地域包括ケアにおける看護提供体制の構築

アドバンス助産師活動レポート

医療法人宣誠会 古川産婦人科(福島県郡山市)

地域での役割見え、経営戦略の一助に
  • 病床数:19床、看護職員数:26人(うち助産師11人)、産科医師数:10人(常勤2人、非常勤8人)、年間分娩件数:746件(2015年度)、アドバンス助産師:7人、平均経験年数14年(全国平均17.4年)、平均年齢38.5歳(全国平均42.8歳)

2015年12月に誕生した「アドバンス助産師」。助産実践能力習熟段階(クリニカルラダー)レベルV認証制度(CLoCMiP<クロックミップ>レベルV認証制度)の認証機関である一般財団法人日本助産評価機構が5,562人を認証した。
新連載では、アドバンス助産師が、どのように認証申請し、現在どのような活動をしているか、3回にわたりレポートする。

福島県は3人に1人がアドバンス助産師

福島県のアドバンス助産師は159人。就業助産師数は466人(平成26年衛生行政報告例)で、就業者に対する合格者の割合が全国で一番高い34.1%だった。古川産婦人科では、助産師11人のうち7人がアドバンス助産師の認証を受けた。残りの4 人は産休前後や3〜4年目の助産師などで、今後、時期をみて申請する。

大橋美貴副看護部長(アドバンス助産師)は「申請のきっかけは、福島県看護協会の橋本ゆみ助産師職能委員長から声が掛かったことです。ただ、全てが初めてのことで、期限が迫る中、研修を受けたり申請書類の不備で再送したりなど、苦労しました」と振り返る。

申請には施設内の理解が不可欠だ。同院では古川宣二理事長からも賛同があり、申請費5万円の半額が補助された。古川理事長は「助産師は保健指導だけでなく胎児スクリーニングなどの技術も必要」という考えで、助産師外来も理事長の声掛けで08年に導入した。アドバンス助産師については「認証を受け、院外に専門性を証明でき信用度が高くなる」と評価する。

実習受け入れが研修につながった

同院は、産科診療所では数少ない実習施設で、福島県立総合衛生学院助産学科の基礎および応用の実習と、看護学校(2校)の母性看護学の実習を受け入れている。その総合衛生学院元教務の安藤節子さんが、申請要件に必要な研修の一部について講師を申し出てくれた。その他の必須研修の開催も講師の手配が課題だったが、震災後に一時、産科を閉鎖した星総合病院の助産師6人を、半年〜1年間出向受け入れしていた関係もあり、同院の條有里子教育部長に依頼することができた。このほか、日本看護協会のオンデマンド研修を取り入れた。

同院で研修を開催する際には、近隣病院の助産師にも参加案内を行い、地域一丸となって申請を迎えた。大橋副看護部長は「研修を受ける機会が増えて、外部研修だけでなく院内での勉強会を自ら企画・実施するようになりました」と、認証前後の変化を語る。専門的自律能力の強化にも一部つながっているようだ。

福島のお産を守りたい

アドバンス助産師の活動としては、「おっぱい外来」「助産師外来」「妊娠初期・中期・後期の妊婦健康診査」「実習指導」などがあり、分娩は助産師が主体的に関与している。いずれも認証を受ける以前からの担当業務であり、認証後の業務に大きな変化はないが、今は「第1回福島県おっぱい外来研究会」の準備を同院のアドバンス助産師が担っている。

この研究会は古川理事長が務める福島県産婦人科コ・メディカル研究会の主催(福島県助産師会共催、福島県産婦人科医会、福島県看護協会後援)で、目的は「授乳期の乳房ケアを中心として、それに関わる問題を医師、保健師、助産師、看護師などが連携し、地方自治体の協力を得ながら解決に導く」こと。6月4日に、ビックパレット福島(郡山市)で開催する。

東日本大震災・原発事故から5年がたち、里帰り出産も増えてきた福島県。職能団体や地域の医療機関と連携して院外活動を展開する助産師らの姿に「ふるさと・福島のお産を守りたい」という思いが伝わってきた。

