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助産師の倫理綱領(1999年)
綱領
- 【助産における関係性】
- 助産師は、女性が情報を得た上で選択する権利を尊重し、女性が自己選択の結果に対する責任を引き受けることを促進する。
- 助産師は、女性と連携を図り、女性が自己のケアに関する決定に積極的に参加する権利を支持し、それぞれの文化・社会において女性と家族の健康に影響を与える問題に対して、女性が自ら声を上げるようその力を高める。
- 助産師は、女性とともに政策・財政機関と連携を図り、保健サービスに対する女性のニーズを明確にし、優先順位と入手可能性を考慮しつつ資源の公正配分を保証する。
- 助産師は、専門職としての役割を果たす上で相互の支援と支持を図り、自己および他の助産師の自己価値観を積極的に育てる。
- 助産師は、他の保健医療専門職と連携を図り、ケアに対する女性のニーズが助産師の能力を超えている場合は、必要に応じて相談・紹介を行う。
- 助産師は、実践領域に関わる人々の相互依存性を認識し、内在する葛藤の解決を積極的に図る。
- 助産師は、道徳的価値をもつ人間として自己に対する責任を有しており、道徳にかなう自己尊重および自己の統合性保持の義務がある。
- 【助産の実践】
- 助産師は、女性および出産に臨む家族のケアを行う際に、文化的多様性を尊重する とともに、当該文化における有害な行為をなくすよう働きかける。
- 助産師は、女性が所属社会において出産に対して現実的な期待をもち、少なくとも妊娠・出産によって傷つくことがないよう奨励する。
- 助産師は、あらゆる環境および文化において安全な出産を保証するために、その専門的知識を活用する。
- 助産師は、ヘルスケアを求める女性に対して、その状況がどのようなものであっても、精神的・身体的・情緒的・霊的ニーズに応える。
- 助産師は、あらゆるライフステージの女性、家族、他の保健専門職従事者に対して、健康増進における効果的な役割モデルとして行動する。
- 助産師は、助産師としてのキャリアを通して、人格的・知的な成長および専門職としての成長を積極的に目指し、その成長を日々の実践に反映させる。
- 【専門職としての助産師の責任】
- 助産師は、プライバシー権を保護するためにクライエント情報の秘密を守り、情報を共有する場合には適切な判断に基づいて行う。
- 助産師は、自己の決定と行動に対する責任を有し、女性へのケアの結果に関する説明責任を有する。
- 助産師は、道徳的に強い抵抗を感じる行動への参加を拒否することができる。しかし、個人の良心を重視することで、基本的な保健サービスを受ける機会を女性から奪うようなことがあってはならない。
- 助産師は、倫理と人権の侵害が女性や子どもの健康に与える害を理解し、これらの侵害をなくすよう働きかける。
- 助産師は、すべての女性および出産に臨む家族の健康を増進する保健政策の策定と実施に参加する。(1999年5月改訂)
- 【助産の知識と実践の向上】
- 助産師は、助産の知識の発展が、人としての女性の権利を保護した上での活動に基づくものであることを保証する。
- 助産師は、同僚評価や研究など様々な過程を通じて、助産の知識を開発し、共有する。
- 助産師は、助産学生および助産師の正規の教育に参加する。
倫理綱領のための用語解説集
ICMは、この倫理綱領の活用を図り、これが助産実践および助産師にとって適切であるかを検証することを目標としている。内容理解に関わる要素の一つとして、様々な文化や社会で言語がどのように用いられているかという点が挙げられる。そこで、ICM 倫理綱領で用いられている各用語を以下のように定義する。
ヘルスケアへのアクセスにおける公平性 (前文):
限られた資源を、ニーズに基づいて適切に分配すること。たとえば、社会的弱者である人口集団やグループにおける健康ニーズやサービスへのアクセスに対しては、それらを自ら購える人々に対する以上に、注意・関心を払うこと、などである。
情報を得た上で選択する権利 (1-1):
「情報を得た上で」とは、活用可能な選択肢のそれぞれにともなうリスクおよび利益、得られる結果に関して、女性が完全な情報を得て、それを理解すること。
人々の相互依存性 (1-6):
助産師は女性や他の人々との関係の中で活動しているが、そこでは、何が正しく、何をすべきかという点について常に意見が一致するとは限らない。従って、助産師はクライエントや同僚と意見の合わない点について、その理由を理解するよう努めることが重要である。しかし助産師は、理解するだけにとどまるものではない。倫理的なケアを継続する上で解決を要する対立があれば、これを解決するよう努めることも重要である。
個人の良心 (3-3):
