看護実践情報

安全確保と倫理

倫理的課題の概要

社会的背景

介護保険指定基準では、「サービスの提供にあたっては、生命又は身体を保護するため緊急やむを得ない場合を除き、入所者の行動を制限する行為を行ってはならない」とされており、その具体的な行為の例として、「身体拘束ゼロへの手引き 高齢者ケアに関わるすべての人に(厚生労働省)」では、紐やベルト、ミトンなどの道具を用いたり、つなぎを着用させたり、ベッドを柵で囲むことなどが挙げられている。患者又は利用者等の行動を制限するという点では、離床センサーや監視カメラなどを使用することも同様であり、これらの使用についても倫理的な観点から対応が必要である。

自由な行動を制限することは、人間としての尊厳を損ねるため、本来実施すべきではない。しかし、「治療の場」である医療機関においては、患者の安全を確保するために、必要最小限の身体抑制が必要となる場合もある。例えば、侵襲的な治療が常に行われている場合や、疾患や薬剤等により認知機能が低下している場合などが挙げられる。とりわけ最近では、患者の高齢化により、認知症やMCI(Mild Cognitive Impairment:軽度認知症)の診断は受けていないものの、認知機能の低下がみられる患者が増加しているとともに、認知機能の低下がある患者が手術や侵襲性の高い検査を受けるケースも少なくない。また、入院や手術などの急な環境の変化により、生活の場では潜在していた認知機能の低下が顕在化したり、せん妄を発症する事例も多い。そのため、治療上必要な安静を守ることができない場合や、点滴やドレーンなどのライン類の必要性を理解できずに抜去してしまう場合には、安全を確保するための最小限の身体抑制が必要となる。

このような状況において看護職は、患者の安全を確保し、治療を円滑に進めるためには身体抑制が必要だという思いと、患者の尊厳を守るためにはできるだけ身体抑制をしたくないという思いの間で葛藤や苦悩を抱えることがある。

考える際の視点

身体抑制をしたか、しないかという結果ではなく、患者又は利用者等の身体状況や意識レベル、認知機能や安全を保つことができない場合のリスク等を総合的に勘案した上で、身体抑制の3要件「切迫性・非代替性・一時性」について、チームで判断するプロセスがとても重要である。つまり、身体抑制をしない場合の安全上のリスクが非常に高く、身体抑制以外に患者又は利用者等の安全を確保する方策がないと判断された場合には、必要最低限の期間のみ身体抑制を行うことはやむを得ないといえる。

医療機関の看護職には、刻々と変化する患者又は利用者の状態を適切にアセスメントし、医療安全上のリスクや対応策について判断する高い能力が求められている。最適な判断を行うためには、看護師が1人で判断するのでなく、多職種からなるチームで判断を行うことが必要である。患者又は利用者等に関わる全ての看護職が、医療安全上どのようなリスクがあるのか、なぜ身体抑制が必要なのか、どのような方法が適切なのかについて、説明できるようチームで話し合いを重ねるとともに、身体抑制を実施する期間を最小限とするよう工夫できることはないかを検討することで、医療安全と尊厳の保持についての葛藤は軽減できるだろう。

出典:「身体拘束ゼロへの手引き−高齢者ケアに関わるすべての人に」を一部改変

さらに、実際に身体抑制を行う際には以下の点に留意する必要がある。

  • 患者又は利用者等や家族に身体抑制の必要性について説明の上、書面で同意を得る
  • 患者又は利用者等の安全を守るため、最も効果的かつ負担の少ない方法で行う
  • 関節や筋力、皮膚の状態、精神状態など、身体抑制の悪影響について丁寧に観察を行なう
  • 身体抑制の必要性や方法について継続的にチームで評価し、必要に応じて方法や期間を変更する
  • 身体抑制を開始・継続・解除した根拠、患者又は利用者等の状態・反応等についてチームで情報を共有し、記録に残す

さらに理解を深めたい方のために

厚生労働省:身体拘束ゼロへの手引き−高齢者ケアに関わるすべての人に,2001.