国際情報

助産師の倫理綱領の倫理的分析

はじめに

倫理綱領というものは、多くの場合、普遍的な倫理原則と「専門職集団」が掲げる固有の価値観とを融合させたものである。以下に、「助産師の倫理綱領」の各章の基盤をなす倫理原則とその概念を簡潔に分析します。

  • 助産における関係性
    • 女性の自律と責務
    • 女性の自律と「人としての平等」
    • 資源の分配における正義/公平性
    • 人間の尊厳の尊重
    • 保健専門職者の能力と相互依存、安全性
    • 相互の尊重
  • 助産の実践
    • 他人への尊敬、善行と無害
    • 決定におけるクライエントの責務、無害、安全
    • 安全
    • 人間の尊厳の尊重、女性を全人的な存在として遇する
    • 健康増進:自立性の達成と維持、善行と無害、資源の分配
    • 実践における能力
  • 専門職としての助産師の責任
    • 守秘
    • 助産師の責務
    • 助産師の良心条項:助産師の自律と人間的資質の尊重
    • 保健政策の開発:正義、善行
  • 助産の知識と実践の向上
    • 人としての女性の権利の保護
    • 助産師の責務、安全、能力
    • 専門職としての責任:全ての専門職者が善行と無害を果たせるよう能力を高める

ICM 倫理綱領の開発の経緯

ICM理事会より、助産が女性のニーズに対応する際の道徳的背景を明記した倫理綱領の作成が要請された。このICM 倫理綱領の開発の経緯をお読みになれば、そこに含まれる一つ一つの条項や考え方が採用された理由および、その他の項目が採用されなかった理由をより良く理解していただけるものと思う。この倫理綱領の草案は、バンクーバー(1986年5月)、ハーグ(1987年)、スペイン(1991年)で開催された一連のワークショップを通じて作成された。

草案の最終稿はマドリードでの執行委員会で承認され、ブリティッシュ・コロンビア州・バンクーバーにおけるICM評議会を経て、1993年5月6日に採択された。

倫理綱領の開発に際して、まず、倫理学の体系的検討および、個人の道徳的発達に関する理解、医学・看護領域における倫理綱領の開発史に関する調査を行った。続いて、ICM定款に記されたICMの目標と目的に内在する価値観および、ICM/WHO/FIGOによる助産師の定義、1992年までに採択されたICM所信声明などの分析を行った。

ICM倫理綱領にグローバルな視点を盛り込むために、個々の団体の倫理綱領よりも広い意味を指し示すような記述を採用し、文化的・社会的・民族的多様性の尊重を目指した。1991年の1年間にICM本部に届けられた7つの助産師団体の倫理綱領を分析した結果、倫理的関心事項として次の項目が明らかになった:

安全、能力、責務、守秘、適切なコンサルテーションと紹介、人間の尊厳の尊重、クライエントが決定に参加すること、助産の知識開発と母子保健政策策定への参画、他のチームメンバーとの敬意に満ちた相互関係、健康増進、正義と公正、差別の排除、将来の助産師の育成、である。

ICM倫理綱領の起草にあたって常に留意した点は、分かりやすさ、文化に配慮した言葉の選択、その世界普遍的な性質などである。加えて、次の2つが重要であるという点で合意が得られた。第一に、ICM 倫理綱領は、個のレベルでの倫理原則にも配慮をしつつ、可能な限り常に、世界的(普遍的)なレベルでの倫理原則を推進するものであること、第二に、法律および法的実体に関する言及は意識的に避けることである。倫理と法律は互いに関連しているが、法律は国によって異なる。通常、倫理または倫理体系は法律を尊重しているが、ときには倫理が法律を超えることもある。

この冊子冒頭の「はじめに」において述べたように、この「助産師の国際倫理綱領」が「生きた」文書となることを目指している。この文書に対する理解を促進し、その有用性を高める上で、皆さまからご意見やご助言を頂ければ幸いである。

