職種が関わることになる。臓器移植については、家族との調整役を担う移植コーディネーター(ドナー移植コーディネーター、レシピエント移植コーディネーター)などと連携し、チームでドナー、レシピエントとその家族への支援を進めていくことが重要である。

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