地域包括ケアにおける看護提供体制の構築

出産

第18回(12月27日)「出産」のおはなし

今回は、「出産」についてお話をします。
「出産」とは、胎児およびその付属物(胎盤、羊水など)が産婦の身体から娩出されることをいいます。
妊婦健診で伝えられる出産予定日は、妊娠40週0日のことを指しています。一般的に、胎内で育つ赤ちゃんが生まれてきても大丈夫とされている「正期産」の時期は妊娠37週から42週頃とされています。必ずしも妊娠40週0日に出産となるわけではありません。妊娠の経過を追っていくための「指標」となる日にちです。お母さんと赤ちゃんの状態を表す重要な情報ですので、ご自身が妊娠何週であるかを医療者に伝えていただくと、母子を把握することにとても役立ちます。
出産が近くなると、妊婦健診で「子宮口が少し開いてきた」「やわらかくなってきた」と医師に言われることがあります。これは、お母さんの「産道」が出産に向けて、準備している兆候です。出産予定日に向かって、お母さんの身体は赤ちゃんを産む準備をしていきます。
「出産」は陣痛ではじまります。(時に破水から始まる人もいますがその時はあわてず、清潔なパットをあてて病院に連絡しましょう。)陣痛とは、周期的におこる子宮の収縮のことで、赤ちゃんが外に出ようと決めたときにおこる身体の反応です。妊娠期間中から時々軽い子宮の収縮を経験している方もいますが、陣痛の間隔が10分以内、1時間に6回以上の頻度になることを「陣痛発来」といい、出産が開始したと判断されます。
陣痛の力によって赤ちゃんは外へ、外へとむかって進みます。赤ちゃんが外へと進むと、子宮口が開いていきます。赤ちゃんの身体で一番大きな頭は、子宮口が約10cm開くと通るとされています。赤ちゃんは陣痛の力を受けて、子宮口を開き、せまい産道の中を、身体を上手に回旋させながら、自分のペースで少しずつ進んでいきます。お母さんは赤ちゃんを信じて、無理にいきんで赤ちゃんを押し出そうとせず、陣痛の力に任せて過ごしましょう。
赤ちゃんが外の世界に生まれ出るとき、お母さんに軽くいきんで助けてもらうことがあります。赤ちゃんが生まれた後、しばらく間をおいてから胎盤が出てきます。胎盤が出たら、「出産」は終わりです!(母子健康手帳に記載されている分娩時間は、陣痛発来から赤ちゃんが生まれるまでです。)
日本産科婦人科学会は、出産にかかる時間を初産婦12〜16時間、経産婦5〜8時間としています。これは、あくまでも目安であり、個々人で違うので、参考程度に考えてください。
「出産」というと、お母さんにとって陣痛が痛い、大変、というイメージですが、実は赤ちゃんも「出産」中は大変な思いをしています。子宮が収縮すると、一時的に赤ちゃんへの血流が減少するため、赤ちゃんにとっても少し苦しい状態になります。陣痛は長くても1分程度なので、必要以上に赤ちゃんが苦しいことはありませんが、助産師が陣痛中のお母さんに、「息をとめない」ように伝えるのは、少しでも多くの酸素を赤ちゃんに届けるためなのです。赤ちゃんはママとパパに会うために、がんばって進んでいるのです。
「産む」「産まれる」過程はよくマラソンにたとえられます。走るために、飲んで、食べて、時々休み、周りに応援される長い道のりですが、必ずゴールがあります。お母さんと赤ちゃんが安全に「出産」を乗り切れるよう、わたしたち助産師は支援させていただいています。出産のときにわたしたちが出来ること、やってほしくないことなどを妊娠中から相談してください。お母さんが満足できる出産を一緒に考え、支援していきます。