道徳的見解について熟考・分析し、それを堅固に保持すること。この条項の文脈としては、必要なケアが他の人から提供される場合にのみ、助産師はケアの提供を拒否できる、ということである。
専門職 (前文):
「専門職である」ということは「倫理的である」ということであり、倫理的でなければ専門職ではない、という考え方を示す。
専門的知識 (2-3):
正規の教育機会および私的な教育機会を通じて得られた助産の知識で、実践能力を高めるもの。
専門職としての責任 (3):
実践・教育・研究のいずれにも限局されることのない、助産師の幅広い倫理的義務・責務。
ケアの結果 (3-2):
助産師は、自己の決定や行動がもたらす結果に関して責任を有する。助産師は、自らがコントロールできない事柄(例:遺伝上の問題)の結果に関して責任を負うことはない。権限をもつ人が、助産師に非倫理的な実践を指示する場合がある。こうした状況における難しさは十分に理解できるが、助産師がそうした指示に従うことは、やはり、非倫理的である。しかし助産師は、こうした指示に従わない場合のリスクについても認識しておく必要がある。
人としての女性の権利 (4-1):
研究への参加に関連する人権としては、プライバシー、敬意、真実の告知、善行と無害、自律、インフォームド・コンセントが挙げられる。
あらゆるライフステージ (2-5):
助産ケアは、出産に関連するケアだけにとどまらない。助産師はあらゆる年齢の女性をケアするが、そのなかには終生、妊娠や出産を経験しない女性も多い。またこの語は、女性への生殖ケアと婦人科ケアの双方に言及するものである。
女性が人として (前文):
女性は、人として尊厳を有していることから敬意をもって遇される。(ものとして扱われるのではない。)真実の告知、プライバシー、自律、インフォームド・コンセント、善行と無害などの倫理的原則が、女性と助産師のあらゆる相互作用を方向付ける。
倫理綱領の倫理的分析
倫理綱領というものは、多くの場合、普遍的な倫理原則と「専門職集団」が掲げる固有の価値観とを融合させたものである。以下に、「ICM 助産師の国際倫理綱領」の各章の基盤をなす倫理原則とその概念を簡潔に分析する。
【倫理綱領の開発の経緯】
ICM理事会より、助産が女性のニーズに対応する際の道徳的背景を明記した倫理綱領の作成が要請された。このICM 倫理綱領の開発の経緯をお読みになれば、そこに含まれる一つ一つの条項や考え方が採用された理由および、その他の項目が採用されなかった理由をより良く理解していただけるものと思う。この倫理綱領の草案は、バンクーバー(1986年5月)、ハーグ(1987年)、スペイン(1991年)で開催された一連のワークショップを通じて作成された。
草案の最終稿はマドリードでの執行委員会で承認され、ブリティッシュ・コロンビア州・バンクーバーにおけるICM評議会を経て、1993年5月6日に採択された。
倫理綱領の開発に際して、まず、倫理学の体系的検討および、個人の道徳的発達に関する理解、医学・看護領域における倫理綱領の開発史に関する調査を行った。続いて、ICM定款に記されたICMの目標と目的に内在する価値観および、ICM・WHO・FIGOによる助産師の定義、1992年までに採択されたICM所信声明などの分析を行った。
ICM倫理綱領にグローバルな視点を盛り込むために、個々の団体の倫理綱領よりも広い意味を指し示すような記述を採用し、文化的・社会的・民族的多様性の尊重を目指した。1991年の1年間にICM本部に届けられた7つの助産師団体の倫理綱領を分析した結果、倫理的関心事項として次の項目が明らかになった:
安全、能力、責務、守秘、適切なコンサルテーションと紹介、人間の尊厳の尊重、クライエントが決定に参加すること、助産の知識開発と母子保健政策策定への参画、他のチームメンバーとの敬意に満ちた相互関係、健康増進、正義と公正、差別の排除、将来の助産師の育成、である。
ICM倫理綱領の起草にあたって常に留意した点は、分かりやすさ、文化に配慮した言葉の選択、その世界普遍的な性質などである。加えて、次の2つが重要であるという点で合意が得られた。第一に、ICM 倫理綱領は、個のレベルでの倫理原則にも配慮をしつつ、可能な限り常に、世界的(普遍的)なレベルでの倫理原則を推進するものであること、第二に、法律および法的実体に関する言及は意識的に避けることである。倫理と法律は互いに関連しているが、法律は国によって異なる。通常、倫理または倫理体系は法律を尊重しているが、ときには倫理が法律を超えることもある。
この冊子冒頭の「はじめに」において述べたように、この「助産師の国際倫理綱領」が「生きた」文書となることを目指している。この文書に対する理解を促進し、その有用性を高める上で、皆さまからご意見やご助言を頂ければ幸いである。
【倫理綱領に関するQ&A】
- 倫理綱領とは何ですか?
