地域包括ケアにおける看護提供体制の構築

女性の生活と健康

第28回(3月3日)産後の復職・ワーク・ライフ・バランス

『助産師の部屋』も、残り数回となりました。春ももうじきです。4月から復職を考えているママたちは、保育園の準備などで忙しい時期ですね。
ワーク・ライフ・バランス(Work Life Balance、以下WLB)という言葉を聞いたことはありますか。WLBが実現した社会の姿とは「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き、仕事上の責任を果たすとともに、家庭や地域生活などにおいても、子育て期、中高年期といった人生の各段階に応じて、多様な生き方が選択・実現できる社会」(内閣府 仕事と生活の調和推進官民トップ会議 2007年12月)と定義されています。
WLBが浸透し、当たり前になる社会の実現には、まだ課題が山積みです。短時間勤務制度を利用するワーキングママも多いですが、残念ながら職場の理解が進まず、マタニティ・ハラスメント(妊娠や出産した女性に対して職場で行われる嫌がらせ)の話も聞きます。
少子化の時代、日本では労働人口の減少が予想されています。安倍首相も「経済を持続可能な成長軌道に乗せるため、最大の潜在力である女性の力を最大限発揮させる」と明言しています。母親としての視点、経験値を積んだママたちには、たとえ勤務時間が短くても、社会や職場で貢献できることがたくさんあるはずです。ある企業では、来春の新卒採用者から、出産を予定している女性に対し、採用選考に合格すれば最長で30歳になるまで内定資格を保有できる人事制度を導入するそうです。出産や育児が一段落した段階で入社できるシステムです。このような画期的な取り組みが、さらに広がるよう期待したいですね。
マタニティ・ハラスメントには、毅然として立ち向かいましょう。母は強し、です!もちろん、気配りもお忘れなく。
最後に、頑張りすぎは禁物です。休日は、子どもと一緒に自然の中をのんびり歩いて、季節の移ろいを感じましょう。「育児は育自」と言われています。子どもを育てながら、ママたち自身も、母親として日々成長していくものです。子育ての時間を楽しんでください。

第17回(12月12日)妊娠をきっかけにわかった、「妊娠糖尿病」と「HTLV-1」

今回は、「妊娠糖尿病」と「HTLV-1」についてお話しします。
妊娠糖尿病とは、「妊娠中に発症した、糖尿病に至っていない糖代謝異常」のことをいいます。
妊娠すると、子宮の中でつくられる胎盤からさまざまなホルモンが分泌されます。このホルモンが増えると、食事後など体内の血糖が上がったとき、血糖を下げる働きをするインスリンの作用が鈍くなります。インスリンの作用が鈍くなると、食後に上がった血糖が下がりづらくなります。なぜこのようなことが起こるのかというと、妊婦さんの血糖を高くすることで、赤ちゃんにたくさんのブドウ糖を送り、成長を促すからです。そして出産とともに胎盤は身体の外に出る母体の血糖は下がります。
妊娠すると、いつも以上にインスリンを多く分泌し、血糖を一定値に保つようになりますが、妊娠糖尿病の方は十分なインスリン分泌が保てず、血糖が高い状態が続きます。妊娠糖尿病では、赤ちゃんが高血糖にさらされることで大きく成長しすぎる、生まれた後はブドウ糖を送ってくれた母親から離れるため急激に低血糖になるなど、さまざまな影響が出ますが、食事療法やインスリン投与など、血糖をコントロールすることで予防できます。また、妊娠糖尿病だった方は、出産後や次の妊娠時に糖尿病を発症するリスクが高いと言われています。妊娠中に限らず、ご自身の身体に関心をもっていただき、予防することが大切です。生活習慣や食事の工夫など、ぜひご相談ください。
次に、「HTLV-1」についてです。「HTLV-1」とは、「ヒト細胞白血病ウィルス1型」というウィルスのことで、「成人T細胞白血病」の原因とされています。ウィルスを保有しているだけでは特に症状はないのですが、1000人に1人の割合で「成人T細胞白血病」を発症するとされています。
なぜ、わざわざ妊婦健診の検査項目に、「HTLV-1」という項目があるのかというと、お母さんがHTLV-1を保有している場合、母乳を通して赤ちゃんに移ることがわかっています。しかし、長期にわたり母乳を与えていた場合でも感染する確率は15〜20%、また母乳を一切与えていなくても約3%感染する確率がある、とされています。さらに、母乳を一度マイナス20度で凍結してから赤ちゃんに与えるという方法も提案されていますが、現段階では確実な予防策とは言い切れません。
お母さんがHTLV-1を保有していると検査でわかった場合、わたしたちは赤ちゃんへの栄養方法をどうするのか、お母さんと一緒に考えさせていただきます。迷いがあるときは、いつでも身近な助産師にご相談ください。私たちは、お母さんが決めた栄養方法を応援させていただきます。 厚生労働省のHPに、HTLV-1についてのページがあります。詳しく知りたい方は、ご参照ください。

