看護実践情報

人生の最終段階における医療

倫理的課題の概要

社会的背景

看護職はこれまでも人生の最終段階にあるさまざまな年代の人々を多くケアしてきたが、高齢化の進展により、今後はさらに人生の最終段階にある高齢者へケアを提供する場面が増加する。日本が既に突入している「少子超高齢社会」は、同時に「多死社会」でもある。2014年の年間死亡者数は約126万人を超えており、2025年には約154万人、2035年には約166万人となると予測されている。

日本の高齢者が最期を迎える場所は、1975年代以降、医療機関が自宅を上回るようになり、今では医療機関での死亡が全体の8割近くとなっている。しかし、今後、死亡者数は増加する一方、病床数の増加が見込めないことから、病院以外の介護施設や自宅で最期の時を迎える人が増加することになる。このことにより、看護職が看取りを行う場面も多様化するとともに、特に、介護施設や在宅において最期までその人らしい人生を全うできるよう支える看護職に期待される役割はとても大きい。

「人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン」
ガイドライン作成と改訂

厚生労働省においては、1987年以降、意識調査などを重ねながら、終末期医療について有識者会議での検討を続けてきた。これまでに実施された意識調査の結果などからは、終末期医療に関する国民の意識が変化していることや、「終末期」と一口に言っても、患者または利用者等の状態や取り巻く環境などは多様であることが示されており、国は終末期医療に関して何らかの取り決めを示すことについては慎重な姿勢をとっていた。しかし、「終末期医療のあり方」について、広く患者・家族・医療職が合意できる基本的な点を整理し、それをガイドラインとして示すことが、より良い医療につながるとの理由から、2007年に「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」および解説編が作成された。さらに、最期まで尊厳を尊重した人間の生き方に着目した医療を目指すことが重要であるとの考え方に基づき、2015年3月には従来使われていた「終末期医療」という表記を「人生の最終段階における医療」に変更することとなり、「人生の最終段階における医療の決定プロセスに関するガイドライン」および解説編と名称が変更された。

ガイドライン策定から10年の歳月を経た2018年3月には、近年の高齢多死社会の進展に伴い、地域包括ケアの構築に対応する必要があることや、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の概念を踏まえた研究・取り組みが普及してきていることなどを踏まえ、ガイドラインの改訂が行われた。

ガイドラインの基本的な考え方

本ガイドラインでは、「人生の最終段階における医療・ケアの在り方」として、適切な情報の提供と説明がなされ、それに基づいて患者または利用者等と医療・ケアチームが話し合いを行い、患者または利用者等の意思決定を基本とすることが示されている。また、多職種から構成されるチームにおける判断の重要性、症状を緩和し全人的なケアをすることの必要性が示唆されている。また、心身の状態の変化等に応じて、本人の意思は変化し得るものであり、医療・ケアの方針や、どのような生き方を望むか等を、日頃から繰り返し話し合うことの重要性が強調されている。

また、「人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定手続き」として、患者または利用者等の意思が確認できる場合と、できない場合に分けてプロセスを整理するとともに、複数の専門家から構成される話し合いの場を設置し、困難事例において検討・助言をすることの必要性が言及されている。

医療提供体制の変化を踏まえた人生の最終段階における医療

人生の最終段階には、ある程度予後の見通しが可能ながんのような疾患の場合、急性増悪と改善を繰り返しながら徐々に状態が悪化する慢性疾患の場合、数カ月から数年の期間を経て徐々に状態が悪くなる老衰など、いくつかの場合がある。今後、さらに病床機能分化が進むことにより、状態が悪くなった高齢者はいつも同じ病院に入院するのではなく、その時々の状態に合わせ、集中的な医療が必要な期間に限り、必要な医療機能の病院に入院することになる。そのため、療養の場が自宅から病院、病院から介護施設、介護施設から別の病院と刻々と変化する中においても、今後患者または利用者等がどのように暮らしていきたいのかという意思を尊重し、継続的なケアが提供されることが重要である。

考える際の視点

2018年に改訂されたガイドラインでは、ACP(アドバンス・ケア・プランニング)の考え方が盛り込まれた。同ガイドラインによると、ACPとは「人生の最終段階の医療・ケアについて、本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセス」である。本人の意思は変化しうるものであることや、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、本人と家族等の信頼できるものを含め、話し合いが繰り返し行われることが重要である。人生の最終段階における医療・ケアの提供にあたって、医療・ケアチームは、本人の意思を尊重するため、本人のこれまでの人生観や価値観、どのような生き方を望むかを含め、できる限り把握することが必要である。

医療・ケアチームの中で、看護職は療養生活支援の専門家である。看護職は、対象者の長期的な身体状況の変化を予測するとともに、患者または利用者等や家族の希望を把握し、それが叶うような生活を実現・継続するために必要なケアを判断し、提供していく。対象者の最も身近な医療職として関わることにより、看護職は苦痛、不安、苦悩等の患者または利用者等の抱える問題にいち早く気付き、尊厳を守りながら、患者または利用者等が、その人らしく最期まで人生を全うできるよう支援するための看護を提供することが求められる。特に、その人らしく人生の最終段階を全うするためにどのような医療を受けたいか、受けたくないかの意思決定の支援は非常に重要になる。

そこで、人生の最終段階における医療およびケアの意思決定において、以下のようなことが看護職に求められる。

  • 悲嘆のケア、病期に応じた症状マネジメントなどを行い、患者または利用者等が少しでも安楽な状態で意思決定ができるようにケアをする。
  • 患者または利用者等がこれまでどのような人生観や価値観を持ち、これまでどのように意思決定してきたか、さらに、どのような人生の最終段階を迎えたいかを把握する。そのために、日頃のケアの場面も含めて十分コミュニケーションをとっておく。
  • 人生の最終段階において、患者または利用者が自身の人生観や価値観に沿った時を送ることができるように、患者または利用者等が受けたい医療・ケアを選択できるようにしなければならない。そのためには、今後の心身の状態の変化の見通し、生活上の留意点等を含めた十分な情報を提供する。
  • 患者または利用者等や家族に提供された情報の理解状況や受け止めを確認し、患者または利用者等や家族の思いや希望、受け止め状況、疑問などについて多職種で共有する。
  • 患者または利用者等が不安や疑問、思いが十分表現できない場合は、アドボケート(権利庇護者、代弁者)となる。