- 倫理綱領とは、専門職およびその従事者の信念と価値観を社会に向けて言明したものです。「ICM 助産師の国際倫理綱領」は、「助産師」を名乗る人々の目標および価値観、道徳を言明したものです。つまり、助産専門職が助産実践者にとっての道徳的行動として定めた事柄を、一般社会に向けて述べたものです。
- なぜ、倫理綱領が必要なのですか?
- 倫理綱領とは、専門職従事者自身と一般社会の人々の双方に対して、当該の専門職集団の特徴を具体的に明示するものです。さらに、近年、社会と技術の変化が激化するなかで倫理的な対応を必要とする状況が増えているため、明確な倫理綱領を備えることが必須となっています。そして、世界的なコミュニケーションの頻度や速度が増大していることから、世界中の専門職助産師にとっての共通基盤・共通言語として、助産師が共有する信念や価値観を公式に表明するものを開発することが不可欠となってきました。
- 倫理綱領では対応できないことがありますか?
- 倫理綱領は、助産ケアにおける倫理的実践や「善なる」判断を約束するものではありません。また、個々の場面でどのように倫理的判断を下したらよいのか、あるいは何をなすべきか、ということを示すこともできません。また、倫理綱領の誤用も不可避的に起こり得ます。また、倫理綱領は、検討や決議のための具体的論点を提供するものでもありません。さらに、不確実な状況や「知らない」状況、あるケースに関して「何が正しい行動か」を規定する既存の仕組みがない状況において助産師が負う責任や、その中で生きて活動することに伴なう痛みを取り除くこともできません。
【倫理綱領の活用に関する提言】
専門職の倫理綱領の価値は、その専門的実践のあらゆる場面で活用できるかどうかという点に存する。助産師にとって実践の範囲とは、直接ケアの提供、他者の教育、管理、研究である。以下は「助産師の国際倫理綱領」の活用に関する提言である。
日々の実践の中で、倫理綱領は、女性や出産に臨む家族のケアに際して何を「為すべきか」という判断を迫られたときに、ツールあるいは参照基準として重要な役割を果たす。決定に際して、倫理綱領の各条が確固とした方向性を示さないとしても、倫理綱領(またはその基盤となっている倫理原則)から行動の枠組みを読み取ることができるだろう。例えば、女性に対する善を促進し害を防ぐための方法を選択するなどである。 実践家は、女性とその家族にとって最善の結果を得るために他者と折衝するときに、この倫理綱領にある規準を用いることができる。この倫理綱領をコピーして掲示することにより、一般の人々との共有を図ることができる。
教育において助産教員は、学生が、道徳的主体となることの意味を理解し、倫理的な実践を行い、助産専門職において主流となっている価値観を把握・理解・受容できるように援助する義務を負っている。教育方法としては、倫理綱領の各条項の価値分析および、助産実践の場で生じるクリティカル・インシデントの倫理的分析にこの倫理綱領を活用する、この倫理綱領の基本的な信条と他の専門職のものを比較する、などが挙げられる。クリティカル・インシデント分析は、実践の場における決定を倫理綱領の諸原則および個人的な価値観と照合して検討するもので、いずれの教育レベルにおいても強力な教育手法である。
管理において助産師は、この倫理綱領を用いて、倫理的実践を行うための環境整備を行うことができる。管理者はこの倫理綱領の条項を用いて、助産師とクライエントの関係のあり方を明確にし、倫理ラウンドや、職員が力を発揮できるような倫理的環境の創設のための枠組みとすることができる。
研究に関しては、助産師がとるべき倫理的アプローチがこの倫理綱領のIII.aおよびIVに明記されている。研究者は、助産師であるかないかを問わず、これらの基本原則を遵守すべきである。