倫理綱領に関するQ&A

  • 倫理綱領とは何ですか。
    • 倫理綱領とは、専門職およびその従事者の信念と価値観を社会に向けて言明したものです。「ICM 助産師の国際倫理綱領」は、「助産師」を名乗る人々の目標および価値観、道徳を言明したものです。つまり、助産専門職が助産実践者にとっての道徳的行動として定めた事柄を、一般社会に向けて述べたものです。
  • なぜ、倫理綱領が必要なのですか。
    • 倫理綱領とは、専門職従事者自身と一般社会の人々の双方に対して、当該の専門職集団の特徴を具体的に明示するものです。さらに、近年、社会と技術の変化が激化するなかで倫理的な対応を必要とする状況が増えているため、明確な倫理綱領を備えることが必須となっています。そして、世界的なコミュニケーションの頻度や速度が増大していることから、世界中の専門職助産師にとっての共通基盤・共通言語として、助産師が共有する信念や価値観を公式に表明するものを開発することが不可欠となってきました。
  • 倫理綱領では対応できないことがありますか。
    • 倫理綱領は、助産ケアにおける倫理的実践や「善なる」判断を約束するものではありません。また、個々の場面でどのように倫理的判断を下したらよいのか、あるいは何をなすべきか、ということを示すこともできません。また、倫理綱領の誤用も不可避的に起こり得ます。また、倫理綱領は、検討や決議のための具体的論点を提供するものでもありません。さらに、不確実な状況や「知らない」状況、あるケースに関して「何が正しい行動か」を規定する既存の仕組みがない状況において助産師が負う責任や、その中で生きて活動することに伴なう痛みを取り除くこともできません。

倫理綱領の活用に関する提言

専門職の倫理綱領の価値は、その専門的実践のあらゆる場面で活用できるかどうかという点に存する。助産師にとって実践の範囲とは、直接ケアの提供、他者の教育、管理、研究である。以下は「助産師の国際倫理綱領」の活用に関する提言である。

日々の実践の中で、倫理綱領は、女性や出産に臨む家族のケアに際して何を「為すべきか」という判断を迫られたときに、ツールあるいは参照基準として重要な役割を果たす。決定に際して、倫理綱領の各条が確固とした方向性を示さないとしても、倫理綱領(またはその基盤となっている倫理原則)から行動の枠組みを読み取ることができるだろう。例えば、女性に対する善を促進し害を防ぐための方法を選択するなどである。

実践家は、女性とその家族にとって最善の結果を得るために他者と折衝するときに、この倫理綱領にある規準を用いることができる。この倫理綱領をコピーして掲示することにより、一般の人々との共有を図ることができる。

教育において助産教員は、学生が、道徳的主体となることの意味を理解し、倫理的な実践を行い、助産専門職において主流となっている価値観を把握・理解・受容できるように援助する義務を負っている。教育方法としては、倫理綱領の各条項の価値分析および、助産実践の場で生じるクリティカル・インシデントの倫理的分析にこの倫理綱領を活用する、この倫理綱領の基本的な信条と他の専門職のものを比較する、などが挙げられる。クリティカル・インシデント分析は、実践の場における決定を倫理綱領の諸原則および個人的な価値観と照合して検討するもので、いずれの教育レベルにおいても強力な教育手法である。

管理において助産師は、この倫理綱領を用いて、倫理的実践を行うための環境整備を行うことができる。管理者はこの倫理綱領の条項を用いて、助産師とクライエントの関係のあり方を明確にし、倫理ラウンドや、職員が力を発揮できるような倫理的環境の創設のための枠組みとすることができる。

研究に関しては、助産師がとるべき倫理的アプローチがこの倫理綱領のIII.aおよびIVに明記されている。研究者は、助産師であるかないかを問わず、これらの基本原則を遵守すべきである。

ICM 1999年5月

2003年、日本看護協会 訳