辻 俊行さん(岐阜県)

協会ニュース2017年12月号 連載:特定行為研修 修了看護師活動レポート

あらゆる場、あらゆる人への看護に活かす 
第1回

辻 俊行さん
岐阜大学医学部附属病院

辻 俊行さん

「特定行為に係る看護師の研修制度」が施行されて2年余り。本連載では、制度を活用して、チーム医療や在宅療養支援に力を発揮する研修修了者の実践を紹介する(全4回予定)。

他職種の視点を看護に生かす

日本のほぼ中央に位置する岐阜県。濃尾平野に広がる都市部に対し、多くを占める山間部は交通や医療資源に不便がある。岐阜大学医学部附属病院は、県内唯一の大学病院として、2011年に救急医療用ヘリコプターの運用に乗り出すなど、課題に向き合ってきた。特定行為研修制度に関しても、15年11月に委員会を立ち上げ、活用を検討してきた。その同院で、初の研修修了者として活動するのが、高次救命治療センターで副看護師長を務める辻俊行さんだ。
辻さんは、14年に救急看護認定看護師の資格を取得し、救急外来や集中治療室、フライトナース業務などに当たってきた。瞬時の対応が求められる救急領域で経験を積み、対応力を磨く一方、実践に至った過程の振り返りと言語化にも力を入れるなど、認定看護師としてより良い看護の提供に向け取り組んでいた。

こうした中、さらなるステップとして打診を受け16年秋から受講したのが、日本看護協会の認定看護師を対象にした特定行為研修だった。廣瀬泰子副病院長・看護部長は、教育内容への信頼と、認定看護師同士の中で辻さんが刺激を受けることを狙い、派遣したという。
辻さんも、認定看護師歴や分野がさまざまな同期生と学べたことを得難い経験として挙げる。同時に、臨床推論や臨床薬理学といった科目を通し、他職種の思考や視点を学べたことも収穫だった。「認定看護師教育で看護学を深く学んだことに加え、特定行為研修で他職種の学問を学んだことが看護展開にプラスになっている」と、認定看護師が特定行為研修を受講する利点を語る。

チーム医療のハブ役として活躍

現在は、特別な体制や立場を設けず、日常の実践の中で活動を広げていくことを基本に、研修前とほぼ変わらない業務に当たるが、研修の成果は随所に現れてきている。以前であれば忙しい医師を待たざるをえなかった人工呼吸器の設定変更も、医師との事前の相談と手順書を基に、辻さんの判断でタイムリーに行うことで、人工呼吸器からの早期離脱に一役買う。
一方で、先日SpO2 が低下した患者さんに対しては、状態を見極めた上、体位変換をすることで状態が落ち着いた。「酸素濃度を上げれば危害になることもあり、特定行為の実施が最善でない場合もある」と辻さん。特定行為の適否を判断できるアセスメント力も研修の成果だ。

さらに「チーム医療のハブ」の役割も自認する。研修で身に付けた臨床推論などの素養によって医師の思考過程が理解できるようになった。看護師や患者さんに、医師の意図が正確に伝わっていなければ「通訳」することで、最適なケアの提供や治療・療養を支える。最近では医師のカンファレンスにも参加し、看護師らに治療方針を分かりやすく伝えるなど、辻さんが果たす役割の効果は医師も認めるところだ。
辻さんの指導医であり、院内の特定行為研修制度に関する委員会の委員長も務める吉田省造医師は「指示通りやれる看護師以上に、指示の意味を理解し及ぼす影響が分かる看護師は心強い」と、より積極的な活動を期待する。
廣瀬副病院長・看護部長は「段階的に活動を広げながら、周囲に好影響を及ぼしてほしい」と話す。人工呼吸器を装着し自宅で暮らす人もいることから、地域に活動の場が広がることも期待する。県内の医療に貢献しようとする同院で、辻さんの実践に熱い期待が注がれている。

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