意思決定支援と倫理(1)代理意思決定の支援

    倫理的課題の概要

    社会的背景

    医療技術の発展は、患者又は利用者等の救命の可能性を高めている。人工呼吸器等の生命維持装置の装着や人工的栄養摂取によって救命、延命の可能性が高まる中、患者又は利用者等が意思を伝えられないことで起こる倫理的課題は増加している。意思表示ができない患者又は利用者等には、重度の認知症や疾患の急性増悪によって意識が低下した患者もいるが、ここでは、予測困難な状況で意思決定が家族等の第三者に委ねられやすい救急医療の場面での倫理的課題について紹介する。

    倫理的課題の特徴

    急激に生命の危機状態に陥ったとき、患者又は利用者等は意思表示できない場合がほとんどであり、家族や医療職は患者又は利用者等との意思疎通が困難になる。このような場合、患者又は利用者等の希望や意思に沿った治療を実施するためには、患者又は利用者等の事前意思の確認や代理決定者としての家族の存在が重要になる。家族は精神的危機に直面し衝撃や悲嘆の中で、積極的治療を行うかどうか、現在の治療を維持するのか、あるいは終了するのか、延命措置は差し控えるかどうか等、次々と意思決定を迫られる。さらに、家族による代理意思決定は、患者又は利用者等の状態の変化によって気持ちが変化したり、一度決定したことが果たしてよかったのかと不安になることが往々にしてみられる。

    このような状況で看護職は、どのようなプロセスで意思決定を進めたらよいのか、患者又は利用者等の意思が尊重され最善の決定がなされているのか、家族の意思決定を支えることができているのかといった倫理的ジレンマを抱くことになる。

    考える際の視点

    患者の意思の推定ができればそれを尊重し、できない場合は患者又は利用者等にとっての最善を探る必要がある。

    • 患者又は利用者等の事前意思の有無

      患者又は利用者等の事前意思が表明されている場合、患者又は利用者等の意思と患者又は利用者等にとっての最善の双方を検討し、家族と保健医療福祉サービスに関わる専門職チームが合意を目指す。ただし、患者又は利用者等や家族の意思が社会的視点から適切でないと判断される場合、その意思は尊重されるとは限らない。

    • 家族による代理意思決定

      患者又は利用者等の事前意思の確認ができない場合は、家族が患者又は利用者等の意思を推定することになる。看護職は、患者又は利用者等がどのような人生を送り、どのような価値観を持っていたのか等、家族と話し合いを重ね患者の考え方や気持ちに迫る努力をする。また、家族が意思決定をするために必要な患者又は利用者等の現状や選択肢のメリット・デメリット等に関する情報を提供することも必要である。

      患者又は利用者等にとって最善と考えられる選択であっても、家族にとっては過重な負担であるかもしれない。その場合は、患者又は利用者等にとっての最善を実現するために、家族の負担を軽減する方法を探し、両者にとってのより良い決定になるよう配慮する必要がある。

    • 家族がいない、あるいは家族に判断能力がない患者又は利用者等の代理意思決定

      家族がいない、あるいは親族が多くいる場合においても、患者又は利用者等にとってのキーパーソンが誰なのか、わからない場合もある。また、家族がいても十分な判断能力が備わっていないこともある。その場合、患者又は利用者等にとっての最善を核としつつ、家族や親族の負担を考慮し、保健医療福祉サービスに関わる専門職チームと家族、親族等の両者で十分に話し合い、合意を得て最終的な決定をすることになる。

    • 代理意思決定をした家族への支援

      一旦意思決定はなされても、家族の気持ちは常に変化していることを念頭に置きながら関わることが大切である。家族が患者又は利用者等の状態や変化していく状況を受容できるよう、希望すればケアを一緒に行うこともよい。また、家族には一度決めたことでも変更はできることを伝え、意思決定に寄り添う姿勢を持つ。

    • 多職種での倫理的な検討の必要性

      何が患者又は利用者等にとっての最善かを考えるためには、保健医療福祉サービスに関わる専門職チームとして話し合いを重ねていくことが重要である。患者又は利用者等の事前意思がなく、家族と保健医療福祉サービスに関わる専門職チームチームの中で十分な話し合いを持っても合意形成できない場合は、複数の専門家からなる委員会を別途設置し、合意形成に努める。

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