第19回(12月27日)出産中の過ごし方

今回は、出産中の過ごし方についてお話をします。
妊娠37週以降になると、自宅から病院までの距離や移動手段、赤ちゃんの大きさやお母さんの体型、子宮口の状態によって、助産師から入院の時期について説明があります。お母さんは、いつでも入院ができるように荷物の準備や自宅の片づけを心がけながら過ごしましょう。
前回に、陣痛間隔が10分以内、1時間に6回以上になると「陣痛発来」として判断すると説明しました。陣痛は、繰り返される子宮の筋肉が収縮する波で、その波に押されながら赤ちゃんは産道を進んできます。
出産が進むにつれて、陣痛間隔は短くなり、また子宮収縮も強くなります。赤ちゃんは狭い産道を進むため、お母さんの痛みも腰からお尻の方へと痛みの部位が変化してきます。いわゆる産痛です。人間は、痛みに対して呼吸を止め痛い部分をさすったり押さえたり、たたいたりします。それが産痛時の対処法となりますが、前回にもお伝えした通り、陣痛時は、一時的に赤ちゃんへの血流が減少するため、赤ちゃんにとっても少し苦しい状態になりますので、お母さんに「息をとめない」よう息を吐くことに集中しましょう。
また、身体を強張らせ緊張した状態で痛みを逃そうとすると、産道もぎゅっとしまり、赤ちゃんの進行を妨げます。また、全身に力を入れて緊張する状態を繰り返すことでお母さんの体力も奪われていきます。その結果、子宮の筋肉も疲れてしまい、赤ちゃんを押し出す力が弱まってしまいます。
このような状況の中、お母さんはどのように過ごせばいいのでしょうか。まず、体力を維持するためにこまめにエネルギーを補充しましょう。陣痛の合間に摂取できるよう、食べ物はゼリーや一口大のおにぎりや果物、あっさりしたジュースなどの飲料を準備しておくとよいでしょう。
次に、身体の力を抜いてリラックスして過ごせるよう、ご家族や助産師が陣痛時に腰や背中をマッサージするなどして産痛緩和のお手伝いをします。また、同じ姿勢で過ごさずに椅子に座る、人に寄りかかる、前かがみになるなどお母さんが少しでも楽!と思う姿勢を探しましょう。
また、陣痛の合間に歩く、階段の上り下り等は、重力も相俟って赤ちゃんがぐっと進むこともあります。さらに、お母さんがリラックスできる環境づくりとして、室内の温度・音・照明・香りを工夫するなどの支援をします。この他、温浴・トイレにこもるなど、お母さんと赤ちゃんの状況に合わせて助産師がさまざまなアドバイスをさせていただきます。
誰しも、安全に、安楽に、安心して子どもを産みたいと考えます。だからこそ、助産師は専門的な知識と熟練した技術を用いて、妊娠期からお母さんとご家族に常に寄り添い、ともに考え、意思決定を促しながら、安全・安心な出産を支援しています。
ここに、助産師が出産に立ち会う意義があると考えています。お母さんが安全、安心で満足できるお産ができるよう、助産師は出産中、ずっと伴走させていただきます。

第20回(1月8日)「帝王切開」のおはなし

今年もすべてのママと赤ちゃんが笑顔で過ごせるように、私たち助産師も日々頑張ってまいりますので、よろしくお願いします!
さて、前回のテーマは「出産中の過ごし方」でしたね。今回は「帝王切開」についてお話します。
「帝王切開」とは、腹部と子宮壁を外科的に切開して、赤ちゃんを直接とりあげる方法を言います。帝王切開には、あらかじめ日時を決めて行う「予定帝王切開」と、赤ちゃんやお母さんの状態、お産の進行によって、急いで赤ちゃんを取りあげる必要が生じた場合に行われる「緊急帝王切開」があります。
帝王切開の理由として、頻度の多い順では、前回帝王切開、分娩遷延・停止(陣痛が始まったが、途中でお産の進行が遅れたり、止まってしまった場合)、胎児機能不全(妊娠中あるいは分娩中に、なんらかの理由で胎児心泊数モニタリング等で、胎児の状態に正常ではない兆候がみられた場合)、逆子(骨盤位)、双子や三つ子などの多胎妊娠と言われています。厚生労働省の調査によると、帝王切開の割合は1990年の10.0%、2002年の15.2%、2011年19.2%と、約20年間で2倍に増えています。いまでは約5人に1人の赤ちゃんが帝王切開で産まれていることになりますね。
帝王切開は比較的安全な手術とはいえ、開腹手術ですから、経膣分娩よりも高い侵襲性があります。しかし、母児の状況によっては、経膣分娩よりも安全性が高いお産の方法ともいえます。帝王切開のリスクとメリットを主治医や助産師と十分に話し合って、理解したうえで、帝王切開に臨むことが大切になります。私たち助産師は、産婦さんが帝王切開を安全に安心して受けられるよう、身体と心の両面から支援していきますので、帝王切開への不安や疑問について、ぜひ気軽に相談してくださいね。
  さて、少し昔話をすると、日本で初めて帝王切開が行われたのは1852年、現在の埼玉県飯能市です(「本邦帝王切開術発祥の地」の記念碑が、飯能市の史跡に指定されています!)。鎖国時代、黒船が来航した翌年にあたります。難産に苦しむ産婦の命を救うために、オランダ医学書の翻訳を頼りに、医師2人が帝王切開に挑みました。その当時はヨーロッパでも帝王切開による母体死亡率は非常に高かったようです。このような状況で、麻酔もなく、帝王切開を行い、成功させたことは奇跡的な出来事。産婦は88歳の長寿を全うしたというから、本当にすごいことです。日本で2例目の帝王切開は30年後だったそうですから、この時代に帝王切開を成功させたことは、まさに偉業だったのですね。医師への賞賛もさることながら、麻酔のない中で、想像もできない痛みに耐えた産婦さんには本当に頭が下がります。
初めての帝王切開から約160年後の今。もちろん、今は麻酔をしますし、帝王切開の安全性は格段に高くなっています。 帝王切開は、全身麻酔ではなく腰椎麻酔や硬膜外麻酔を使うことが多く、下半身にだけ麻酔が効いている状態になります。手術中でも意識がありますから、赤ちゃんの産声も聞こえますし、医師や助産師と話をすることもできます。 手術の当日や翌朝は、まだ身体が思うように動きませんから、寝たままの状態で赤ちゃんにおっぱいをふくませます。助産師がしっかりと赤ちゃんを支えて、大きなお口で上手におっぱいを飲めるようにサポートします。「帝王切開だと、初めておっぱいをあげる時が遅くなっちゃうのかしら?」と不安に思うことはないですよ! 手術の翌日には少しずつ歩き始めますので、ママの身体の状況に合わせて、赤ちゃんと一緒の時を過ごし、授乳やオムツ交換など、育児の練習を始めていきます。ここでも、助産師がサポートしますので安心してくださいね。
よく、「お産は十人十色」。どのようなお産になるかは、たとえ2人目でも、3人目でも分からないと言います。ママやパパ、ましてや主治医や助産師の思い通りにはいきません。「経膣分娩」や「帝王切開」の違いに関係なく、新しい命の誕生は、嬉しくて、愛しくて、幸せな気持ちをもたらしてくれます。