香川大学医学部附属病院(香川県三木町)

  • 病床数:周産期科女性診療科59床・母体胎児集中治療室(MFICU)6床、看護職員数:63人(うち助産師42人)、産科医師数:13人(常勤11人、非常勤2人)、年間分娩件数:614件(2015年度)、アドバンス助産師:16人、平均経験年数17.8年(全国平均17.4年)、平均年齢40.8歳(全国平均42.8歳)

香川県の就業助産師数は290人(平成26年衛生行政報告例)と全国的に見ると少ない。だが、アドバンス助産師数92 人は、就業助産師に対して31.7%と全国で3番目に高い割合を誇る。経験を積んだ助産師が多い同県だが、県内の助産師養成数は年10人。「平成27年看護関係統計資料集」を見るとそのうち県内就業は5人のみとなっている。助産師が不足している状況が続いている。

助産師出向のモデル事業に参加

そうした県内の助産師不足や偏在是正への協力を主な目的に、香川大学医学部附属病院は「助産師出向支援モデル事業」に出向元病院として参加した。同事業は、2013・14年度に日本看護協会が厚生労働省看護職員確保対策特別事業として、香川県看護協会など1都14県の看護協会に委託したものだ。

出向助産師として同院から選ばれた2人のうち1人が、助産師歴22 年目で昨年アドバンス助産師として認証を受けた市川典子さんだ。市川さんは1年半前の出向時には分娩介助件数が1,000件を超え、すでにCLoCMiP レベルⅢの実力を持つベテランだったことから、白羽の矢が立った。出向先は、社会医療法人財団大樹会総合病院回生病院の産科で、期間は2014年12月〜15年2月の3カ月間。出向先の夜勤者不足を補うことや教育的な関わりが期待されていた。

出向で磨かれたフィジカルアセスメント能力

香川大学医学部附属病院は、大学病院ということもあり産科医は13人と多く、分娩時に医師が立ち会う時間も長い。助産師は分娩の進行について、医師に相談し指示を仰ぎやすい環境にある。一方、出向先の回生病院では、当時産科医が3人(常勤)で、夜間は医師が当直制ではなくオンコール体制だった(当時の年間分娩件数は479件)。

市川さんは「そのような状況では、助産師が分娩で起こり得ることを一手に担わなければならず、どのタイミングで医師を呼ぶか、予測をしなければなりませんでした。判断するにあたっての考え方、姿勢を学ばせていただきました」と振り返る。自施設での分娩件数は年18件(15年度)だが、回生病院では出向していた3カ月間だけでその半数を超える11件も介助したという。

CLoCMiPレベルⅢ認証申請では、申請要件の1つに「分娩介助実施例数100件以上」という項目があるが、自施設では助産師数が多く分娩介助の経験を積むのに年数がかかる場合などは、出向という形で他施設で経験を積むという仕組みも考えられそうだ。

ポートフォリオは「思い出の掘り起こし」

同院には香川県看護協会の助産師職能委員を務める職員がいたため、CLoCMiPの導入はスムーズだった。副病院長兼看護部長の筒井茂子さん(認定看護管理者)は「ALL JAPANで進める制度ということで賛同しました。助産師が今どのレベルにいるかという振り返りもでき、キャリアの広がりにつながったら良いと、チャレンジしてほしいと思いました」と語る。

申請要件の研修は、院内の医師や大学の看護学科に講師を依頼できた。県の補助事業のNCPR(新生児蘇生法)研修を同院で担った際には、小児科医が申請要件「Bコース以上」を超えるAコースを追加で開催してくれ、インストラクター1人を出すこともできた。

同院ではポートフォリオを“思い出の掘り起こし”と意味付けし、過去のケースを今ならどう介入するかと振り返りつつ楽しむことができたという。すでにCLoCMiPレベルⅢの実力を持っていた市川さんの業務に変更はないというが「多くの研修を受け、新しい知識で助産診断ができるようになったと思います」と変化を語る笑顔がいきいきと輝いていた。

