看護実践情報

妊娠・出産をめぐる倫理

倫理的課題の概要

社会的背景

女性にとって妊娠、出産は重要なライフイベントである。女性の社会進出も進み、結婚するかしないか、子どもを産むか産まないかなど女性が選択する人生は多様化している。

妊娠や出産をめぐる課題として、第1子の出産年齢が上昇し、ハイリスク妊娠・出産等の増加、早産・低出生体重児の増加、不妊などがある。また、薬物による出産コントロールや、不妊治療、出生前診断が日常の臨床現場で行われるようになり、妊娠・出産に関わる医療技術の選択肢も多様になっている。さらに、医療技術の発達により、在胎週数が短く出生した新生児も救命できるようになってきた。

倫理的課題の特徴

妊娠・出産をめぐっては、母体の安全を考慮しながら、母親や家族の様々な意向を尊重し、どのような医療技術を選択するかということとともに、胎児や新生児を1人の人間としてとらえ、その尊厳をどのように尊重するかという倫理的課題がある。

どのような医療技術を選択するかについては、例えば、不妊治療の際、侵襲性の高い技術や、多胎妊娠の可能性が高い技術があり、子供が欲しいというカップルの意向を尊重しつつ、安全性の問題や妊娠・出産後どのように子育てしていくのかということについても考慮して、治療の選択や続行を決定しなければならない場面がある。出生前診断は、胎児の異常の有無の確認や胎児の状態に適合した分娩方法の選択、出生後のケアの準備などの目的で行われるが、検査によって、何らかの胎児の異常や母体の異常が診断される可能性がある。診断の結果、母体、胎児、家族にどのような影響があるかについて、十分考慮したうえで検査を受けるかどうか選択する必要がある。

胎児や新生児の尊厳をどのように尊重するかについては、もし胎児に何らかの異常が発見された場合、妊娠を継続するかどうか悩む場面がある。決定にあたり、母体の安全は言うまでもないが、胎児の生命や尊厳をどのように考えるか、また、将来、その命をどのように産み育てていくかということについても、パートナーとの関係、経済的なことなど様々な状況を考えなければならず、倫理的課題が生じることもある。さらに、様々な視点で考えなければならない中、意思決定をめぐり、母親だけでなく、パートナーや祖父母などキーパーソンが多く、価値観の対立が生じる可能性があることも、妊娠・出産をめぐる倫理的課題の特徴である。

考える際の視点

関係者間で検討を重ねながら、その課題に向き合い、より良い解決策を模索するプロセスが、母親やその家族、そして医療職にとっても重要である。そして、どのような決定をするかは母親やその家族の意思を尊重する、という基本は変わらない。医療職は、母体や胎児の状態に関する情報を、現時点だけでなく、将来の可能性についても含めて十分に情報提供をする必要がある。

また、母親やその家族が児の生きる権利や尊厳、出産後の将来の子育てについても検討できるよう、医療職だけでなく、経済的問題や障害を持つ胎児の支援などの社会的資源に関することなどについても、情報提供をしていくことが求められるため必要なときには、福祉職とも連携していく。

さらに、出産をめぐる問題は、母親になる女性だけでなく家族にとっても危機的状態でもある。現時点の母体の状態だけでなく、出産後の将来のことも含め、意思決定をしなければならない母親、家族の不安な状況を理解し、寄り添い支援する。