第21回 (1月16日) 「お産難民」のおはなし

11月は妊娠期、12月はお産について、話をしてきました。次は産後の話を予定していますが、1月は「産む場所」というキーワードで、妊産婦さんや産科医、助産師がおかれている現状について話をさせてくださいね。今回から3週連続で、「お産難民」「助産師の偏在と混合病棟」「院内助産・助産外来」についてお話します。
みなさんは「お産難民」という言葉を聞いたことがありますか?
お産ができる施設、いわゆる分娩施設は年々、数が減ってきています。あなたがお住まいの地域や里帰り先の地域で、お産ができる施設が少なくなってきているのです。大きなおなかを抱えて、上の子どもの手をとりながら、数時間かけて妊婦健診に通うという話も珍しくありません。たとえ近くに分娩施設があっても、地域の分娩施設が少なくなっていますので、分娩予約がいっぱいになっています。妊娠が分かってすぐにお産の申し込みをしないと、お産ができないという状況も起きています。このような、産む場所がない状況を「お産難民」と表現して、多くの妊婦さんの悲痛な声がメディアなどでも取り上げられました。
分娩施設が減少している原因は、産科医の減少、産科医不足と言われています。お産は昼も夜も関係なく、お正月もお盆休みも関係なし。365日24時間、いつでも新しい命が産まれてきます。
そのことを十分に考えて、産科医も助産師も、妊婦さんを迎え入れる態勢を整えたいのですが、それには産科医と助産師の「十分な人数の確保」が必要になります。産科医も助産師も人間ですから、少ない人数で休みなく、働き続けることはできません。十分な受け入れ態勢がないままに、お産を受け入れてしまうことは、かえってお産のリスクを高め、安全な医療や助産ケアを提供できなくなる恐れがあります。
限られた産科医や助産師の人数で、安全で安心なお産を行うために、年間で受け入れられる分娩件数を制限している施設も増えています。産科医がいなくなったり、1人になってしまったことで、お産の受け入れをやめる施設も増えています。
産科医にとっても助産師にとっても、お産の受け入れをやめざるをえないという辛い決断があり、その結果が「お産難民」を引き起こしたのです。しかし、少し明るい未来としては、ここ数年は、産科医の数もわずかながらに増えています。助産師も少しずつですが着実に増えています。この国からお産をなくしてはいけない!産む場所をなくしてはいけない!という、危機感のあらわれかもしれません。
少し堅苦しい話かもしれませんが、各都道府県は、医療法という法律に基づいて、各地域の人口や出生率、医療資源(施設数や産科医数、助産師数など)を勘案し、各地域の課題に応じて「周産期医療体制整備計画」を5カ年計画で策定しています。各都道府県の計画はホームページで公開されていますので、誰でもみることができます。「私には関係のない話だわ。」と思われるかもしれませんが、この計画に基づいて、あなたがお住まいの地域のお産が守られていくのです。新しい命、未来を守るための、とても大切な計画です。
その地域に暮らしているのは、みなさん、おひとりおひとりです。「お産難民」を自分のこととして真剣に考え、産む場所を守り、子どもの未来を一緒に守りませんか。産声の聞こえない地域、産む場所がない地域にはしたくない。そこに妊婦さんがいる限り、私たち助産師は安全で安心して産むことのできる場所を提供し続けたいと、心から願うのです。