第30回(3月20日)災害対策について

東日本大震災から3年が経ちました。今もなお多くの方々がこれまでとは違う日常を送られています。今回は、多くの尊い命を想いながら、災害対策について、考えてみたいと思います。
私たちは、地震、台風、土砂災害、大雪、噴火など、さまざまな災害がいつでも、どこでも起きる可能性のある土地で暮らしています。小さな赤ちゃんやお子さんがいる家庭では、オムツやおしりふき、水、粉ミルク、哺乳瓶、ブランケットなど、必要な物を避難用バッグにまとめている方もいらっしゃると思います。災害対策では、「日ごろからの備え」がとても重要です。しかし、災害はいつ、どこで起こるかわかりません。外出先で災害に遭うことも十分に考えられます。公園で子どもと遊んでいる時。赤ちゃんを抱っこしながら電車に乗っている時。
その瞬間に、大きな災害に遭ったとしたら、どうしますか? 少し、想像してみてください。
避難所では、赤ちゃんや小さなお子さんへの対応が、必ずしも十分ではない可能性もあります。今、あなたが持っているものは、バッグの中身だけ。外出用の必要最低限のものしか入っていないことでしょう。災害医療では、「72時間の壁」という言葉があります。災害発生から72時間を経過すると、急激に生存率が低下することが指摘されています。救助を待つ、この72時間を生き抜くための「知恵」が、あなたとお子さんを守るために必要になります。
もしも、オムツがなくなったら、どうしましょうか?レジ袋とタオルがあれば、オムツの代用品をつくることもできます。ストッキングの足の部分を切れば、オムツカバーとしても活用できます。
災害時は、母乳が力を発揮するときです。しっかりと抱きしめることで、赤ちゃんを温めることもできます。哺乳瓶がなかったり、消毒ができない場合には、赤ちゃんのペースに合わせて、紙コップでゆっくりと少しずつ飲ませましょう。粉ミルクがない時には、湯ざましと砂糖があれば一時的にしのぐことができます。最近では、インターネット上でも、多くの災害時の工夫が共有されています。
いつもは当たり前のようにある物が目の前にない。そのような状況を想像して、自分ならばどうするかを考える。 その、ちょっとした頭の訓練の繰り返しが、「知恵」を身につけることにつながっていくのではないでしょうか。東日本大震災では、私たち助産師も「知恵」を身につけておくことの重要性を改めて感じました。
被災地では、お産の最中に大きな揺れに襲われました。生まれたばかりの赤ちゃんを抱いて、病院のロビーで寒い夜を過ごしました。助産師が声をそろえて語ったことは「日ごろからの備えがあったからこそ、対応できた。」という言葉でした。「日ごろからの備え」とは、災害訓練や物の準備だけではありません。 常に、さまざまな困難な場面を想像し、自分がどう動くのかを考え、頭の中で訓練をしておくこと。それが「日ごろからの備え」であり、赤ちゃんやママを守るための助産師の「知恵」として発揮されたのです。
東日本大震災は、「想定を遥かに超えた災害」と言われました。私たちの想像力を遥かに超えた自然の脅威に、言葉を失いました。「日ごろからの備え」の大切さは、言うまでもありません。しかし、十分に備えていても、命とはたくましくもあり、また、はかなくもあります。
今回のテーマは「災害対策」。何を書いても、想いが言葉にならないような気がしています。目の前にいる赤ちゃんやお子さんを、おなかの中の赤ちゃんを、ぎゅっと抱きしめてあげてください。それは、どんな言葉よりも温かい気持ちになれる瞬間です。
多くの尊い命からのメッセージを受け取りながら、前に向かって、ゆっくりと静かに一歩ずつ歩んでいく。それが、今、私たちにできることではないでしょうか。

おわりに

第31回(3月27日)ご挨拶

「助産師の部屋」でお会いできるのが最後になりました。
助産師の部屋を訪問してくださったみなさま、ありがとうございました。早いもので、助産師の部屋も今回で閉じることになりました。
暑い夏が過ぎ、大雪だった寒い冬も過ぎ、東京にも桜の開花宣言が行われました。この1年間、子育ての真っただ中におられた方々は、どのような1年間を過ごされたでしょうか。そして、どのような新年度をお迎えになるのでしょうか。お子様が、入園されたり、入学されたりと人生の節目の時期にあたる方も少なくないのでしょうね。そのような時、お産のことを思い出してみてください。
「助産師の部屋」では、助産師の歴史を共有していただき、妊娠やお産、お産後の生活、母乳育児や、子育てのことなど、そして災害対応も含めて、助産師が関わる全般についてレポートをさせていただきました。
この助産師の部屋を開いている同時期に、出産経験のある女性を対象に「助産師を知っていますか」というアンケート調査をWEBで行いました。ほとんどの方が、「助産師」を知っていると応えてくださいました。しかし、「いつ知りましたか」という質問には、「妊娠してから」というのが、ほとんどの方の回答でした。妊娠していなくても、助産師の存在をわかっていただけるようにしていかなければならないと、改めて思っています。
助産師は、女性のそばにいつもいます。妊娠や、出産、子育てのときに、最も身近に感じる存在かも知れませんが、女性やご家族の生涯に渡って、活用していただける職種です。この助産師の部屋を訪れてくださったみなさまには、助産師を身近に感じていただけたことと思います。
1年間、お付き合いいただきありがとうございました。
これからも、全ての女性と妊産婦、赤ちゃんとともに助産師はいます。