那須赤十字病院(栃木県大田原市)

  • 病床数:病院全体460床、産科24床、バースセンター(院内助産)5床、看護職員数:産科・バースセンター配属助産師24人(常勤22人、非常勤2人)、年間分娩件数:878件(2015年度)、アドバンス助産師:9人、平均経験年数21.6年(全国平均17.4年)、平均年齢45.6歳(全国平均42.8歳)

那須赤十字病院が、明るく開放感あふれる新病院に移転したのは4 年前の2012年7月。同院のある栃木県大田原市は福島県に隣接しており、11年の東日本大震災で旧病院の屋根が崩れるなどの被害が発生。産科を閉鎖する状況に追い込まれた。

震災をきっかけに院内助産を導入

建物の被害が大きかったため、入院していた母子は自宅などに一時帰宅した。産科病棟が使用できないため、発災の翌日には小児科を間借りして産科機能を再開。直後は、プレイルームで分娩を行った。自身もアドバンス助産師である看護部長の橋美知子さん(認定看護管理者)は「院内助産ができるようにとフリースタイル分娩について学んでいたため、プレイルームでの分娩に踏み切れました」と振り返る。

この経験がきっかけとなり、院内助産のマニュアル整備が進んだ。産科医に確認しながら体制を整え、新病院の産科病棟横に5床の「バースセンター」(LDR;陣痛分娩室)を開設。移転後にそのバースセンターで正式に院内助産を始め、2015年度は70件の分娩があった。

助産師が自律して行う助産ケア

同院には9人のアドバンス助産師がいる。師長の相馬幸子さん(アドバンス助産師)は「今後、バースセンター配属の全ての助産師が認証を受けることを目指したい」と語る。所属する助産師は、ここでの分娩を予約した妊婦を対象に行う「バースセンター外来」も担っている。同外来は22週から開始するが、医師の妊婦健康診査は24週、30週、34週、40週のみ。助産師が妊娠期から分娩・産褥まで継続して受け持つことで、妊産婦も安心し、働く助産師の満足度も高い。

今では助産師が自律して活動する同院だが、04年に始まった新医師臨床研修制度により産科医が減って分娩数が半減し、助産師のモチベーションが低下したことがあった。助産師の専門性を発揮する場を作るため、また、社会的なニーズを踏まえ「助産師外来」を07年から開始した。アドバンス助産師が、中期検査後に1回、後期検査以降に1回、ほぼ全例に対して妊婦健康診査を実施している。

 CLoCMiPレベルⅢ認証申請では、すでに赤十字共通のラダーがあり各自ポートフォリオなどをまとめていたことから、比較的スムーズに準備ができた。申請要件の“分娩介助例数100件以上”は、同院なら3年経験すればクリアできる数だという。パソコンを使っての申請が難しいと感じる助産師のため、相馬さんは医療情報課に協力を依頼し、WEB申請できる環境も整えた。ことしは、7人が申請を予定している。

助産師出向を活用し認証申請へ

栃木県のアドバンス助産師は151人。就業助産師462人(平成26年衛生行政報告例)に対して32.7%と全国で2番目に高い割合だ。複数いる施設も多く、鹿沼市の上都賀総合病院もその1つ。助産師12人中7人がアドバンス助産師だ。本年度はさらに3人が申請を予定している。同院は12・13年度の2年間、常勤の産科医が不在で、分娩受け入れを休止していた。この間、分娩介助の経験が積めなかったこともあり、申請要件の分娩介助例数100件に達しない助産師がいた。そこで分娩介助経験を積むことを目的に2015年、助産師出向支援導入事業(県から委託を受け栃木県看護協会が実施)に参加。県内の産科クリニックに、2人が各3カ月間出向し、約20件ずつ介助できた。2人とも申請要件を満たし、申請準備を進めている。

日本助産評価機構は、8月に本年度の認証申請を受け付ける。昨年度は5,562人が認証を受けた。ことしは何人に認証書が届くだろう。